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第21話 覚悟の夜這い ~女は度胸~

前回のお話……夜道で返り討ち

(真 ゜Д゜)ストレス発散♪

(男 ゜Д゜)キャー

「……お前さんはいったい何をしとるんかね?」


「み、見ての通りだ」


 見て分からないから訊いたんだけど……。

 今、俺の前にはミシェルが居る。

 居るというか腹の上に乗っている。

 仰向けでベッドに横たわる俺の身体に彼女が跨がっているのだ。

 何故(なにゆえ)このような状態に陥っているのか。

 俺への報復を考えていた馬鹿をストレス発散という名目でしこたまボコった後、そのまま路上に放置して水鳥亭へと帰宅。

 今頃は女性陣も夢の中であろうから話し合うのは明日にしようと静かに二階の部屋へと戻り、早々に眠りについた。

 ついたのだが、途中で息苦しさを覚えて目が覚めた。

 すると完全に俺からマウントを取った体勢のミシェルが目の前に居たという次第である。


「男に股がるなんてはしたないぞ。お嬢様」


「わ、私だって恥ずかしいんだ!」


「恥ずかしいならやるなよ」


 柔らかそうなネグリジェ風の寝巻姿で俺に跨っているミシェル。

 今の娘の姿を見たら、彼女の両親はどう思うだろうか。

 きっとラズリー伯爵は卒倒してしまうことだろう。

 シェリル夫人も……あの人の場合は面白がって変に煽りそうな気がしてきた。


「もう一回訊くぞ? お前は人の上で何をしとるんだ?」


「よ……」


「よ?」


「夜這いだ!」


 夜這い―――性交を目的に他人の寝所へ忍び込む行為。

 主に男性が女性に対して行うものなのだが……。


「逆じゃね?」


「待ってても来ないから私が来てやったのだ!」


「いや、そんな俺が夜這うこと大前提に話されても……」


 なんでキレ気味なんだよ。

 それにしても夜這いときたか。

 時間帯や状況からしてそうなのかなぁなんて予想はしてたけど、まさか本当に夜這いだったとは……。

 女性の方から態々夜這いに来てくれるなんて、男にとっては夢のようなシチュエーションと言えなくもないが、申し訳ないことにその気(・・・)にはなれなかった。

 ミシェルの言動や態度の所為か、全く夜這われてる気がしないため、どうにも色っぽい雰囲気にならないのだ。

 決して俺の身体や精神に問題がある訳ではない。


「なぁ、ミシェ―――」


「行かせないからな」


 俺の言葉を遮るミシェルの声は静かだが、とても硬く、強い緊張と覚悟のようなものを感じさせた。

 行かせないというのは、やはり日本のことか。


「元の世界になんて……帰らせないからな」


「そのための夜這いか」


 絵理達の話を聞いてミシェルなりに考えて出した結論が、今の状況という訳か。

 女性としては余りにも軽率な行動と言わざるを得ないが、その責任は全て俺にある。

 俺があの時、絵理達の前で答えを出さなかったから、彼女はここまで思い詰めてしまったのだ。


「何処にも行かせない。今更私達を、私を置いて消えたりなんて、そんなことは絶対に許さない……!」


「……」


「これでも伯爵家の娘だ。そんな私に手を出せばどうなるかくらい想像は付くだろう?」


 どちらかといえば手を出されそうなのは俺の方なんだけど……なんて冗談には応じてくれなさそうな様子。

 伯爵令嬢たるミシェルと関係を持った場合、いったい何が起こるのか。

 当然ながら天下の伯爵閣下が黙っちゃいないだろう

 如何にラズリー伯爵が温厚な性格をしていようとも、流石に実の娘を傷者にされて黙っている筈がない。

 あの人は心の底から家族を愛しているからなぁ。

 考え過ぎかもしれんが、領軍なんて差し向けられた日にはどうしたらいいものか。


「ミシェル、俺は―――」


「そ、それにマスミだって父親になれば、この世界に落ち着こうとするだろうし」


「……は?」


 父親って……俺が?


