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第21話 美しき住み処

前回のお話……お助け希望

(猪 ゜Д゜)ヘルプ!

(真 ゜Д゜)どうしよ……

 深い森の中を巨大な猪―――サングリエがのっしのっしと歩いている。

 視界を塞ぐ無数の枝葉や足元に転がる石や倒木など、彼にとっては何の障害にもならない。

 ほとんど人の手が入っておらず、普通ならば歩くのにも苦労しそうな獣道をサングリエは自らの巨体で押し広げるように力強い足取りで進んでいく。

 俺は蜘蛛の群れに突撃した時の彼を戦車に例えたが、どちらかと言えば今は重機だな。


「なぁサングリエ、本当に重くないのか? 無理してない?」


 ―――心配は無用だ。然して重さは感じていない。


「ならいいけど、疲れたら言ってくれよ。俺ら自分で歩くから」


 ―――気持ちだけ受け取っておこう。


 今の会話内容から既にお気付きだとは思うが、現在我々はサングリエの背中に乗って移動している。

 最初はサングリエに先導される形で歩いていたのだが、途中足を止めて身を伏せた彼から背中に乗るよう言われたのだ。

 曰く、その方がずっと速いからと。

 流石に申し訳ないと思って断ったのだが、いいから早く乗れと促され、渋々というか恐る恐る―――体力のないユフィーだけは嬉々として―――乗せてもらうこととなった。

 そもそも八人も乗って大丈夫なのだろうかという俺の心配は杞憂に終わった。


「あらヤダとっても広い」


 余裕で全員乗れました。

 ギュウギュウに詰めなければ座れないのではと思っていたら、全然そんなことはなかった。

 背中に見えた金色の体毛は身体に沿って縦に生えている。

 黒褐色と金色の縞模様。まるでウリ坊のようだ。

 猪の体毛ってかなりの剛毛だと聞いていたのだが、サングリエの毛質は驚く程柔らかく、触り心地もしっとりしていた。

 蜘蛛共の攻撃をあれだけ喰らっていたというのに傷一つ負っていない。

 この毛皮の何処にそんな防御力が秘められているのやら。


 ―――こそばゆいぞ。


「あ、ごめん」


 触り心地が良いものだから、つい撫で過ぎてしまった。

 さて、我々が現在何処に向かっているのかというと……。


「サングリエの住み処って森の奥にあるの?」


 ―――うむ。人の歩みでは数時間は掛かるであろう。


「そこにローリエ達も居るんだよな?」


 ―――ローリエというのが誰を指すのかは分からぬが、森で保護した者達は我が住み処で身を休めている筈だ。


 目的地はサングリエの住み処。

 そこにローリエ達第一班が保護されているというのだ。

 何故このような流れになったのかというと、それはサングリエから協力を求められた時の話に戻る。



 ―――

 ――――――



「悪いけど、今は協力出来ない」


 力を貸してほしいというサングリエの申し出に俺はそう返していた。

 命の恩人からの頼みを断るのは非常に心苦しかったけど、今の俺達には協力出来ない理由があるのだ。


「仲間が森に入ったまま戻ってこないんだ」


 先行して森に入った第一班の安否が不明なのだ。

 そんな状況のまま、この場を離れる訳にはいかない。

 森の外にある拠点ですら襲撃を受けたのだから、森の中に入った第一班が襲われていない筈もない。

 無事であるならばきっと拠点に戻ってくる。

 だがもしも自力での帰還が叶わない状態になっていたら……。


 ―――何人だ?


 最悪の場合を想定し、今後の行動について考えを巡らせようとした時、突然サングリエが訊ねてきた。


 ―――森に入ったという汝の仲間は全部で何人だ?


「えっと……全部で六人。男が四人で女が二人」


 ―――女の一人は獣人で間違いないか?


「な、何か知ってるのか!?」


 俺はまだ第一班のことを詳しく話してはいない。

 それにも関わらずサングリエは獣人の女―――ローリエのことだ―――と口にした。

 これは彼が森の中でローリエ達と出会ったか、あるいは目撃したという事実に他ならない。

 驚きに目を見開く俺とは対照的にサングリエは落ち着き払った態度で頷くと……。


 ―――汝の仲間は全員無事だ。今は我が住み処で保護している。


 案ずることはないと言われた直後、気の抜けてしまった俺はその場に座り込み、深々と安堵の息を吐いた。



 ――――――

 ―――



 ローリエ達の無事を知った後、俺はサングリエに住み処まで案内してほしいと頼み込んだ。

 我ながら厚かましいお願いをしている自覚はあったものの、サングリエは嫌な顔―――猪の表情は分からないのでなんとなくだが―――をすることもなく、あっさりと了承してくれた。


「なんか悪いね。お前さんの頼みは断っておきながらさ」


 ―――気に病むことはない。仲間の安否を気遣うのは当然のことだ。


 俺の中で彼に対する感謝と申し訳なさが鬩ぎ合っている。

 本当になんと心優しい猪さんだろうか。

 こうしてサングリエの背に揺られ、草木が濃さを増していくばかりの景色を眺め続けていた時、突如としてその様相が一変した。


「こいつは……」


『なんと……』


 視界を遮る枝葉のカーテンを通り抜け、広い空間に出たと思った時、俺達の目の前には巨大な湖が姿を現した。

 ターコイズを思わせる美しい青緑色の湖面は、降り注ぐ陽光を反射してキラキラと輝いている。

 吹き付けてくる清涼な風が頬を撫で、咲き乱れた草花の香りが鼻腔を刺激する。

 まさか森の中にこんな空間が存在するだなんて。

 俺達の誰もが眼前に広がる光景に目を奪われ、感嘆の声を上げている中……。


 ―――ようこそ、我が住み処へ。


 何処となく自慢するような響きを伴い、サングリエは自らの住み処(いえ)に俺達を歓迎してくれたのだ。

お読みいただきありがとうございます。


次回更新は3/31(火)か4/1(水)を予定しております。

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