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第1話 見慣れた天井

お久しぶりです。

アラサー警備員第八章開始します(`・ω・´)ゞ


次話は明日更新します。

 目を覚ますとすっかり見慣れた天井が視界に映る。

 透明度の高くない窓から差し込む朝日。

 皆さん、おはようございます。深見真澄です。

 本日も異世界は快晴のようです。眩しい。

 ベッドから身体を起こし、明るく照らされた室内を見回してみる。

 半ば俺専用と化している水鳥亭二階の一室。

 木製の丸テーブルと椅子のセット。テーブルの上に置かれた水差しとコップ、蝋燭の立てられた燭台。壁に設けられた鏡も蛇口もない洗面台。

 そして今となっては、すっかり硬さも気にならなくなった木製ベッド。

 この部屋で生活するようになってかれこれ数ヶ月経つが、私物が一切増えていない。

 俺の場合、空間収納の〈顕能(スキル)〉があるので、そもそも室内に荷物を置いておく必要がないのだ。

 泥棒に侵入されたとしても問題なし。

 何しろ盗まれる物がないのだから。

 盗られたくないなら置かなければいい。


「これ程万全なセキュリティーもそうあるまい」


 誰にともなく口にした後、汗を吸って重くなった寝巻を脱ぎ、動き易い格好―――上は半袖のシャツ、下は薄手のカーゴパンツ―――に着替える。

 洗面台で顔を洗っていると小さな同居人達も目を覚ましたようで、小さな欠伸が聞こえてきた。


『ふぁぁぁぁ……眩しいのじゃ』


「おはよう、ニース」


『おはようなのじゃ』


 枕元で寝ていた可憐な少女―――スマホに宿った掌サイズの我が契約精霊ニースが身体を起こし、うーんと伸びをする。

 その横に蹲っていた影が背中の翅を広げ、勢いよく空中に飛び立った。

 そのまま天井付近をぐるりと一周した後、俺の肩に降りてきた。


「レイヴンくんもおはよう」


 俺の従魔―――鍬形兜(スタッグビートル)のレイヴンくんが挨拶代わりにカチッと大顎を打ち鳴らした。

 タオルで顔に付着した水気を拭った後、俺はニースとレイヴンくんを伴って一階に降りた。

 まだ朝も早い所為か、食堂に客の姿は見当たらず、女将さんの娘姉妹と住み込みの従業員である小人族(リリパット)のコレットが掃除をしていた。

 女性陣はまだ誰も起きていないようだ。

 異世界(こっち)で生活するようになってからというもの、すっかり早寝早起きが習慣付いてしまった。


『健康的で結構なことではないか』


「そりゃそうなんだけどね」


 時折、日本での不規則な生活を懐かしく感じてしまう。

 このネーテにも歓楽街は存在するのだが、未だに足を延ばしたことはない。

 俺も男だから興味はあるし、たまには色々な店を梯子して呑み歩きたいとも思うのだが、なんとなく気が引けてしまうのだ。

 もしもバレたら女性陣に何と言われるやら。

 ユフィーはともかく、他のメンバーには間違いなく怒られる気がする。


「あ、おはようございます」


「おはよう。朝飯ってもう食べれる?」


「はい。すぐ用意しますから、座って待っていて下さい」


 俺に気付いた姉妹の片割れ―――妹ちゃんが厨房に引っ込むのを見た後、適当な席に腰掛ける。

 髪の色こそ同じだが、活発な姉と比べて妹ちゃんは大人しい性格をしている。

 引っ込み思案なところもあるらしく、最初の頃などはまともに目も合わせてくれなかった。

 それが今ではこうして普通に会話出来るまでになった。


「ずっとこの宿で寝泊まりしてるもんなぁ」


 ちょいちょい依頼で不在にしているとはいえ、何ヶ月も顔を合わせていれば流石に慣れもする。

 以前にも説明した気はするが、この世界の一年は十五ヶ月。日数にすると四百五十日もあるのだ。

 今日の日付は九月・巨凱(きょがい)の月の二日。

 俺がこの世界に迷い込んだのは四月・賢樹(けんじゅ)の月の十三日なので、かれこれ四ヶ月以上も経つのだ。

 もう四ヶ月も経ったと言うべきか、まだたったの四ヶ月と言うべきか。


「そしてこの四ヶ月の間にいったい何度死に掛けたことか……」


 いずれにしても濃厚過ぎる日々であった。

 思い返すとちょっと目頭が熱くなってくる。

 涙が零れ落ちないように上を向きながら目蓋を押さえているとコレットから「フカミさん、何されてるんですか?」と訊ねられた。


「生きているって素晴らしいと思って」


 と返すもコレットの反応は「はあ、そうですか」と芳しくなかった。

 お前ももっと死にそうな目に遭えば俺の気持ちが理解出来る筈だ。

 無論、そんな目になど遭わないに越したことはないが。


「お待たせしました」


 掃除の邪魔をしない程度にコレットと取り留めの無い会話を続けていると、朝食の載った盆を手にした妹ちゃんが厨房から戻ってきた。

 野菜と腸詰肉(ソーセージ)のスープ。

 蒸かしたジャガイモ。

 薄切りにした黒パン。

 そこそこボリュームのあるメニューが卓の上に並べられていく。

 ありがとうと礼を言ったところ、妹ちゃんは「ごゆっくりどうぞ」と綺麗なお辞儀をして仕事へと戻った。

 姉と違って礼儀を弁えた良い娘さんである。

 このまま真っ直ぐ育ってほしい。


「お客さん、今あたしの悪口言ったでしょ?」


 妙に察しの良い姉の方が箒片手に絡んできたものの、努めて無視しながらスープに口を付ける。

 野菜から取れた出汁と腸詰肉(ソーセージ)の旨味。濃厚ながらもあっさりとした味わい。

 今朝も女将さんの料理は美味である。

 然して時間も掛からずに食べ終えてしまった。

 コレットが用意してくれた食後のお茶を飲みつつ、テーブルの上に移動したレイヴンくんと戯れながら女性陣が起きてくるのを待つことにした。

 だが待てど暮らせど、誰もやって来ない。

 降りてくるのは他の宿泊客ばかりだった。


『誰も降りてこぬな』


「まだ寝とるんかね?」


 ミシェルやローリエなどは普段から割りと早起きなのだが、夜更かしでもしたのだろうか?

 エイルの場合は特に決まった時間はなく、早かったり遅かったりとマチマチだ。

 そしてユフィーは常に誰よりも遅く目を覚ます。

 腐っても神官なのだから、誰よりも早く起きて朝のお祈りでもしたらどうだと以前に話したことがある。

 そうしたら……。


「眠っている最中に祈られては神も迷惑だと思います」


 予想の斜め上を行く答えが返ってきた。

 どうやらスレベンティーヌ正教が崇拝する神『タンユ・アバノ』とやらの起床時間は相当遅いようだ。

 昼寝をこよなく愛する神の名は伊達ではないらしい。昼じゃないけど。

 信徒の祈りを迷惑に感じる時点で色々と駄目な気もする。


「このまま待ってても暇だし、出掛けるか」


 飲み終わって空になったコップをコレットに押し付けるついでに女性陣への伝言を頼んだ。

 目的がある訳ではないものの、時には当て所もなく散歩をするのも悪くあるまいと俺は外に出掛けるのだった。

お読みいただきありがとうございます。


次回更新は明日7/16(木)を予定しております。

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