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第12話 情熱のポンプアクション

前回のお話……ダブルバレル登場

(デ ゜Д゜)これを見よ

(真 ゜Д゜)欲しい

 俺は今、この世界で初めて銃器を目にした時以上の衝撃に襲われていた。

 あまりの驚きに早鐘を打つ心臓を必死に宥めつつ、デイビットに質問をする。


「……こいつがあんたの新作銃?」


「そうだ」


「一人で組んだんだよね?」


「無論だ。ここには私しか居ないからね」


「誰からのアドバイスも受けずに?」


「ああ、私なりに試行錯誤を重ねて、ようやく完成したのがこの銃だ」


「……あんた天才だわ」


「何の冗談だね?」


 冗談なものか。俺は本気で言っている。

 デイビットは紛れもなく天才だ。

 地球よりも科学技術が発展していない異世界で、誰からのアドバイスも受けず、たった一人でここまで辿り着いたのだから。

 これまで見てきた銃の動作方式は全て中折式だったが、デイビットが俺に見てほしいと言って渡してきた銃には、中折式とは異なる機構が施されていた。

 ポンプアクション―――銃身の下部に取り付けられた持ち手部分(ハンドグリップ)を前後にスライドさせることで空薬莢を排出し、薬室内に次弾を装填する。

 散弾銃(ショットガン)などによく用いられている動作方式だ。

 排出と再装填をほぼ同時に、しかも簡単に行えるため、ボルトアクションやレバーアクションなどの他の動作方式と比べて格段に素早い手動操作が可能となる。

 操作に手間が掛からないため、目標を確認してから狙い撃つまでに時間的余裕が生まれるのも利点だ。

 勿論、欠点も存在する。

 殆どのポンプアクションは機関部に弾倉を内蔵しているため、弾切れになったら弾薬を一発ずつ装弾しなければならない。

 この再装弾に時間が掛かるのだ。


「見た目は……昔のウィンチェスターに似てるかな」


「ウィンチェスター?」


「こっちの話。弾薬(タマ)の装弾数は?」


「四発だ。この銃の最大の特徴は銃身下部の―――」


 デイビットの説明を最後まで聞くことなく、俺はハンドグリップをスライドさせた。

 弾が装填されていないのは確認済みなので、銃口を穴だらけのドアの方に向けて構え、無言で引き金を引く。

 カチッという音を聞いた後、再びスライドからの空撃ちを行う。

 そのまま装弾数と同じ数だけ空撃ちをし、動作に問題がないことを確認し終えた時点で、俺はようやく構えていた銃を降ろした。


「―――持ち手を引くことで排出と装填をほぼ同時に行うのだが……って何故説明するまでもなく君は知っているのだ?」


地球(こきょう)じゃ割りと昔からあるタイプだしねぇ」


「なに!? 君の祖国では既にこの銃は採用されていると? ちょっと詳しく教えたまえ!」


「はいはいまた今度ねー」


 掴み掛かってくる勢いで迫るデイビットの顔を押しやりつつ、改めてウィンチェスターモドキの銃を観察する。

 たった一人でポンプアクションを完成させたのは本当に大したものだ。

 個人的には偉業と呼んでも差し支えないとすら思うが……。


「まだ足りないんだよな?」


 そう口にした途端、顔を押されながらもモガモガと抵抗していたデイビットがピタリと動きを止めた。

 そのまま数歩後ろに下がると疲れたように溜め息を吐いた。


「君の言う通りだ。確かに性能は向上したが、まだまだ足りていない」


 本来、ショットガンの本領は近接戦闘においてこそ発揮されるもの。

 その性質上、如何せん長距離での撃ち合いには不向きなのだ。


「構造そのものを見直す必要があるのかもしれない。そうなると弾薬も今のままでは駄目だろうし、うぅむ……」


「……なんでそこまで頑張るんだ?」


 ふと浮かんだ疑問をぶつけてみたところ、デイビットは「何故とは?」と心底不思議そうに首を傾げた。


「あんたもう宮仕えじゃないんだろ? だったら別に銃を造らなくたっていいんじゃないのか?」


「愚問だね。確かに今の私は開発部に所属していないが、それは自由に研究をするためだ。限られた予算では限られた研究しか出来ないからね。だから辞めた。そして私が銃器の研究と開発を止めることなど有り得ない。あの造形美こそ我が人生!」


