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第2話 鋼鉄級の実力 ~真澄 対 ローグ~

前回のお話……模擬戦開始

(真 ゜Д゜)行くぞコラァ

(ロ ゜Д゜)掛かってこいや

「それじゃ……始め」


 トルムが締まりのない声で試合開始の合図を出した。

 それと同時に俺は地面を蹴り、一気にローグさんとの距離を詰めた。


「おっ?」


 まさか俺から攻めてくるとは思っていなかったのだろう。

 意外そうに目を見張るローグさんには構わず、俺は右手に握ったナイフを大きく振り被り、袈裟懸けの軌道で斬撃を放った。

 こちらの攻撃を防ぐため、ローグさんは斬撃の軌道上に移動させた木剣を横へ寝かせるが、この攻撃は誘いだ。

 最初から防御させるために放った牽制の一撃。

 本命は密かに腰の裏から引き抜いた予備のナイフによる腹部への攻撃。

 長引けば不利になるのは俺の方だ。

 奇襲による短期決戦で勝負を決める。

 右手のナイフが木剣によって防がれると思われた直前……。


「バレバレだぜ?」


 ニヤリと太い笑みを浮かべたローグさんは、体格に見合わぬ俊敏さを発揮して後ろに下がった。

 標的を失った右手のナイフは空しく宙だけを掻き、思わず「ぅえっ」という間抜けな声が漏れた。

 防御に使うと思われていた木剣は、いつの間にやら大上段に構え直されている。

 回避を行うと同時にローグさんは反撃の準備も終えていたのだ。


「ぬぅん!」


 無防備な姿を晒している俺の脳天目掛けて、渾身の振り下ろしが放たれる。

 ほぼ同時に俺はもう一度地面を蹴って左斜め前へと飛び込み、辛うじて反撃の刃を回避した。

 一瞬前まで自分が立っていた場所に振り下ろされた木剣の剣圧に肝を冷やしつつ、ローグさんの右脇を通過した俺は、前回り受け身の要領で素早く起き上がり、追撃をされないように距離を取った。


「あっぶねぇ……ッ」


 良いところを見せる前にやられてしまうところだった。

 というか開始十秒で試合終了は流石に早過ぎる。

 不意を突いたつもりだったのだが、どうやら俺の行動は完全に読まれていたらしい。


「おー、今のを躱すかよ」


 今し方振り下ろしたばかりの木剣の剣身で肩をトントンと叩きながら、ローグさんは感心したようにこちらを眺めている。

 一先ず追撃される心配はなさそうだが……。


「ローグさん、さっきの攻撃……完全に頭狙ってましたよね?」


「おう。カチ割るつもりで振ったんだが、まさか躱されちまうとはな。思ってた以上に良い反応するじゃねぇか」


「おい待てコラ、カチ割るってどういう意味だ?」


 (どたま)か?

 (どたま)カチ割るつもりだったんか?

 まさかの殺害予告なのか?


「本気でやらねぇと訓練にならねぇだろうが」


「そりゃそうかもしれませんけどね」


 ()る気満々なのは結構だが、()る気満々なのは勘弁していただきたい。

 訓練中の人死になんてギルドも絶対に嫌がると思うぞ。


「結構自信あったんですけどねぇ」


「悪くねぇ手だったが、あれじゃ駄目だ。ある程度戦い慣れしてる奴が相手なら、一撃目が誘いだってすぐにバレちまうぜ」


 そんなに分かり易かったかな。

 ただ正直なところ、この人だったらあの程度の不意討ちには対応するだろうとも思っていたので、あまりショックでもない。

 問題はこの後どうやって渡り合えばいいのかという点だが……。


「無駄話はここまでにして、今度はこっちから行くぜぇ!」


 流石にこれ以上考える時間は与えてもらえなかった。

 ローグさんは上体を僅かに前傾させると、力強い踏み込みで接近してきた。

 彼は身長180センチオーバーの大柄で厚みのある体格をしており、一見するとそれ程スピードがあるようには見えない。

 だがこちらの予想を大きく上回る速度で距離を詰めたローグさんは、肩に担ぐように構えた木剣で豪快な袈裟斬りを放ってきた。


「そぉぉらッ!」


「―――ッ」


 予想外の速度に驚かされはしたものの、追撃を警戒して事前に距離を取っていたのが幸いした。

 俺は後ろに飛んで攻撃を回避し、反撃に移ろうと考えたが、それは許されなかった。

 ローグさんは間合いの外へと逃げた俺を追って、踏み込みの速度を上げてきた。

 更には手首の返しを利用し、上からの振り下ろしを下から掬い上げるような斬撃へと切り替えたのだ。


「―――ぅおッ!?」


 木剣の切っ先が顔のすぐ傍を通過し、千切れた数本の髪の毛が宙を舞う。

 慌てて距離を取ろうとするが、ローグさんは俺を木剣の間合いから逃がしてはくれず、結果として防御と回避に専念せざるを得なくなった。


「どうしたマスミィ! 逃げてるだけじゃ勝てねぇぞ!」


「ぐっ、ちぃ……ッ」


 無茶を言うなと言い返してやりたかったものの、生憎そんな余裕は微塵もない。

 ローグさんの実力は充分知っているつもりでいたが、こうして立ち合うことで改めて判明したことがある。

 単純に筋力や剣技に優れているだけではなく、彼は戦い方が上手い(・・・)

