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第2話 夏は深まり

前回のお話……早起き~朝食~暇になる

(真 ゜Д゜)散歩いこ


連続投稿二日目。

次話は明日投稿します。


「あっつー」


 朝食も終え、女性陣を待つのにも飽きたので散歩でもしようかと宿の外に出てみれば、燦々と照り付ける太陽に出迎えられた。

 降り注ぐ陽光が肌をジリジリと焦がす。

 夏真っ盛りである。


「気温は……30℃前後ってところかね?」


 体感での判断だが、おそらくそう間違ってもいないだろう。

 日差しは強いが、湿度は低いのでカラッとしている。

 温暖化の影響により、気温35℃超えの猛暑日を幾度も経験してきた身としては、異世界の夏の方が比較的過ごし易く感じる。

 地表をコンクリートで覆っている訳でもないし、エアコンなどによる排熱もないので、ヒートアイランド現象とは無縁なのかもしれない。

 それでも暑いことに変わりはないので、取り敢えずの熱中症対策として帽子を被っておく。

 この戦闘帽も随分くたびれてしまった。

 そろそろ新調を考えなければ。


『何か用事でもあるのかの?』


「いや、散歩しようかなって」


 今着ているシャツに胸ポケットは付いていないので、ニースにはスマホごとカーゴパンツのサイドポケットに入ってもらっている。

 レイヴンくんは相変わらず肩にくっ付いている。

 道行く人達も夏の装い。

 俺の格好が珍しいからか、時折擦れ違う人から無遠慮な目を向けられるが、そんな視線にはもう慣れっこだ。

 ネーテに来た当初はこんなものではなかったので、今更気にもならない。


「さぁて、何処に行こうかねぇ」


 と呟きながら俺が向かった先は、街の出入口たる門。

 東西南北のそれぞれ四箇所に配置された門の一つ―――西門へと足を伸ばした。

 まだまだ早い時間だというのに、門の周囲は多くの人でごった返しており、今日も兵士達による検問が行われている。

 この西門を潜って、俺はネーテの街へ足を踏み入れたのだ。

 異世界に迷い込んでからまだほんの数日しか経っておらず、パーティも俺とミシェルとローリエの三人しかいなかった。

 それが今では五人パーティだ。


「随分と大所帯になったもんだなぁって、あいつは……」


 忙しそうに検問を行っている兵士達の中に一人だけ覚えのある顔が見えた。

 間違いない。あの時、俺達の検問を担当した若い兵士だ。

 奴との一悶着すら今では懐かしく感じる。


「ちょっかい出すのは……止めとくか」


 真面目に勤しんでいるところを邪魔するのも悪いしな。

 お勤めご苦労さん。

 口には出さず心の中でのみ告げた後、俺は西門に背を向けて大通りをギルドの方向に歩き出した。

 人通りの多い街路を歩きながら、俺は何とはなしに道行く人々の顔を眺めた。

 年齢、性別、肌の色、果ては種族までバラバラな人々。

 かつては大いに驚かされた光景だが、今ではすっかり見慣れてしまった。

 俺もこの世界に馴染んできたということなのだろう。


「とはいえ、まだまだ知らんことだらけな訳で」


 ネーテを除いて俺が行ったことのある場所といえば、ミシェルの父親であるラズリー伯爵が領主を務めるリンデルとユフィーと出会ったセクトン。

 あとは精々が依頼で向かった森やら宿場町、名もない村程度。

 この異世界どころか、俺は今自分が暮らしている国―――アンデルト王国のことすら詳しくは知らない。


『何か問題があるのかの?』


「問題って訳じゃないさ。生きるだけなら無理に知る必要もないと思うし」


 ただそれでは勿体ないではないか。

 

 ―――この世界はこんなにも広く、様々な人や物、そして謎に満ちている。それを知らずに人生を終えるのは余りにも勿体ない。


 かつて我が友が瞳を輝かせながら語って聞かせてくれた言葉だ。

 当時は、イイ年してこいつは何を暑苦しく語っているのだろうと呆れたものだが、今なら彼の気持ちが理解出来る。

 何の因果か異世界に迷い込み、多くの未知に触れた結果、もっとこの世界のことを知りたいと思うようになったのだ。

 自分の脚で世界を巡り、自分の目で世界を見たい。

 今目の前に広がる光景と同じように……。


「未知を既知に変えてやりたいって思ったんだ。ちょっとガキっぽいけどな」


『良いではないか。(おのこ)は少しくらい子供っぽい方が可愛らしぞ』


 なんだそのちょっとモテる女風の台詞は。


「千年乙女が何を知った風な口を」


『おい、我を年寄り扱いするでない』


 実際、俺達の中ではぶっちぎりの最高齢だがな。

 などとやっている内に人混みを抜け、俺はギルドの前に辿り着いた。

 赤煉瓦で組み上げられた外観。扉の前にはシンボルマーク―――交差した認識票と両刃の剣―――が描かれたタペストリーが掲げられている。

 扉を潜れば、ロビーの中は相変わらず多くの冒険者で賑わっており、受付の職員らも対応に追われているようだ。


「労働に勤しむがいい」


『何故上から目線……』


休日(オフ)だからかな」


 このまま突っ立ってても邪魔になるだけなので、一先ず食堂に移動し、空いている席に腰掛けた俺は、近くを通った女給さんに果実水を注文した。

 届いた果実水をちびちびと啜りながら、忙しなく動く冒険者やギルド職員らをぼんやりと眺める。

 依頼を請けた冒険者が次々と外へ出ていき、ロビーの中に見える人の数が大分疎らになってきた頃「つっかれたー」と言って、一人の女性職員が対面の椅子に腰掛けてきた。

 いきなりだったからちょっと驚いた。

 暗めの茶髪をショートカットにし、ぐったりとテーブルに突っ伏している彼女は……。


「確かメリーの同僚の……」


「ベルタ=ブリサラ。別に覚えなくてもいいよ。あ、これちょっと貰っていい?」


 と言っておきながら、俺からの許可を待つこともなく、注文した果実水を勝手に飲み始めた。

 余程喉が乾いていたのか、ぐびぐびと実に美味そうに飲んでいる。

 おーい、間接キスだぞー。


「ぷはぁ、ごちそうさま」


「お粗末さん……じゃねぇよ。何勝手に飲んでるんだよ」


 しかも全部飲みやがった。

 ベルタ=ブリサラは悪びれた様子もなく「いいじゃん、ちょっとくらい」と返してきたが、彼女が飲んだ量は決してちょっとではない。


「あの人が溢れ返ってる中、一人で何枚も依頼票貼ってくるってある意味拷問だよ。そりゃ喉も乾くでしょ」


 おまけに聞いてもいないのに何か喋り出した。

 大変だったのは分かるが、だからといって他人の物を横取りしていい理由にはならない。

 彼女のためにも言物申してやらねばなるまいと俺が口を開こうとしたその時―――。


「おいッ、影男(かげおとこ)!」


 ―――男の声が響き渡った。

お読みいただきありがとうございます。


次回更新は明日7/17(金)を予定しております。

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