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第10話 夜襲応戦

前回のお話……岩かと思いきや

(真 ゜Д゜)蜘蛛!?

(蜘蛛 ゜Д゜)……

「エイルッ、明かりだ!」


 岩に擬態した蜘蛛の姿を認識した直後、俺は叫ぶように指示を飛ばした。

 具体性に欠ける曖昧なものだったが、エイルは一切の疑問も文句も挟むことなく、この指示に応じてくれた。


「『暗き道を照らせ(■■■■■■■)』―――〈光明(ライト)〉!」


 真上に向けられたエイルの掌から真っ白な光の玉が放たれる。

 撃ち出された光の玉は、空中で停止すると同時にその光量を急激に増し、野営地周辺を明るく照らした。

 暗闇が払われ、その中に身を潜めていた者達の姿が露となる。


「とっくに囲まれてるぞ! 迎え撃てぇ!!」


 突然出現した―――ようにしか見えない―――巨大な蜘蛛の姿に誰もが驚く中、俺は声を張り上げた。

 普段なら決して出さないような大声を出した所為で喉が痛い。

 だがその甲斐あってか、みんなの意識は驚愕から迎撃へと即座に切り替わった。

 俺も空間収納から単発小銃(ライフル)を取り出し、銃口を蜘蛛に向けて構える。

 ゆっくりと折り畳んでいた脚を広げ始める蜘蛛共。

 その動作を最後まで見ることなく、俺はライフルの引き金を引いた。

 銃口から吐き出されたスラッグ弾は、一匹の蜘蛛の胴体に着弾し、黒い外殻を傷付けた……が。


「嘘だろ……!」


 スラッグ弾が着弾した箇所は、弾の形状と同じように削れ、間違いなく傷付いている。

 だがそれだけだった。

 蜘蛛がダメージを負った様子はない。

 むしろ何してんのと言わんばかりに八つの赤い複眼で俺のことを見ている。

 そして折り畳まれていた筈の蜘蛛の脚は、すっかり広げられていた。

 即ち準備万端。


「のぉ!?」


 当然襲ってくる。

 バネ仕掛けのようにビョンと地面を跳ねた蜘蛛が飛び掛かってきた。

 慌てて身を仰け反らせることで、辛うじて蜘蛛の体当たりを回避することは出来たのだが、この際に腰からグキッという不吉な音が聞こえてきた。

 腰の痛みに耐えつつ背後を振り返れば、着地した蜘蛛が再びこちらに飛び掛かろうとしているのが分かった。

 実包の再装填は間に合わないと判断した俺は、持っていたライフルを咄嗟に手放した。

 そして蜘蛛が飛び掛かってくるよりも早く、空間収納から予備のライフル―――実包装填済み―――を取り出して構え、ほとんど狙いを付けることなく発砲した。

 発射されたスラッグ弾は先程と同様、蜘蛛の外殻を僅かに傷付けることしか出来なかったものの、その行動を阻害することには成功した。


(かて)ぇなぁ、チクショウ!」


 前回の巨大蛇(フェルデランス)に続いて、この蜘蛛も驚く程硬い身体を有しており、大型動物すら仕留めるスラッグ弾が全く通用しない。

 今更文句を言っても始まらないと理解してはいるものの、折角購入したライフルが活躍出来ないのだ。

 悪態の一つも吐きたくなる。

 二度の攻撃を喰らった結果、目の前の標的(おれ)は脅威にならないと判断したのかもしれない。

 今度は飛び掛かってくるような真似はせず、八本の脚を不規則に動かしながら蜘蛛はゆっくりと近付いて来る。

 完全に舐められてるな。


「何この蜘蛛ムカつく」


 ムカついたのでライフルと入れ替えるように空間収納からエアライフル(静音)を取り出し、問答無用で魔力弾を撃ち込んでやった。

 放たれた鋼色の弾丸は強固な外殻など物ともせず、蜘蛛の身体を貫いた。

 蜘蛛は一度だけビクッと全身を痙攣させた後、沈むように地に伏せ、そのまま動かなくなった。


「ざまぁみろ」


 フンスと鼻から息を吐きつつ、みんなは大丈夫だろうかと目を向けたが……。


「セェェェアッ!」


「フンッ!」


「え~い」


 赤い光を刃に纏ったミシェルの〈ロッソ・フラメール〉が蜘蛛の脚を数本纏めて斬り飛ばす。