「おぉう、なんという情熱。ちなみに予算は何処から捻出しとるんで?」


「死んだ親の遺産を食い潰しているとも」


「そんなことだろうと思ったよ」


 見るからに働いてなさそうだもんな。

 自信満々に言うことかとツッコんでやりたくなったが、言うだけ無駄な気もしたので止めておいた。


「クククッ、頭だけではなく財布の紐までガチガチに堅い軍の上層部(ばかども)め。絶対に貴様らをギャフンと言わせてやるから覚悟するがいい。そして銃器の有用性を証明出来た暁には、国を挙げての普及に努めさせてやる」


 実に邪悪そうな笑みを浮かべたデイビットが自らの野望を口にする。

 このシーンだけを切り取ってみると完全に悪役なのだが、本気でこの世界に銃器を普及させたいという彼の熱意は充分伝わってきた。

 そしてその野望は、俺にとっても望むところである。


「デイビットさんや、ちょいと俺と取り引きしないかい?」


 突然の提案にデイビットは怪訝そうな表情を浮かべ「取り引き?」と訊ね返してきた。


「別に難しいことじゃない。俺が持ってる銃器の知識を教える代わりに、完成した銃を優先的に売ってもらいたいってだけさ。どうだ? 悪い話じゃないだろ?」


「確かに私にとっては願ってもない申し出だが……」


「俺の地球(こきょう)じゃ様々な銃器が造られていたし、兵士が使う武器も(こいつ)が基本だった。そんな俺としては、銃が舐められてるってのはどうにも我慢ならなくてね」


 銃器に関して言えば、未だこの世界に存在しない知識を俺は有している。

 だが生憎、製造を可能とするだけの技術と機材までは持っていない。

 逆にデイビットは製造の技術とそのための機材こそ有してはいるものの、俺程の知識は持ち合わせていない。

 だから俺とデイビットが手を組めば……。


「良い銃が造れると思うんだけど、どうよ?」


「……君は本当にそれでいいのか? 知識とは財産だ。有効に活用出来れば、それは計り知れない価値を生む。おいそれと他人に譲るなど―――」


正しく(・・・)有効に活用出来る奴だったら問題ないだろ? それに知識や技術ってのは後世に残していかんと。廃れさせるにゃ勿体ない」


 俺からの提案に対してデイビットは眉間に皺を寄せつつ、むぅと小さく唸り声を上げた。

 一頻り思い悩む様を見せた後、「君の言う通りだな」と頷いた。


「優れた知識や技術を失うことは人類共通の損失だ。技術者の端くれとして、そんな愚かな真似は出来ない」


「取り引き成立だな。今更だけど俺の名前はマスミ=フカミ。これからよろしくな、デイビットさん」


 最初の自己紹介とは逆に今度は俺の方から右手を差し出すと、デイビットは「さん付けは不要だ。デイビットで構わない」と言って握手に応じてくれた。


「フカミくん、君の申し出に感謝する」


「一緒に軍のお偉方をギャフンと言わせてやろうぜ」


 こうして俺はデイビット=マークスと契約を交わした。

 彼の完成させた銃器―――通称マークスシリーズの有用性が認められ、軍だけではなく冒険者達の間でも広く知れ渡るようになるのは、まだまだ先の話である。

お読みいただきありがとうございます。

ちなみに作者はダブルバレルが大好きです。


次回更新は8/30(日)頃を予定しております。

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