第31話 炸裂! 魔擲弾
前回のお話……新兵器炸裂!
(真 ゜Д゜)発射ー
銃口から吐き出された鋼色の弾丸が宙を走り、巨大な繭の一つに着弾した直後、轟音を伴って爆発した。
爆発した箇所からは無数の破片―――繭を形成していた糸の塊―――が飛び散り、雨となって蜘蛛共に降り注ぐ。
もうもうと上がる煙。
仲間達は言葉を失い、蜘蛛共ですら固まっている中……。
「イエス!」
俺は一人でガッツポーズを決めていた。
してやったりという優越感と派手な爆発による爽快感。
自然とテンションも跳ね上がり、ここ数日の鬱憤が吹き飛ばされていく。
ざまぁみろ!
『これはまた大した威力じゃな。やはりそれもマスミの世界の銃か?』
「一応な」
俺がサングリエから受け取った物の正体は、突撃銃。
所謂、自動小銃と呼ばれる銃器の一種で、現代の軍隊における歩兵の標準的な携行装備でもある。
軽量且つ持ち運びが容易。セミオートとフルオートの切り替え機能を有し、至近距離での掃射と中距離での狙撃能力を両立させた銃器。
更にこのアサルトライフルの銃身下部には、太い円筒状のアタッチメントが装着されている。
それは強力なグレネード弾を発射するための機構―――装着式の擲弾発射器だ。
いや、魔力で発射するから〈魔擲弾〉と呼ぶべきかな。
先の爆発はこの〈魔擲弾〉によるものだ。
対戦車弾をイメージして撃ったのだが、予想以上の火力だったな。
「多分、スカーかな」
『スカーとは?』
「銃の名前」
FN SCAR。
ベルギーの銃器メーカー・FNハースタル社が開発したアサルトライフルである。
「マスミがどんどん危険人物になっていく……」
「失敬な」
嘆くように呟くミシェルだったが、全長30メートルを超える巨大蛇を真っ二つにするような奴にだけは言われたくないぞ。
何故か後ろでユフィーが「それでこそマスミ様です。流石でございます」と満足げに頷いている気配がする。
いったい何が流石なのやら。
敵が攻めて来ないから良いものの、仮にも今は戦闘中だぞ。
まったくどいつもこいつも緊張感に欠けてやがる。
『主が言うな』
ニースのツッコミをスルーしつつ、煙が晴れて再び姿が露となった繭を注意深く観察する。
見た目以上に頑丈なのか、どうやら一発で完全に破壊することは叶わなかったらしい。
だがその表面は大きく削れ、特に〈魔擲弾〉が着弾した箇所は内部が丸見えになっている。
繭の下から出てきたのは、半透明な無数の白い球体。
一抱えはありそうなその球体の中には黒い何かが蠢いており、おそらくは孵化する前の子蜘蛛だろう。
一度にあれだけの数が孵化したら……考えたくもないな。
「そりゃサングリエも手を焼く訳だよ」
「あの繭は中の卵を守るための鎧だったのだな」
気を取り直したミシェルが改めて〈ロッソ・フラメール〉を正眼に構える。
外観以上の強度を誇る巨大繭。
俺は思案しながら再度アサルトライフルに魔力を流し込んだ。
「作戦変更。前衛陣はあまり突っ込まずに防御に専念。特に後衛の俺らに蜘蛛を近付かせないようにしてくれ」
「先に魔術で卵を破壊するって訳か」
「斬ったり突いたりしてたんじゃ時間が掛かり過ぎますからね。頼みますよ?」
「はっ、しゃあねぇな。頼まれようじゃねぇか」
「んっ」
常の太い笑みを浮かべて快諾してくれるローグさんと任せろとばかりに長槍を掲げるディーンさん。
頼りになる先輩達に頷きを返した後、アサルトライフルの銃口を蜘蛛の卵に向け、引き金に指を掛ける。
同じようにヴィオネとドナートも杖の先を向け、それぞれ詠唱を開始する。
「んじゃまあ承諾も得られたということで……今度こそ吹っ飛びやがれ!」
