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第11話 ある日の冒険者ギルド ~恋バナ?~

前回のお話……メリーの同僚、名前判明

(ベ ゜Д゜)細かい仕事は苦手っす

 ―――side:ベルタ―――



 ディーナさんの手によって拉致紛いの連行をされたあたし。

 ズルズルと引き摺られるがまま奥の会議室へ入ったと思ったら、何の説明もなく着席させられ、何かの資料らしき書類の束を押し付けられた。

 目を通しておきなさいとだけ言い残し、ディーナさんは何処かに行ってしまった。

 一人置いてけぼりのあたし。

 渡された資料をペラペラと捲って、目を通した振りを続けること約十分。

 ようやくディーナさんが戻って来た。

 何故か休憩に入っていた筈のメリーや数人の職員を引き連れて。


「なんでベルちゃんが会議室(ここ)にいるんですか?」


「あたしが聞きたいよ」


 拉致されてきたなんて言えないからね。

 各々適当な席に着く職員達。メリーはあたしの隣に座った。

 ディーナさんが着席した面々を見回し、「それではこれより会議を始めます」と告げた。

 何の説明もないまま唐突に始まった会議。

 会議ってなんの?

 そもそも何故この場に連れて来られたのかさえ不明なんですけど。

 そんな疑問まみれなあたしのことなどお構いなしに会議は進んでいき……。



 ―――二時間後―――



「始めますじゃねぇだろ~。ちゃんと説明しろよ~」


 よく分からないままに始まった会議は、最後までよく分からないまま終了した。

 なんだか釈然としなかったあたしは業務が終了するのと同時にロビーに併設されている酒場へ移動し、そこで呑んだくれることにした。


「ベルちゃん、呑み過ぎですよ。それにあまり大きな声を出すと他の職員に聞こえちゃいますよ?」


 対面に座ったメリーがちびちびと果実酒を呑みながら、やんわりと窘めてくる。


「はんっ、別に聞かれたって構いやしないよ。エールお代わり」


 今更その程度のことであたしの評価が変わるとも思えないし。

 まあ、外で店を探すのが面倒だったっていうのもあるけどね。


「そもそも会議って何さ。あたしゃそんなもんに一度も参加したことないっての。今期の予算がどうとか言われたって分かんねぇ」


 ディーナさんも何考えてるんだか。

 ただでさえ事務仕事は苦手なのに、細かい数字のことまで言われたところで理解出来ませんって。


「受付の仕事だけで手一杯なのに、これ以上仕事量増やされたら堪んないよ。あたしはそんなに要領良くないんだから」


「でもディーナさんが意味のないことをするとも思えませんけど」


「何さぁ、メリーはあたしじゃなくてディーナさんの味方って訳?」


「いえ、どちらの味方とかそういう話ではなく。良くも悪くもディーナさんって真面目な方ですから、誰かに嫌がらせなんて考えないと思いますよ? ベルちゃんなら参加しても問題ないと判断したのでは?」


 最近のディーナさんは評判良いですしと言って、果実酒のお代わりを頼むメリー。

 以前までのディーナさんはいつも神経質そうにしていて、常に近寄り難い雰囲気があった。

 何か心情の変化でもあったのか、それとも単に気持ちに余裕でも出来たのか。

 人当たりが柔らかくなったし、仕事の割り振りも的確で働き易くなったと専らの評判。

 確かに少し前よりも接し易くなったとは思うけどね。


「男か? やっぱ男なのか?」


 メリーのお気に入りでもある黒髪黒目の冒険者―――マスミ=フカミ。

 実はディーナさん、仕事終わりにこの男と二人で呑みに行ったことがあるらしい。

 犬猿の仲だった筈なのに何故と話を聞いた時は耳を疑ったけど、ディーナさんが変わったのはその翌日からだ。

 絶対何かあったに違いない。


「チクショウ、仕事が恋人ですみたいな顔してたくせにいきなり色気付きやがってぇ……ッ」


「どんな顔ですか。ディーナさんに限ってそれはないと思いますけど」


「何を他人事みたいに言ってんのさ。盗られても知らないよ。むしろ既に盗られたかも」


「盗られるって……」


 本人が明言した訳じゃないけど、メリーがマスミ=フカミのことを憎からず思っているのは事実。

 ちょっとキツめの印象はあってもディーナさんは美人だし、仕事も出来る。

 年齢だってあの人の方が近いんだから、もうちょっと焦るべきなんじゃね?

 なんでそんなに余裕そうなの?


「んー、こういう言い方はしたくありませんけど、ベルちゃんもまだまだってことなんじゃありません?」


「何がまだまだ?」


「女性として」


 あたしが女としてまだまだだと?

 ほほう、随分と上から物を言ってくれるじゃないの。


「男と付き合ったこともないあんたに何が分かんのさ」


「交際経験は関係ありません。恋をしているかどうかなんて、乙女だったら見ただけで分かります。大体殿方とお付き合いしたことがないのはベルちゃんも同じじゃありませんか」


 自信あり気に告げてくるメリー。

 こうもキッパリと言い切られてしまったら、あたしも強く言い返すことは出来ない。

 ぶっちゃけ男女のあれやこれやなんてちっとも分からない。

 だって経験ないし……って。


「オイ、今遠回しにあたしは乙女じゃないって言ったろ」


「お二人にいったい何があったのか。わたしだって詳しくは知りませんけど、険悪だったお二人の関係が改善されたのなら喜ばしい限りじゃありませんか」


 あたしの発言を無視してメリーが言葉を重ねてくる。

 ヤバい。ちょっと面倒臭そう。


「世の中には色恋抜きで親しくされている男女もいるんです。そんな方々からすれば、今のベルちゃんの発言はまさに邪推。下衆の勘繰りもいいところですよ」


「下衆って……そこまで言わなくてもいいじゃん」


 ていうかそんなつもりで言った訳じゃないんだけどと言い訳しようとしたら「お黙り下さい」と発言を遮られた。

 ヤバい。面倒臭そうなんてもんじゃなかった。

 これは怒ってる。

 何がメリーの逆鱗に触れたのかは分からないけど、間違いなく怒ってる。

 メリーはテーブルの上に両手を突くと「ベルちゃん、よろしいですか?」と身を乗り出すように顔を近付けてきた。

 よろしくないっすと言っても聞き入れてもらえそうになかった。


「何事も憶測だけで決め付けてはいけません。仮に事実であったとしても悪戯に吹聴してはいけません。それは相手の名誉を傷付けことになり兼ねませんし、ベルちゃん自身のためにもなりません。そもそもベルちゃんは普段からもっと発言に気を遣ってですねぇ―――」


 先程の会話、ディーナさん交際疑惑に関することから始まり。

 普段のあたしの発言内容や振る舞い。果ては養成校時代にまで遡って言及し始めるメリー。

 昔のことは別によくねと言ったら、またもや「お黙り下さい」の台詞と共に遮られた。

 今のあたしに発言の自由はないらしい。

 酒場の従業員や冒険者達が見ている中、小言と言う程うるさくもなく、叱責という程厳しくもない絶妙なメリーのお説教をあたしはただ黙って聞いていることしか出来なかった。

 言い訳くらいさせてぇ。

お読みいただきありがとうございます。

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