 刺突のように突き出された蜘蛛の脚をローリエが〈獣化〉させた両腕で掴み止め、一本背負いよろしく地面に叩き付けた。

 矢継ぎ早に放たれたエイルの矢が蜘蛛の複眼を次々と射抜いていく。


「圧倒的じゃないか、我が軍は」


 無用な心配だったな。

 他のメンバーも問題なさそうだ。

 ヴィオネとドナートの魔術による火力ゴリ押し。あるいは柔らかい腹の底や複眼を狙った攻撃で蜘蛛共を追い込む。

 ミランダだけはご自慢の鎚矛メイスで蜘蛛の全身を滅多打ちにしていたけど……。

 途中、流石に戦闘音が喧しい中で眠り続けることは出来なかったのか、「な、ななな、何事ですか!?」と動転したディーナ女史がテントから顔を出してきた。


「動けるように準備しときな。あと寝癖付いてるよ?」


「見ないで下さい!」


 顔を真っ赤にして、再びテントの中に引っ込むディーナ女史。

 ちょっと可愛いじゃねぇか。

 戦闘中であることも忘れてそんなことを考えていると『真面目にやらんか』と呆れたような声が聞こえてきた。

 何故バレた。


「これで最後だ!」


 ジュナが最後の一匹を仕留めたことで戦闘は無事終了。

 念のための警戒はするが、周囲におかしな気配は感じられないとエイルが言っているので、おそらくは大丈夫だろう。


「もしかしなくてもこれが黒鉻蜘蛛(クロムスパイダー)って奴ですか?」


 俺からの質問にローグさんは蜘蛛の死骸を蹴りながら、「ああ、間違いねぇ」と答えてくれた。

 野営地を襲撃してきた黒鉻蜘蛛(クロムスパイダー)は全部で十一匹。

 これだけの数と戦って怪我人が一人も出なかったのは幸いだが、まさかあそこまで接近を許してしまうとは……。


「ローリエやエイルの感知を掻い潜る魔物が存在するとは思わんかった」


「すみません」


「ごめんなさ~い」


「いや、嬢ちゃん達が謝ることじゃねぇ。元々虫系の魔物は気配が薄い上に黒鉻蜘蛛(クロムスパイダー)は隠密行動に長けてやがるんだ」


 むしろ気付けただけでも大したものだとローグさんは褒めてくれるが、責任を感じている二人はシュンと落ち込んだままだ。

 取り敢えず二人の頭を撫でてやったところ、ローリエは尻尾が左右にパタパタ、エイルは長耳が上下にピコピコと動いている。

 この程度で機嫌が直るのなら安いものだ。

 幾らでも撫でて……ミシェル、そんな不機嫌なんだけど実は羨ましそうな眼差しでこっちを見るな。

 俺は二人を慰めているだけだ。

 疚しいことなど何もしていない。


「しかし、森で確認された筈の黒鉻蜘蛛(クロムスパイダー)がこんな平原に出てきやがるか。グラフの旦那、どう思うよ?」


「んー、ちょっとばかし面倒な事態が起きてるのかもねぇ」


 ローグさんとグラフさんが常よりも厳しい表情を浮かべている。

 何か気掛かりなことでもあるのだろうかと訊ねると、ローグさんは「まあ……ちょっとな」と妙に歯切れの悪い返事をくれた。


「気になることがあるなら教えて下さい。情報は可能な限り共有しておいた方が良いです」


「本来、黒鉻蜘蛛(クロムスパイダー)ってのは活動範囲が狭いんだよ」


 何故か言い淀んでいるローグさんに代わり、グラフさんが教えてくれた。

 黒鉻蜘蛛(クロムスパイダー)は自らの巣を中心に活動する魔物で、そこからあまり離れた場所までは行かないらしい。

 今回の場合、目的地である森こそが奴らにとっての巣であると同時に狩り場となる。


「食える獲物が少ないとかで住み処を移すこともあるけど、そんな頻繁に発生することでもないし、大体はバラバラで移動するのが普通だ。そもそもあそこの森は広大だ。人の手もそんなに入ってないのに餌が無くなるなんてのは有り得んよ」


「つまり……」


「出くわす筈がないんだよ。こんな平原のど真ん中で」


 有り得ない場所での遭遇と戦闘。

 厳しい表情を崩さないまま告げられたグラフさんの言葉に、俺は言い様のない不安を感じた。

お読みいただきありがとうございます。

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