「自分の妻や子供を残してまでニホンに帰りたいとは思わんだろう?」


「え、ちょっと待って。そんな話だっけ?」


 お嬢様の口から飛び出たまさかの宣言。

 一夜の過ち的な感じではなく、今晩中に色々と既成事実を作って、俺の身を縛ろうと画策していたのか。

 できちゃった婚は必ずしも祝福されるとは限らんぞ。


「ミシェル。お前自分が何言ってんのか分かってる? それってつまりは俺と結婚するって意味だぞ? そんな大事なことを一時の感情で―――」


「私は本気だ! こんなことを冗談で言えるものか! というか好きでもない男と結婚したがる女がこの世に存在するかぁ!」


 顔を真っ赤に染めながら捲し立てるミシェル。

 彼女はそれ程の覚悟を決めて俺の部屋まで来たのだ。

 こんなにも想い慕われ、男冥利に尽きるというかなんというか。ぶっちゃけ相当気恥ずかしいです。

 だが本気でぶつかってきてくれる相手には、本気で応えねばなるまい。

 だから―――。


「マスミは何もしなくていい。私に任せておけ。天井の染みでも数えていればその内終わ―――」


「帰らないよ」


 ―――覚悟を決めた。

 この世界で生き続ける覚悟を。


「俺はこの世界に残る。これからもミシェル達の傍に居るよ」


 真っ直ぐにミシェルの目を見返し、自らの意思を言葉にした直後、バァンと音を立てて扉が開かれ、雪崩れ込むようにローリエ達が部屋の中へと入ってきた。


「やりましたね、ミシェル!」


「言質いただきました~」


 嬉しそうにミシェルの傍へ駆け寄るローリエとエイル。

 どうやら部屋の外でずっと様子を窺っていたらしく、突入するタイミングを見計らっていたようだ。

 ミシェルも気付いていなかったのか、先程よりも更に顔を真っ赤に染め、パクパクと何度も口を開閉させている。

 その内、火でも噴き出しそうだ。


「ほ、(ほど)いて下さい」


 何故か扉近くには、ロープで手足を縛られたユフィーが転がっている。

 多分、邪魔をしないようにとローリエ達に捕縛されたのだろう。

 あいつは変態だからしばらく転がしておいても問題なしと勝手な結論を出していると、枕元から『これで一件落着かのぅ』という声が届いた。

 なんやかんやで俺がどのような答えを出すのか、ニースも気になっていたらしい。


「あ、マスミさん。ミシェルと一緒になった場合、漏れなくわたしも付いてきますので。ちゃんとわたしのことも貰って下さいね?」


「わたしはぁ、第三夫人~」


「……検討させていただきます」


 いい加減、夜這い云々の雰囲気ではなくなってしまったので、ミシェルに腹の上から退いてもらう。

 腹部への圧迫感がなくなり、呼吸が楽になったことに安堵している俺に向けて、ローリエとエイルが第二第三の爆弾を投下してくる。

 好き放題言ってくれるなぁ。

 やれやれと嘆息しながら身体を起こせば、未だに顔の赤いミシェルが顔を寄せてきた。


「絶対に逃がさんからな」


「今更逃げたりしないって」


「私にここまで言わせたのだ。必ず―――」


 ―――責任は取ってもらうからな。

 挑むような視線でそんなことを宣言されてしまった。

 いよいよもって逃げ道を塞がれたか。

 いや、逃げたりしないけどね。


「あー、まあその、なんだ、えっと…………その内ね」


 なんとも煮え切らない中途半端な返答。

 我ながら情けないとは思いつつも、今はこれが精一杯なのである。

 そんな情けない返答に対して、ミシェルは怒るでも呆れるでもなくプッと軽く吹き出した後、揶揄うような微笑みを浮かべて「ヘタレ」と口にした。

お読みいただきありがとうございます。


次回更新は10/10(土)頃を予定しております。

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― 新着の感想 ―
[一言] そこまで決めたなら、日替わりで全員に手をだせや(笑)
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