第37話 異邦人 対 宣教官 ~紫色の瞳~
前回のお話……ゼロ距離発砲
(真 ゜Д゜)バキューン!
今回短いです。
21:21追記
次話は明日更新します。
「アタシは阿婆擦れじゃねぇッ!」
怒声を張り上げたアウィル=ラーフが自らのナイフを大きく振り切った。
鍔迫り合いに押し負けた俺のナイフは弾かれ、右腕もそれに引っ張られた。
それと同時に空間収納からエアガンを取り出し、左手一本で構えながら魔力を装填する。
「今度こそ……くたばりやがれぇ!」
そしてアウィル=ラーフが心臓目掛けてナイフを突き込んでくるよりも早く、エアガンの引き金を引いた。
然しものアウィル=ラーフも至近距離からの発砲には反応が追い付かず、撃ち出された鋼色の弾丸は奴の右脇腹を抉った。
「ギァッ!?」
自身の身体を襲った衝撃と激痛にアウィル=ラーフはナイフを取り落とし、俺の眼前で膝を突いた。
傷口からは止め処なく血が流れ、少しでも出血を抑えようと押し当てた手を汚していく。
苦しそうな呼吸と呻き声を漏らしながらもアウィル=ラーフは顔を上げ、喰い殺さんばかりの目付きで俺を睨み付けてきたが、そこまでだった。
立ち上がり、再び襲い掛かってくるだけの余力は残されていない。
……助かった。
いい加減、体力も魔力も限界だ。
こうして立っていられるのも不思議なくらいなのだ。
もしもこの状態で更なる反撃をされていたら、きっと碌に抵抗も出来ずにやられていたことだろう。
「俺の、勝ちだ」
悔しそうに歯を食い縛っているアウィル=ラーフの額に銃口を固定したまま、俺はハッキリと言い切った。
如何に常人離れした身体能力を有していようとも、これ程の重傷を負っては身体の自由も利くまい。
いや、そもそも銃で撃たれても変わらず動き回っているようなら、それは最早人間ではなくただの化け物……って余計なことを考えている場合ではない。
「おい、今すぐ蜘蛛共を止めろ。テメェの子分なんだからそれくらい出来るだろ」
「……」
「おいっ、聞いてんのか。こっちも余裕ねぇんだよ。さっさとあの蜘蛛共を―――」
止めろという俺の言葉をアウィル=ラーフは「無駄だよ」と遮った。
「黒鉻蜘蛛を統率してるのはアタシじゃなくてネフィラ・クラバタだ。アタシはネフィラ・クラバタを通じて、他の蜘蛛共に指示を出しているに過ぎないんだよ」
「だったらあの大蜘蛛を止めろ!」
「ははっ、今のネフィラ・クラバタを見てよくそんなことが言えるね。無理に決まってんだろ。魔薬キメてほとんど暴走状態なんだから」
「テメェがそうさせたんだろうが!」
まるで他人事のような発言をするアウィル=ラーフに対して殺意が湧き上がる。
ガンッと銃口を額に押し当てた。
個人に対して明確な殺意を抱いたのは、今回が初めてかもしれない。
衝動的に引き金を引きそうになるのを堪えていると、サングリエの凄まじい雄叫びが響いた。
振り向けば、サングリエがネフィラ・クラバタを力尽くで地面に押し倒し、強靭な前肢で蜘蛛の頭を踏み潰そうとしていた。
そうはさせじとネフィラ・クラバタは倒れたままの体勢から長い脚を振り回し、サングリエの横っ面を殴って踏み付けを回避した。
あれ程強大な力を有するサングリエですら、強化されたネフィラ・クラバタには苦戦を強いられている。
その光景に俺は意識を奪われてしまった。
そう、この時の俺は本当に迂闊だった。
相手は重傷を負って動けないと油断していた。
何よりほんの僅かな時間とはいえ、目の前の相手から注意を逸らしてしまったのだから。
「……えっ?」
ガリッと何か硬い物を噛み砕くような音が耳に届いた。
直後に左手に走る衝撃と手にしていた物が消失する感覚。
驚いて顔を正面に戻せば、構えていた筈のエアガンは手の中に無く、俺の左手を殴ったのであろう血塗れの拳がすぐそこにあった。
横目に弾かれたエアガンが地面の上を滑っていくのが見える。
薄ら笑いを浮かべたアウィル=ラーフが「残念」と呟いた。
「このッ!」
咄嗟に右手のナイフを振るうが、刃が相手の首に届く直前で手首を掴まれ、止められてしまった。
何とか振り解こうとするが、掴まれた右腕は微動だにしなかった。
こいつ、いったい何処にこれだけの力を!?
「まさかここまで追い詰められるなんてね」
俺の手首を掴んだまま、自嘲するような呟きを漏らすアウィル=ラーフ。
状況に似つかわしくない落ち着いた声音は、眼前に迫るナイフの存在など目に入っていないかのようだ。
掴まれた手首からミシミシと骨が軋むような音が聞こえ、痛みにナイフを取り落としそうになる。
「認めてやるよ。テメェは強い。だからアタシも―――」
ナイフを諦めた俺は、もう一丁のエアガンを空間収納から取り出し、空いていた左手に構える。
即座に魔力を込め、アウィル=ラーフの額に発砲しようとしたが……僅かに遅かった。
「命懸けで殺してやるよ」
アウィル=ラーフの右目に紫色の光が灯った次の瞬間、凄まじい衝撃が俺の腹部を突き抜けた。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は明日6/16(火)を予定しております。




