第7話 布団に巻かれて ~限界寸前~
前回のお話……関係一歩前進?
(エ ゜Д゜)嫁に貰えー
(真 ゜Д゜)ぜ、全員?
―――side:ユフィー―――
規則正しい二つの寝息が室内に響いております。
それ以外には衣擦れの音が時折聞こえてくるだけです。
とても静かでございます。
「ミシェル様、ローリエ様。聞こえていらっしゃいますか」
返事はなく、やはり返ってくるのは寝息のみです。
お二人とも熟睡されているようですね。
まだまだ目を覚ましそうにはありません。
そうなると……。
「わたくしはいつまでこのままなのでしょう……」
自己紹介がまだでした。
わたくしはユフィーナ=エルエルと申します。
自由と娯楽とお昼寝をこよなく愛する神『タンユ・アバノ』を信奉するスレベンティーヌ正教の優秀な神官です。
セクトンの街において、マスミ=フカミ様との運命的な出会いを果たしたわたくしは、あのお方を生涯お仕えするべき主と定め、旅に同行することを決めたのです。
決して勝手に付いてきた訳ではございません。
さて、そんなわたくしでございますが、実は少々困った状況にあります。
場所はネーテの街にある水鳥亭という名のお店。
マスミ様とお仲間の皆様が常宿として利用されている酒場兼宿屋です。
その一室、ミシェル様とローリエ様がお借りになっている部屋の床に、現在わたくしは転がされております。
それも首から下をお布団でぐるぐる巻きにされ、縄できつく縛られている状態です。
所謂、簀巻きの状態にされているのです。
転がる以外に身動きが取れません。
転がり過ぎて若干気持ちも悪いです。大変不便です。
何故『タンユ・アバノ』の敬虔な信徒であるわたくしがこのような目に遭っているのか。
話は昨夜に戻ります。
―――
――――――
夜も更け、皆様がぐっすりと寝静まっているであろう時間に―――実際エイル様は気持ち良さそうに眠っておられました―――わたくしは寝泊まりしている部屋から密かに抜け出しました。
向かう先はマスミ様のお部屋。
目的は従者としての務めを果たすためにございます。
「必ずやマスミ様をスッキリさせてご覧に入れましょう」
詳しくは敢えて申し上げませんが、マスミ様は相当溜め込んでいらっしゃいます。
大抵の殿方は、定期的に吐き出さなければ体調を崩してしまうもの。
マスミ様のお仲間は女性ばかりですが、何方ともそういった関係にはないご様子。
ご自分で処理したくとも、異性の目があってはそれも厳しいことでしょう。
即ち今こそわたくしの出番。
マスミ様の忠実なる僕、このユフィーナ=エルエルが文字通り一肌脱ぎましょう。
いったい何をするつもりなのか、でございますか?
無論ナニを致します。
「マスミ様、今参ります」
足音を立てないように慎重な足取りで暗い廊下を進みます。
そしてマスミ様のお部屋まであと少しという所で―――。
「……これはこれは、お二人ともこのような夜更けに如何されたのですか?」
―――廊下を塞ぐように並んで立つミシェル様とローリエ様に出くわしました。
ミシェル様は腕組みをし、ローリエ様は腰に手を当てて立っております。
「白々しいな」
「貴方も懲りない人ですね」
「はて、いったい何を懲りれば宜しいのでしょうか?」
剣呑という程ではございませんが、お二人とも刺々しい態度を隠そうとすらなさいません。
わたくしそんなに嫌われるようなことをしたでしょうか?
「別にユフィーのことを嫌っている訳ではない」
「ですが貴方の行いを許容することも出来ません」
「と言われましても……」
これは困りました。
お二人とも通してくれそうにありません。
わたくしは従者の務めを果たそうとしているだけなのですがと言ったところで聞き入れてはいただけないでしょう。
そもそも皆様がマスミ様との関係をもっと深めていらっしゃれば、こうしてわたくしが動くことも……いえ、深まっていようとなかろうと関係ありませんね。
この昂りは止められそうにありません。
「無論、今更言葉を尽くした程度で止まるとは微塵も思っていない」
「今回も力尽くで止めさせてもらいます」
こうしてお二人と対峙するのは、セクトンの街から数えて今回で五度目です。
これまでの結果はわたくしの全敗。
マスミ様のお部屋の中に入ることすら叶いませんでした。
「わたくしにも意地があります。今宵こそは―――」
押し通らせていただきます。
その決意と共にわたくしは立ち塞がるお二人に向かって駆け出しました。
――――――
―――
そして今に至ります。
いえ、必死に抵抗はしたのですよ。
夜が明けるまで抵抗し続けた結果、ご覧の有様と相成った訳でございます。
所詮わたくしは非力な神官に過ぎません。
ええ、笑って下さって結構です。
こうして布団で簀巻きにされるのにもすっかり慣れてしまい、今ではこのまま眠ることすら可能となりました。
不便ではありますが、これはこれで悪くないかもと今の状況を楽しめるだけの余裕も生まれてきた次第です。
そして余裕が生まれると同時に別の問題も発生してしまいました。
このままではわたくし……。
「も、漏れてしまいます……!」
暇だからと無駄にコロコロしていたのが宜しくなかったのでしょうか。
十分程前からわたくしの下腹部は急激な尿意に襲われているのです。
生命の危機ならば、これまでにも幾度か経験したことはございます。
ですが此度の危機。生命には何ら危険がない代わりに、乙女的にはかつてない程の大ピンチでございます。
流石のわたくしも人前で粗相をして尚平然としていられる程、肝が据わってはおりません。
あるいはいっそのこと……。
「抗わず、素直に受け入れてしまえば、それすらも愉しめるように……あ、マズいです。本当に漏れそう」
最早決壊するのも時間の問題。
ミシェル様。ローリエ様。心の底からお願い致します。
わたくしが新たな扉を開いてしまう前にどうか目を覚まして下さいませ。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は8/5(水)頃を予定しております。