 特に間合いの取り方が厄介だ。

 俺が攻めようとすれば距離を開け、下がろうとすれば即座に詰めてくる。

 巧みなフットワークで常に自分に有利な距離を維持し続けている。

 おかげで俺は防戦を強いられていた。

 直撃こそ避けてはいるものの、木剣の切っ先は何度も俺の身体を掠めている。

 このままではジリ貧だ。

 だから俺は無理矢理にでも流れを変えると決めた。


「何も手がねぇなら……このまま決めちまうぞ!」


「まだ、まだぁ!」


 最早、息をするような感覚で発動出来るまでになった魔力操作―――身体強化。

 全身から魔力の光が放出されると同時にナイフを振り上げ、落ちてくる木剣の一撃を受け止めた。

 強化された身体能力に物を言わせ、力尽くで木剣を弾き飛ばした。


「おぉ……っらぁ!」


「ぬおッ!?」


 木剣を弾かれたことで僅かにローグさんが仰け反る。

 その隙に懐へ潜り込んだ俺は、アッパーカットのように下から突き上げるような斬撃を放った。

 ローグさんは顔面目掛けて迫るナイフに驚いた様子を見せつつも、それ以上の反応は示すことなく、首を傾けて攻撃を回避した。

 相手の冷静な対処に内心歯噛みするも、俺は動きを止めることなく攻撃を続けた。

 ナイフと蹴りを交えたコンビネーション。

 通常時を大きく上回る速度の連撃でローグさんを攻める。

 だが……。


「くっ……」


 攻め切れない(・・・・・・)

 身体強化の恩恵により、腕力はともかくスピードでは今の俺の方が上回っている筈なのに繰り出す攻撃のことごとくが捌かれ、防がれてしまう。

 理由は単純。技術と経験の差だ。

 幾多の戦闘経験に裏打ちされた見切りと読み。

 そして卓越した体捌きによって、ローグさんは俺の攻撃を全て凌いでいるのだ。

 折角のアドバンテージを生かすことが出来ず、徐々に焦りを覚えるも、攻撃の手だけは緩めない。

 技量が劣っていることなど、最初から分かっていたことだ。

 その事実を再認識したところで今更悔しくもならない。


「シィァアアアアッ!」


「ちぃ……ッッ」


 技量の差は手数でカバーする。

 ローグさんだって決して余裕で凌いでいる訳ではないのだ。

 だったら凌ぎ切れなくなるまで攻撃し続けるまでだ。

 俺の魔力が尽きるよりも先に防御を突き崩す。


「セェアッ!」


「ぐおっ!?」


 攻撃を続ける最中、一発の前蹴りが防御を掻い潜り、ローグさんの腹部に突き刺さった。

 強化された脚力で蹴り付けられたローグさんの身体が5メートル近くも後ろに下がる。

 思った以上に蹴った感触が軽かった。

 おそらくは自ら後ろに跳んでダメージを軽減したのだろうが、攻撃は入った。

 ようやく巡ってきたチャンスを無駄にするつもりはない。

 このまま畳み掛けるべく、追撃しようとした時……。


「やるなぁ、マスミ。まさかここまで出来るとは思わなかったぜ」


 というローグさんの呟きが耳に届き、思わず足を止めてしまった。


「だったら俺も……奥の手を使うとするか」


 そう言って口の端をニヤリと歪ませたローグさんは木剣の柄を右手だけで握ると、まるで抜刀をするかのように腰の脇へと持っていき、更にそこから身体を大きく捻った。

 武器を隠す代わりに自ら背中を晒すような隙だらけの構え。

 いや、本来なら構えとすら呼べないだろう。

 だがその姿を目にした時、俺の中の何かが警鐘を鳴らした。

 あの木剣を振らせてはいけない。

 ローグさんの行動を阻止するため、咄嗟に投げナイフ(スローイングナイフ)を投擲しようとしたが、既に手遅れだった。


「ぬああああああッ!!」


 雄叫びと共にローグさんの全身から噴き出す魔力の光。

 それを引き金に構えていた木剣が大きく横凪ぎに振るわれる。


 ―――直後、放たれた閃光に俺の全身は貫かれた。

お読みいただきありがとうございます。

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