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第1話 始まりは踏んだり蹴ったり

 ある日、森の中、ゴブリンさん(仮)に出会いましたとさ。

 冷静に考えてみよう。

 貴方ならどうする?


 ―――選択肢その一:戦う

 ゲームなどでは割とザコ扱いされることの多いゴブリンだが、生憎と俺が居る世界はゲームではなく現実なのだ。

 実際の能力が未知数である以上、下手な真似は出来ない。

 武器になりそうな物も手元にはない。

 素手?

 無理無理怖いもの。

 この選択肢はないな。却下だ。


 ―――選択肢その二:話し合い

 さっきから頻りにゲギャゲギャギーギーと喚かれているのだが、具体的に何を言われているのかはさっぱり分からない。

 いったい何処の国の言語なのやら。却下で。


 ―――選択肢その三:逃げる

 見た目は小さな子供並の体格なので、とても身軽ですばしっこそうに見える。

 相手の方が数も多い―――三人、いや三匹か―――ので、走って逃げられるかは微妙。

 仮に逃げ切れた、あるいは相手が追ってこなかったとしても俺には土地勘がない。

 見知らぬ森の中を一人で、しかも何の宛もなく彷徨うだなんて、考えただけでもゾッとする。

 論外だ。却下。


 こうなってくるとあとは……あれ、もしかしてこれって詰んでる?

 知らず、一筋の汗が頬を伝った。

 落ち着け。焦るな。ビークール。

 内心で自分にそう言い聞かせながら、改めて相手の様子を窺う。

 醜悪な緑色の化け物ゴブリン……と思われる生物。

 ファンタジーにおける定番モンスター。

 醜く歪んだ顔、白濁した目、口元からは鋭くも不揃いな牙―――乱杭歯が何本か覗いて見えた。

 こちらを指差しながら、仲間同士でゲギャゲギャと理解不能な言語で話し合っている。

 俺を警戒しているのか、あるいは侮っているのか。見ただけでは判断がつかない。

 身長は低く、おそらく120センチに届かないのではなかろうか。

 総じて手足も細かった。

 全員が同じようなボロ布を腰に巻いているだけで、まともな衣服を身に付けてはいない。

 俺から見て右側の個体だけが何も手に持っておらず、他の二匹は棍棒と思しき木の棒を握っている。

 パッと見て分かるのはこんなところだろうか。

 対して俺の方はどうかというと……。

 上下共に暗色系のコンバットシャツとパンツのセット。

 こんな格好をしているのは、サバゲーに参加してきた後だからだ。

 足元には今回のサバゲーで使用したエアガンを納めているガンケース。

 他にも様々な荷物を詰め込んだ大型のバックパックに食材や飲み物が大量に入ったクーラーボックス。

 ここまでは問題無し。

 突如、俺がこの森の中に移動―――転移?―――させられる前に車から降ろしておいた物だ。

 あとはタイヤが一本だけ転がっている。

 ……どれだけ察しが悪かろうと気付く。

 多分これ、俺の車のタイヤだよね。

 見覚えあるし、位置的に車を停車させていたのと同じような場所に転がっているから。

 何が原因でこんな状況にいるのかはさっぱり分からん。

 分からんがこれだけは言わせてほしい。


 ―――何故タイヤだけなんだ。


 こんな中途半端なことをするくらいなら、いっそのこと車一台丸ごと持ってこさせろよ。

 もしくは丸ごと置いてこいよ。

 そうすれば諦めもついたのに……。

 ローンだって払い終わってねぇんだぞ。

 なんだか無性に悲しくなってきた。

 ちなみにこの間、前方に控えているゴブリン共が何をしていたかというと……。


「GYAGYAU!」


「GYAGAGA!」


「GYAUR!」


 ものっそ喚き散らしていた。

 愛車に思いを馳せながら内心で涙を流している俺のことなどお構いなしである。

 なんとなく威嚇されているんだろうなぁとは思うけど、相変わらず何を言っているのかはさっぱり分からないので、然して腹も立たなかった。

 ……意外と冷静だな、俺。

 普通ならもっと焦ったり、パニックを起こしてもおかしくないはずなのに、段々と今の状況を受け入れつつある。

 まあ、迂闊なことをして状況を悪化させるよりはずっとマシか……などと余裕を見せていたのが悪かったのだろう。


「GIGYAA!」


しびれを切らして飛び掛かってきた一匹への反応が遅れた。


「ちょっ!?」


 咄嗟に後ろへ下がろうとしたが、足がもつれて上手くいかず、無様に尻餅をつく羽目になってしまった。


「あでッ!」


 ぶつけた尻が痛むものの、結果的に相手が振り下ろしてきた棍棒を回避することには成功した。

 頭を狙っていたのか、棍棒は俺の鼻先に触れるかどうかといったギリギリのところを通過していった。

 まさか躱されるとは思っていなかったのだろう。

 ゴブリンはその白濁とした目を驚きで見開き、標的を捉えられなかった棍棒は全力で地面に叩き付けられた。

 地面を殴打した衝撃はダイレクトに持ち手へと伝わり、俺に襲い掛かったゴブリンは握っていた棍棒を取り落とし、その場に蹲ってしまった。

 棍棒を握っていた手―――右手を小刻みに震わせながら。


「うわぁ」


 めっちゃプルプルしてる。痛そう。

 そんな仲間の姿を見て、残りの二匹はゲラゲラと下品に笑っていた。

 続けて襲ってもこなければ、仲間を助け起こす様子もない。

 チャンスだ。行動するなら今しかない。

 そう考えた俺は、尻餅をついた状態から急いで腰を上げると地面に転がっている棍棒の柄を握り、大きく頭上へ振り被った。

 狙うは未だ蹲ったまま動けずにいるゴブリンの後頭部。

 この際、動けない相手に攻撃することを卑怯だとは思わない。

 先に手を出してきたのはこいつだし、そもそも三対一で敵の方が数も多いのだ。

 それに問答無用で襲い掛かってきた相手を許してやる程、俺は寛容な性格もしていない。

 これは正当な報復だ。


「くたばれゴブ公がッ!」


 相手のドタマをかち割るべく、全力で棍棒を振り下ろしたのだが……。


「はぁぁあああああッ!」


 突然、威勢の良い叫びと共に横合いから走ってきた何かというか誰かが、俺の標的たる眼前のゴブリンを思いっ切り蹴り飛ばしてしまったのだ。

 茂みの奥へと吹き飛んでいくゴブリン。

 謎の人物は速度を緩めることなく、残りの二匹へと突っ込んで行った。

 そして標的を見失ってしまった俺はといえば、全力で振り下ろした棍棒の勢いを今更止められる筈もなく、蹴り飛ばされたゴブリンと同様に全力で地面を殴打することになった。

 当然、地面を叩いた衝撃は余すことなく持ち手に伝わり、情けなくも俺はその場で蹲る羽目になってしまった。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
「相手のドタマをかち割るべく、全力で棍棒を振り下ろしたのだが……。」 ゴブリンを殺そうとしていたところを邪魔されたんだから、ゴブリンの仲間が現れたと言うことなのでしょうねる
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