表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
226/494

第37話 異邦人 対 宣教官 ~紫色の瞳~

前回のお話……ゼロ距離発砲

(真 ゜Д゜)バキューン!


今回短いです。


21:21追記

次話は明日更新します。

「アタシは阿婆擦れじゃねぇッ!」


 怒声を張り上げたアウィル=ラーフが自らのナイフを大きく振り切った。

 鍔迫り合いに押し負けた俺のナイフは弾かれ、右腕もそれに引っ張られた。

 それと同時に空間収納からエアガンを取り出し、左手一本で構えながら魔力を装填する。


「今度こそ……くたばりやがれぇ!」


 そしてアウィル=ラーフが心臓目掛けてナイフを突き込んでくるよりも早く、エアガンの引き金を引いた。

 然しものアウィル=ラーフも至近距離からの発砲には反応が追い付かず、撃ち出された鋼色の弾丸は奴の右脇腹を抉った。


「ギァッ!?」


 自身の身体を襲った衝撃と激痛にアウィル=ラーフはナイフを取り落とし、俺の眼前で膝を突いた。

 傷口からは止め処なく血が流れ、少しでも出血を抑えようと押し当てた手を汚していく。

 苦しそうな呼吸と呻き声を漏らしながらもアウィル=ラーフは顔を上げ、喰い殺さんばかりの目付きで俺を睨み付けてきたが、そこまでだった。

 立ち上がり、再び襲い掛かってくるだけの余力は残されていない。

 ……助かった。

 いい加減、体力も魔力も限界だ。

 こうして立っていられるのも不思議なくらいなのだ。

 もしもこの状態で更なる反撃をされていたら、きっと碌に抵抗も出来ずにやられていたことだろう。


「俺の、勝ちだ」


 悔しそうに歯を食い縛っているアウィル=ラーフの額に銃口を固定したまま、俺はハッキリと言い切った。

 如何に常人離れした身体能力を有していようとも、これ程の重傷を負っては身体の自由も利くまい。

 いや、そもそも銃で撃たれても変わらず動き回っているようなら、それは最早人間ではなくただの化け物……って余計なことを考えている場合ではない。


「おい、今すぐ蜘蛛共を止めろ。テメェの子分なんだからそれくらい出来るだろ」


「……」


「おいっ、聞いてんのか。こっちも余裕ねぇんだよ。さっさとあの蜘蛛共を―――」


 止めろという俺の言葉をアウィル=ラーフは「無駄だよ」と遮った。


黒鉻蜘蛛(クロムスパイダー)統率し(まとめ)てるのはアタシじゃなくてネフィラ・クラバタだ。アタシはネフィラ・クラバタを通じて、他の蜘蛛共に指示を出しているに過ぎないんだよ」


「だったらあの大蜘蛛を止めろ!」


「ははっ、今のネフィラ・クラバタ(アレ)を見てよくそんなことが言えるね。無理に決まってんだろ。魔薬(やく)キメてほとんど暴走状態なんだから」


「テメェがそうさせたんだろうが!」


 まるで他人事のような発言をするアウィル=ラーフに対して殺意が湧き上がる。

 ガンッと銃口を額に押し当てた。

 個人に対して明確な殺意を抱いたのは、今回が初めてかもしれない。

 衝動的に引き金を引きそうになるのを堪えていると、サングリエの凄まじい雄叫びが響いた。

 振り向けば、サングリエがネフィラ・クラバタを力尽くで地面に押し倒し、強靭な前肢で蜘蛛の頭を踏み潰そうとしていた。

 そうはさせじとネフィラ・クラバタは倒れたままの体勢から長い脚を振り回し、サングリエの横っ面を殴って踏み付けを回避した。

 あれ程強大な力を有するサングリエですら、強化されたネフィラ・クラバタには苦戦を強いられている。

 その光景に俺は意識を奪われてしまった。

 そう、この時の俺は本当に迂闊だった。

 相手は重傷を負って動けないと油断していた。

 何よりほんの僅かな時間とはいえ、目の前の相手から注意を逸らしてしまったのだから。


「……えっ?」


 ガリッと何か硬い物を噛み砕くような音が耳に届いた。

 直後に左手に走る衝撃と手にしていた物が消失する感覚。

 驚いて顔を正面に戻せば、構えていた筈のエアガンは手の中に無く、俺の左手を殴ったのであろう血塗れの拳がすぐそこにあった。

 横目に弾かれたエアガンが地面の上を滑っていくのが見える。

 薄ら笑いを浮かべたアウィル=ラーフが「残念」と呟いた。


「このッ!」


 咄嗟に右手のナイフを振るうが、刃が相手の首に届く直前で手首を掴まれ、止められてしまった。

 何とか振り(ほど)こうとするが、掴まれた右腕は微動だにしなかった。

 こいつ、いったい何処にこれだけの力を!?


「まさかここまで追い詰められるなんてね」


 俺の手首を掴んだまま、自嘲するような呟きを漏らすアウィル=ラーフ。

 状況に似つかわしくない落ち着いた声音は、眼前に迫るナイフの存在など目に入っていないかのようだ。

 掴まれた手首からミシミシと骨が軋むような音が聞こえ、痛みにナイフを取り落としそうになる。


「認めてやるよ。テメェは強い。だからアタシも―――」


 ナイフを諦めた俺は、もう一丁のエアガンを空間収納から取り出し、空いていた左手に構える。

 即座に魔力を込め、アウィル=ラーフの額に発砲しようとしたが……僅かに遅かった。


「命懸けで殺してやるよ」


 アウィル=ラーフの右目に紫色の光が灯った次の瞬間、凄まじい衝撃が俺の腹部を突き抜けた。

お読みいただきありがとうございます。


次回更新は明日6/16(火)を予定しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