引き金を引くと同時に発射される〈魔擲弾〉。
鋼色に輝く擲弾は先程と同じ軌道を辿り、繭の内部―――剥き出しになっている卵の本体に直撃した。
魔力によって疑似的に再現された炸薬が急速に燃焼し、強烈な圧力と熱量を発生させ、今度こそ巨大な卵を爆散させた。
途端、これまで沈黙していた筈の蜘蛛共が一斉に動き出した。
卵を害されたことで憤慨したのか、大量の黒鉻蜘蛛が津波となって押し寄せてくる。
反応するのが遅ぇんだよ。
「させるか!」
「通しません!」
後衛に蜘蛛共を近付かせまいとミシェルとミランダが飛び出す。
魔力付与を施された灼熱の刃が次から次へと蜘蛛共の脚を斬り飛ばし、ミランダの振るう鎚矛が機動力を奪われた個体を片っ端から殴り飛ばしていく。
事前に打ち合わせをしていた訳でもないだろうに、見事な連携を披露してくれる二人。
ミシェルとミランダを迂回しようとする個体には……。
「オラァッ、俺達を忘れるんじゃねぇ!」
「抜かせるか!」
「おじさんも一働きしようかねぇ」
ローグさん、ジュナ、グラフさんの三人が先回りして押し留める。
一時的に蜘蛛共の津波が堰き止められ、その頭上を詠唱を終えたヴィオネとドナートの魔術が通過する。
「〈炎槍〉!」
「〈岩弾〉!」
燃え盛る長槍と岩石の砲弾が空中を走り、二つ目の繭に直撃する。
二人の放った魔術は繭の鎧を剥ぎ取り、その下に守られていた卵本体を剥き出しにした。
「駄目押しだ!」
遮る物が無くなった蜘蛛の卵に三発目の〈魔擲弾〉を叩き込む。
炸裂する魔力の擲弾。
爆発の威力に耐えられなかった無数の卵が中の子蜘蛛ごと四散し、またもや蜘蛛共の上に降り注ぐ。
これで二つ目。残る繭は三つだ。
次なる〈魔擲弾〉を精製するため、アサルトライフルに魔力を流し込もうとした時、ふらりと眩暈に襲われた。
「マスミくん!?」
咄嗟にトルムが横から支えてくれた。
立て続けの魔力消費による負担が眩暈となって現れたようだ。
感覚的に〈魔擲弾〉を一発撃つのに消費する魔力は、エアライフルの魔力弾と同等かそれ以上。
既に三発も撃っているのだから、軽い眩暈くらいは起こっても不思議じゃない。
それでも以前の俺ならとっくに気絶していた筈だ。
「ありがと。助かった」
「大丈夫なの?」
「ああ、これでも前よりは魔力も増えてるからな」
蓄積された経験値によるレベルアップか、それとも単に幾度も死に掛けた所為なのかは不明だが、俺の魔力はその総量を増していた。
自覚出来たのはセクトンの街を発ってから数日後。
ニースに教えられ、実際に魔力弾を撃ってみた結果、以前よりも多くの弾数を撃つことが出来たのだ。
ゲームのように数値化は出来ないものの、単純に射撃可能な弾数で計算すれば、凡そ三倍以上にまで魔力は増えた。
エアライフルならば七発前後は撃てる。
〈魔擲弾〉もあと二、三発は撃てる筈だ。
「俺は大丈夫。それよりトルムは前衛の手助けをしてくれ」
「マスミくん」
「勝つぞ。全員で生きて帰って……美味い酒呑もうや」
「……だね」
俺とトルムはお互いの拳を突き出し、ネーテを出発する時と同じようにコツンとぶつけ合った。
そして表情を引き締めたトルムは一言「行ってくるよ」とだけ告げ、前衛陣をサポートするべく駆け出した。
「……ぶっ倒れるまで撃ってやる」
言葉と共に決意を固めた俺は、手にしたアサルトライフルに更なる魔力を注ぎ込んだ。
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次回更新は5/20(水)頃を予定しております。




