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第16話 違法召喚 ~逃亡~

前回のお話……新たな日本人登場

(絵 ゜Д゜)はじめまして

(菜 ゜Д゜)よろー

 自らの正体が俺と同じ日本人―――〈異邦人(エトランジェ)〉であることを明かした篠宮絵里と八木坂菜津乃。

 彼女達との話を余人に聞かれたくないと判断した俺は、水鳥亭に一部屋しかない四人部屋―――女将さんに無理を言って借りた―――へと場所を移した。

 盗み聞きという名のプライバシー侵害行為を平然と実行し兼ねない不良従業員対策として、ローリエとエイルには扉付近に立ってもらっている。

 一応、絵理と菜津乃を此処まで連れて来てくれたアルナウトとフェイムの蜥蜴人(リザードマン)兄妹にも同席をお願いしたので、室内には九名もの人が居ることになる。

 多少の手狭さを我慢しつつ、絵理達の事情を聞くことにした。


「わたし達が日本からこの世界に来たのは、もう三ヶ月近くも前の話になります。隣国のテッサルタ王国によって召喚されたんです」


「召喚だと?」


 以前にミシェル達から聞いた話だが、異なる世界からの来訪者―――〈異邦人(エトランジェ)〉がこの世界にやってくる方法には幾つか種類がある。

 俺のように何の前触れもなく迷い込むような形で転移してくる者もいれば、所謂転生によってこの世界で新たな人生を送る者もいる。

 そして絵理達のようにこの世界の住人から召喚された者も〈異邦人(エトランジェ)〉に該当するそうなのだが……。


「そもそも召喚って、そんな簡単に出来るもんなのかね?」


「私に分かる訳がないだろう」


「召喚という単語そのものは知れ渡っているんですけど、詳しいことまでは……」


「秘匿情報~」


 女性陣が次々とお手上げしていく中、答えは意外なところから出てきた。


「召喚術。取り分け異界の門を開くような大規模な召喚は、一部の教会や神権国家だけが有する秘儀中の秘儀にございます」


「ユフィー、お前召喚のこと知ってるのか?」


「生憎、わたくしも詳しい方法までは存じ上げません。ですが本来、高位の存在や力ある勇者を異界より招く召喚とは、神より啓示を受けた巫女が中心となって行われる神聖な儀式。当然ながら様々な制約がございます。神託の巫女が誕生することすら極めて稀な筈なのですが……」


 もしや今は世界の危機なのでしょうかと惚けたように首を傾げるユフィー。

 ユフィーの説明を聞いた後、俺はちらりと絵理と菜津乃の方に視線を向けた。

 聞けば、二人とも十六歳の高校二年生。

 どちらも容姿―――ちなみに菜津乃は明るい茶髪のミディアムヘア―――は整っている方だが、言ってしまえばそれだけの話。

 何処にでも居そうな女子高校生というのが、彼女達に対する俺の印象。

 失礼ながら、二人が勇者と呼ばれる程の大それた存在には見えなかった。


「召喚されたのは二人だけ?」


「いえ、わたし達も含めて十一人です」


「結構な人数だな」


 年齢、性別、職業もバラバラな十一人。

 幼馴染で同じ高校に通っていた絵理と菜津乃を除けば、面識すらないメンバー唯一の共通点は、全員が日本人であることだけ。

 誰一人として召喚された時の記憶はなく、気付けば見知らぬ場所―――王城の広間に立っていた。

 混乱する十一人の前に現れる王国の重鎮達。

 一際豪奢な装いに身を包んだテッサルタ王国国王―――菜津乃曰く、肥え太った醜い豚オヤジ―――は怯える十一人の〈異邦人(エトランジェ)〉に向かってこう告げた。


「勇者達よ、魔物の脅威から世界を救ってほしい。そう言われました」


「テンプレ……」


 本当ですよねと言って力なく笑う絵理。

 当時の状況を思い出したのか、菜津乃は意味分かんないしと不快そうに吐き捨てた。

 唐突且つ一方的な要求をあっさりと受け入れる者。

 ふざけるなと反発する者。

 家に帰してくれと泣き叫ぶ者。

 様々な反応がある中、辛うじて冷静さを失っていなかった絵理は敢えて口を噤み、状況を静観することにした。


「あのクソデブオヤジ、この世から魔物を全部倒さないと日本には帰れないとか言い出したのよ! マジでふざけんなし!」


「魔物全部って……いやいやそんなん不可能でしょうよ。異世界の生態系ぶち壊せってか」


「勿論、嘘だと思いました。それに城の人達が何かを隠していることも薄々察してはいましたけど……」


 それを確かめる術はなく、見知らぬ世界に招かれてしまった彼ら彼女らには他に頼れるものもない。

 望むと望まざるとに関わらず、国王の要求に応じざるを得なかった。

 その瞬間から〈異邦人(エトランジェ)〉達の日常は変貌した。

 ひたすら戦闘訓練を積み重ねるだけの日々。

 城の外へ出ることは許されず、外部から情報を得ることも叶わない。


「一月程経った頃ですか。実際に魔物を討伐するために初めて外へ出る機会がやってきたんですけど、その時ですら騎士団の監視付きでした」


「何があっても外部とは接触させないつもりか」


 そんな軟禁生活が続いたある日、偶然にも絵理は知ることとなった。

 自分達が不完全な召喚に巻き込まれたという事実。

 王国の有益にならないと判断された場合、秘密裏に処分される危険があることを。

 以前からテッサルタ王国は勇者召喚の方法を探っており、手段は不明だが、今回その方法の一部を知り得ることに成功した。

 王国上層部は知り得た情報に独自の解釈とアレンジを加え、勇者召喚を実行に移した。

 その結果、十一人もの〈異邦人(エトランジェ)〉を召喚することに成功。

 だが召喚されたのは勇者などではなく、何の力も持たない一般人に過ぎなかった。


「訓練によってある程度戦えるようにはなりましたけど、とても勇者なんて呼べるものではありませんから」


「それで都合が悪くなったらポイか。最悪だな。みんなの方こそ被害者なのに」


「大臣達の話では、そもそも勇者召喚は一国が独自の判断で行っていいものではないそうです」


「つまり違法な召喚だったと?」


「はい。だから国はわたし達の存在を公にしなかったのだと思います」


 違法召喚に巻き込まれ、不便な軟禁生活を強制される〈異邦人(エトランジェ)〉達。

 自分達が危うい立場にあることを知った絵里は、直ぐ様菜津乃にも相談した。


「このまま城に……いえ、あの国に居続けてはいけないとわたしもなっちゃんも考えたんです。だからわたし達は―――」


 ―――その日の夜、城から逃亡したのだ。

お読みいただきありがとうございます。


次回更新は9/15(火)頃を予定しております。

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― 新着の感想 ―
[一言] うわぁ 何と言うか、うわぁ… こうして重ねられた違法召喚の末に、大した能力のない一般人に紛れた逸般人が召喚されたりするんだよねぇ(ある種のお約束的思考) その前にその暴挙を止められりゃいいが…
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