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第10話 分解・組み立て・お手の物

前回のお話……ノックしようとしたら

???:バーン

(真 ゜Д゜)!?

 顔も知らない人を貶したのがよくなかったのだろうか。

 家の中から爆発音が聞こえた直後、今まさにノックをしようとしていたドアのすぐ横の壁が内側から吹き飛び、パラパラと木屑が地面に落ちた。


「……」


 手を伸ばしたままの姿勢で固まる俺。

 後ろでは女性陣も声を失っている。

 いったい何が起きたのか。

 視線だけを向ければ、ドアからほんの数センチ離れた位置に直径20センチ近いサイズの穴が出来上がっていた。

 高さはちょうど俺の腰辺り。

 ついさっきまでこんな穴など存在しなかった。

 そして穴が空く直前、耳に届いた爆発音は紛れもなく銃声だった。

 つまりは屋内にいる何者かが壁に向かって発砲したのだ。

 僅か数センチの差。

 何らかの偶然で横にズレていた場合、放たれた銃弾は俺の胴体を直撃していたことだろう。


「駄目だ駄目だ駄目だああああ! これでは駄目なのだあああああ!!」


 発砲した張本人と思しき男の声が聞こえる。

 頻りに駄目だ駄目だと連呼しているが、いったい何が駄目だというのか。

 壁をブチ抜いたことなど気にも留めていなさそうだ。


「……」


 ―――コンコン。

 俺は無言でドアをノックした

 当然のように返事などないし、多分相手は気付いてすらいないだろう。

 だがそれでも構わない。

 俺は徐々に力を強めながら、ノックをし続けた。


 ―――コンコン。


「キィェエエエエエエ!」


 ―――ゴンゴン。


「ぬぅぉおおおおおお!」


 ―――ドンドン!


「くわあああああああ!」


 ―――ドンドンドンドンドンドンドンドン!!


「ええい、喧しい! 人の家のドアを叩き壊そうとしているのは何処のどいつだ!?」


 絶え間なく続くノック―――途中から両手で連打していた―――に耐えられなくなったのか、バンと音を立てて玄関のドアが開かれた。

 伸ばし放題でボサボサになった灰褐色の髪。目の下に刻まれた深い(くま)。げっそりと痩けた頬。碌に陽を浴びていないのだろう生白い肌。

 唾を吐き散らす勢いで中から出てきたのは、一見して健康状態に不安を感じさせる一人の男だった。

 俺はそんな男の顔面に向けて―――。


「殺す気かボケェ!」


 ―――硬く握り締めた拳を容赦なく叩き込んだ。

 怒りの鉄拳をもろに喰らった男は「ぶふぉ!?」と盛大に鼻血を噴き出すと背中から床に倒れ込んでしまった。

 この際にガンと鈍い音が聞こえたことから、おそらくは後頭部を床に強打したのだろう。

 男はそのまま白目を剥いて動かなくなった。

 女性陣が静まり返る中、興奮して荒くなった俺の呼吸音だけが辺りに響く。

 ようやく呼吸が落ち着いてきた頃、傍に寄ってきたミシェルが俺の肩をポンと叩いた。

 そして沈痛な表情を浮かべ……。


「遂に()ってしまったな」


「縁起でもねぇこと言うな」


 この状況でその台詞は笑えない。



 ―――十分後―――



「何故私は玄関で気絶していたのだろう?」


「きっと疲れてたのさ」


「あと鼻から血が出ているのは何故だろう?」


「暑さにやられたのかもな。熱中症は危険だ」


「顔が尋常ではなく痛いのだが……」


「それは多分気のせいだ」


 このまま目を覚まさなかったらどうしようという若干の不安を抱きながらも男を家の中へ運び、古ぼけたソファーに寝かせて待ち続けること十分。

 男は無事に目を覚ましてくれた。

 良かった。これで殺人犯にならずに済む。

 殺人にはならなくても傷害の現行犯?

 ……正当防衛を主張する。


「事情はさっぱり分からんが、君達には迷惑を掛けてしまったようだね」


「困った時はお互い様さ」


 女性陣の冷ややかな視線を感じながらもしれっとそう答えておいた。

 知らない方が良いこともある。

 真実を暴くことが常に正しいとは限らないのだから。

 殴ったのが俺だという事実は墓の下まで持っていく。


「ところで君達はいったい誰だ? 私に何か用かね?」


「ああ、ちょいとこいつ(・・・)のことを教えてもらいたくってね」


 そう言って俺が男の足元に転がっていた物―――猟銃にも似た一丁の銃を指し示すと、男は「ほぅ?」と興味深そうに目を細めた。

 色素の薄い瞳が真っ直ぐに俺の姿を捉える。

 その瞳の中心には確かな知性の光が灯っていた。

 男は足元の猟銃を拾い上げると「君はこれが何なのかを知っているのかい?」と質問を投げてきた。


「ああ、それなりには知ってるつもりだよ」


「……それなり(・・・・)にか」


 男は詰まらなそうに呟いた後、俺に向けていた視線を手元の猟銃に注いだ。

 どうやらそれなりという答えは、彼のお気に召さなかったらしい。


「そもそもこんな物のことを聞いてどうするというのだね。見たところ、君達は冒険者だろう? だとしたら使うべき武器は剣や槍―――」


「他の奴らはともかく、俺がまともに使える武器はナイフと銃しかないんだよ」


 男の台詞を遮ると同時に彼が握っていた猟銃を横から奪い取った。

 そして男が何かを言うよりも早く、手元の猟銃を分解してみせる。


「なっ!?」


 猟銃を構成する三つのパーツ―――銃身、機関部、銃床。

 驚きに目を剥く男の眼前で、俺は分解したばかりのそれらを手早く組み直し、元の状態へと戻した。

 分解と組み立ての手際を傍でを見ていた女性陣から感嘆の声が上がる。


「私の銃を私よりも早く……」


「少しは話してくれる気になった?」


 組み直した猟銃を返してやると、男は真剣な眼差しで銃身や機関部を触り始めた。

 まるで異常の有無を確かめているような慎重な手付き。

 最後に銃床に取り付けられた開閉レバーを操作し、ラッチの解除と掛け直しを行ったところで、男は猟銃を自身の膝の上に置いた。


「見事な手際だ」


「野戦分解は兵士の基本よ」


 元自衛官を舐めてもらっては困る。

 現役時代は、もっと多くのパーツと複雑な機構を有した銃器を取り扱ってきたのだ。

 それに比べれば、構造が単純な中折式のフィールドストリップなど難しくも何ともない。

 男は猟銃を脇に置くとソファーから腰を上げ、俺に右手を差し出してきた。


「先程はすまなかった。私の名はデイビット=マークス。是非とも話をさせてほしい」


 断る理由など有る筈もない。

 俺は直ぐ様「こちらこそ」と男―――デイビットから差し出された手を取り、握手を交わした。

お読みいただきありがとうございます。


次回更新は8/20(木)頃を予定しております。

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