第13話 待ってないのに人来たる
前回のお話……ポンプアクション登場
(デ ゜Д゜)契約します!
(真 ゜Д゜)毎度
「デュフフフフ~」
「気持ち悪い笑みを浮かべながら、気持ち悪い笑い声を出すな」
「マスミさん、流石に今のお顔はちょっと……」
「歩いてるだけでぇ、逮捕されそ~」
ミシェル、ローリエ、エイル。
三者三様にそんな表情をするなと窘められてしまった。
いや、エイルだけは窘めるのと違ったけど……。
歩いているだけで逮捕とは、いったいどういうことだ。
自分の顔をペタペタ触っていると、ユフィーが割りと強めの口調で「そのようなことはございません」とキッパリ言い切った。
「夜に床の上で浮かべるものとしては、これ以上ない程に正しい表情でございます。まるで上から下まで全身を舐め回すかのような視線に晒された挙げ句に攻め立てられてしまったら、わたくしもう……!」
「お前はもう永久に口を開くな」
いったい何を想像しているのか、頬を真っ赤に染め、身悶えするかのように身体を捩らせるユフィー。
俺も人のことは言えんが、こいつの言動も大概だな。
むしろ出会った頃よりも悪化しているように感じるのは俺だけだろうか。
「舐め回すようにって、流石にそんな目はしとらんだろうが」
「割りとそんな感じだったぞ。正直、性犯罪者か変態にしか見えなかった」
「いや、それどっちも同じようなもん……ってマジで? 俺そんなにヤバい顔してたの?」
「そうですね。これまで見たことがない程にかなりヤバい表情でした」
「……なんかすんません」
全然自覚はないものの、どうやら女性陣を不快にさせてしまった―――ユフィーは例外―――ようなので、取り敢えず謝っておく。
セクハラとは何もボディタッチや卑猥な言動ばかりを指すのではない。
たとえ本人にそうした意図がなかったとしても、変な目で見られた、視線がイヤらしかったという女性側の主張さえあれば、セクハラは成立する可能性も有るのだ。
世の男達よ、気を付けろ。
「機嫌が良いのは分かるけどぉ、もうちょっと気を付けましょ~」
「そんな子供じゃあるまいし。ちょっと機嫌が良い程度で顔面崩壊する訳が……ムフフフフ~」
すまん。無理だった。
今手にしている物を見るだけで、勝手に顔がにやけてしまう。
呆れたミシェルから「だからその顔と声を止めろと言うに」と注意されるが、残念なことに自分の意思では止められそうになかった。
そのくらい今の俺は上機嫌なのである。
「だってお前見ろよこれ。ポンプアクションだぜ、ポンプアクション。まさか異世界来てまで拝めるとは思わなかったからさぁ」
「嬉しそうに言われても、私にはそのポンプアクションとやらのことはよく分からんぞ」
「多分、マスミさん以外の誰にも理解出来ないと思いますよ?」
現在、俺の手にはデイビットから譲り受けた銃―――ポンプアクション式の散弾銃が握られている。
彼の研究室で契約の握手を交わした後、「友好の証だ。持っていってくれたまえ。出来ればあとで感想も聞かせてほしい」と言って、俺に譲ってくれたのだ。
勿論、貰ってばかりでは申し訳ないし、対等の契約とも言えない。
さっそく俺も幾つかのアイディアをデイビットに伝えたところ、彼は目の色を変え「その手があったか!」と直ぐ様作業に取り掛かってしまった。
「……ついでに実包貰ってもいい?」
「好きなだけ持っていきたまえ!」
作業台へ齧り付いているデイビットの背中に向けて訊ねてみたところ、実に気前の良い答えが返ってきた。
言質も取れたことだし遠慮はするまいと目に付いた実包を片っ端から空間収納の中に突っ込んでいった。
置いてある実包が全てスラッグ弾なのは少々残念だったが、この際贅沢は言えん。
デイビットが他のショットシェルも作成してくれるのを待つとしよう。
一心不乱に作業をしているデイビットはこちらに見向きもしない。
「んじゃまあ今日のところはこれで失礼するよ。無理せん程度に頑張っとくれ」
「うむ。吉報を待っていたまえ」
やはり背中を向けたままのデイビットに軽く手を振り、彼の家を後にした俺達は寄り道せずに水鳥亭へと帰り、遅い昼食をみんなでいただくことにした。
そして食後のお茶を堪能しつつ、デイビットから貰った銃をお披露目していたのだが、どうにも女性陣の反応は芳しくない。
ポンプアクションの何たるかを説明しても、へーそうなんだーという気のない返事しか返ってこなかった。
もっと興味を持て。
「説明されたってぇ、分かんな~い」
「そうかい。ならば分かるようになるまで説明し続けてくれよう。耳の穴かっぽじってよく聞けぃ」
聞けぃと言い終える前から既に興味の無さ全開の女性陣。
余りと言えば余りなその態度に心が折れ掛けたものの、肩に乗っているレイヴンくんが女性陣を注意するかのようにガチガチと何度も大顎を鳴らす様に勇気付けられた。
―――お前らちゃんとご主人の話を聞かんかい!
言葉は理解出来ないが、そんな風に言ってくれているような気がした。
愛い奴め。あとでご褒美を上げよう。
「いいか、そもそもこの銃に備わっている動作方式はだな―――」
改めてポンプアクションの素晴らしさを説明しようとした矢先、頭上に影が差した。
俺の説明を遮るために来たのではなかろうかという絶妙なタイミング。
先日の森での経験―――巨大蜘蛛に押し潰され掛けた―――から頭上に影という構図そのものに若干の苦手意識を感じつつ、いったい何だと視線を上げれば―――。
「歓談中に失礼する。マスミ=フカミ殿に相違ないだろうか?」
―――全身を外套で覆った謎の人物が俺達を見下ろしていた。
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