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第22話 湖畔で一息

前回のお話……お家にご招待

(猪 ゜Д゜)いらっしゃぁい

(真 ゜Д゜)……(言葉もない様子)

 サングリエの住み処―――森辺のオアシスとでも言うべき美しい湖畔に俺達は辿り着いた。

 ここまでの案内役兼移動手段として活躍してくれたサングリエの背中から降りた後も俺達はほとんど動くことなく、目の前の湖を眺め続けていた。


「こりゃ凄ぇや」


「なんと美しい」


 人の手が一切加わっていない、自然だけで作り上げられた芸術。

 どれ程の年月を費やせば完成するのだろう。

 眼前に広がる絶景から目を離すことが出来ない。

 誰もが心を奪われ、言葉もなく湖を見詰めている中、遠くから俺達を呼ぶ声が聞こえてきた。

 聞き覚えのある声にまさかと思って振り向けば……。


「皆さぁん、ご無事ですか~?」


「ローリエ!」


 安否が気掛かりになっていたローリエが手を振りながらこちらに駆けて来た。

 その姿を目にした途端、ミシェルが地面を陥没させる程の脚力で駆け出し、ローリエに向かって突撃する。

 そのままぶつかるというかタックルをブチかますような勢いでローリエの身体を抱き締めた。


「大丈夫か!? 何処も怪我をしていないか!?」


「あはは、ご心配をお掛けしてすみません。でも大丈夫ですよ」


 慌てふためくミシェルとは対照的に苦笑を浮かべながらもローリエの方は落ち着いていた。

 怪我の有無でも確認しているのか、全身をベタベタと触ってくるミシェルを引き剥がすでもなく、されるがままの状態で放置している。

 パッと見た限り、多少の汚れこそあるものの、大きな怪我はしていなさそうだ。


「おう、お前らも来たか」


 ローリエに遅れてローグさん達もこちらへ歩いてくるのが見えた。

 どうやらサングリエが第一班を保護してくれたというのは本当だったらしい。

 ローグさん達の元にジュナ達とディーナ女史が向かう。

 サングリエの言葉を疑っていた訳ではないが、やはり自分の目で確認するまでは安心することが出来なかった。

 森に入った全員が無事な姿を目にし、自然と安堵の息が漏れる。


「みんな元気そうでぇ、良かったの~」


「だな」


 俺と同じく内心不安であったのだろうエイルが嬉しそうにくっ付いてくる。

 腕に押し付けられた幸せな感触を密かに堪能しつつ、再び湖の方に目を向ける。

 森の奥深くにこれ程の湖が形成されているとは想像もしていなかった。

 いったい何処からこれ程の水が流れ込んできたのだろう。

 そんな俺の疑問に気付いたのか、傍に寄って来たサングリエが……。


 ―――流れ込んできたのではない。この湖の水は全て地下から湧き出てきたものだ。


「湧き出てって……えっ、じゃあこれ全部湧き水ってこと?」


 湖まで形成するって、どれだけ長い間湧き出し続けてるんだよ。

 俺は片腕にエイルを引っ付けたまま―――離れてくれなかった―――湖のすぐ傍まで寄ってみた。

 遠目から見ても美しかった湖面は近くで見てもやはり美しく、そして青く透き通っている。

 光の加減などではなく、凄く自然な青さだ。

 普通は無色透明なのでは?

 不思議に思い、しゃがんで自由な方の手を湖の中に突っ込んでみた。


「どんな感じ~?」


「あんまり……冷たくない」


 というか(ぬる)い。

 微妙にぬめりのようなものも感じたので、手を引き抜いて指の腹同士を擦り合わせてみる。

 僅かにとろりとした独特の肌触りを感じたが、決して不快な感触ではない。

 しばらく擦り合いを続けていると徐々に馴染んできたのか、とろみはすっかり無くなってしまった。

 代わりに残ったのはスベスベ感。まるで化粧水を付けた直後のように肌がしっとりしている。

 もしかしてこの湖……。


「温泉。いや、熱くないから冷泉って言うべきかな」


 正確な温度は不明だが、おそらく間違ってはいないだろう。

 確かアルカリ性の温泉が、こんな風にとろみのある泉質を有していた筈だ。

 俺は行ったことないけど、日本にもこの湖のような青湯の温泉宿があったと記憶している。

 湯布院だっけ?


「源泉かけ流しか。なんとも贅沢だねぇ」


 ―――我が生まれる遥か昔より、この地に存在する力ある湖だ。浸かるだけで身体を癒すことが出来る。


 曰く、傷の治りも早まる上に飲んでも美味いとのこと。


「飲めるの?」


 ―――飲める。


 このようにと言うが早いか、サングリエは湖の中に頭を突っ込むとガブガブと豪快に水を飲み始めた。

 たっぷり十秒程水を飲んだ後、突っ込んだ時と同じように豪快に頭を引き上げ、付着した水滴を散らすためにブンブンと大きく頭を振ってみせた。


 ―――どうだ?


「どうだじゃねぇよ」


 サングリエが飛び散らせた大量の水滴を至近距離から浴びた俺とエイルは、全身余すことなくずぶ濡れになってしまった。

 当然ながら俺の肩に乗っていたレイヴンくんも水を浴びており、嫌がるように大顎をガチガチ鳴らしている。

 犬猫がやるならまだしも、アフリカゾウをも凌駕する体格のサングリエがやれば、飛んでくる水量も相当なものになる。

 少しは自分の巨体さ加減を理解しろ。


「ビショビショ~」


 いや~んと普段から垂れ気味の眉尻を更に下げたエイルが濡れた服を摘まんで引っ張っている。

 ぴっちりと肌に張り付いた服は、ただでさえ主張の激しい彼女の爆乳を殊更主張させる結果となってしまった。

 まるで見てくれと言わんばかりの濡れ具合。

 故に俺の視線がエイルの胸元に固定されてしまうのも致し方ない訳であって……。


『オイ、この助平』


「不可抗力だ」


「ん~? 見たいならぁ、別に見てもいいよ~?」


 まさかのお許しが出た。

 では遠慮なくと断りを入れた直後、目の前というか左右の眼球の数ミリ先にそれぞれ剣指―――揃えて伸ばされた人差し指と中指―――が突き付けられた。


「何処を見ているのだ?」


「オイタは駄目ですよ?」


 いつの間に接近していたのか、全身から尋常ではない怒気と殺気を立ち昇らせたミシェルとローリエが今にも俺の眼球を貫かんとしている所為で、一歩も動くことが出来なくなってしまった。

 当然、素敵な爆乳(こうけい)を拝むことなど叶わない。

 本人からの許可を得ても駄目なのか。


「此処の水は飲んでも大丈夫なのですか? ちょうど喉が渇いていたのでございます」


 そんな俺達のやり取りなどお構いなしに湖の傍に寄ったユフィーが両手で水を掬い、そのまま何の躊躇いもなく口を付けた。

 変なところで度胸のある奴だな。


「ぷはーっ、ほんのり甘くて美味しいです」


「マジで?」


 とろみだけではなく甘みをも含んだ冷泉。

 そもそも日本の温泉と比べること自体間違っているのかもしれんが、この冷泉の泉質が謎過ぎる。


「はははっ、お前らは何処にいても変わんねぇなぁ」


「ローグさん、無事で何よりです」


 生憎、今の俺は無事とは言い難い状況だ。

 眼球の数ミリ先に突き付けられたまま停止している指先。

 そんな割りと切迫した状況に触れることさえなく、ローグさんは常と変わらない態度で話し掛けてきた。

 慣れって恐ろしい。


「ああ、かなりヤバかったけどな。そっちも色々とあったみてぇだな」


「ええ、折角の拠点も駄目にされちゃいましたよ」


 拠点を壊したのはサングリエだが、そこまで伝える必要はあるまい。

 参りましたと肩を竦めてみせたところ、ローグさんは気にした風もなく「命には代えられねぇさ」と言ってきた。


「お互い運が良かったな。積もる話もあるだろうが、まずは一息入れようや」


「そうですね。俺もいい加減身体を拭きたいです。あと出来れば助けて下さい」


 という俺の願いを聞き届けてくれる者など、この場に一人として存在する筈もなく。

 目潰し一歩手前の状態から解放されたのは、すっかりエイルが着替えを終えた後になってからだった。

 結局、最後まで素敵な爆乳(こうけい)を目にすることは叶わず、濡れた服のまま着替えることすら許されなかった俺はしばらくの間「ぶぇくしょんッ!」とくしゃみが止まらなかった。

お読みいただきありがとうございます。


次回更新は4/5(日)頃を予定しております。

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― 新着の感想 ―
[一言] そろそろこのパーティーの女性との関係も進展しないかな?
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