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第6話 若手パーティの奮闘劇 ~蜥蜴を探せ~

前回のお話……いのちをだいじに

(セ ゜Д゜)我々は無茶をしない

(ニ ゜Д゜)メシうま

(イ ゜Д゜)帰りたい……

「ねぇねぇ、セント。今からでも遅くないからやっぱり帰りましょうよぉ」


「お前まだそんなこと言ってんの?」


「だって危ないじゃない。あの傷見たでしょ? あんな穴だらけの身体になって死ぬなんて絶対嫌よ、私」


 明けて翌日。簡単な朝食―――干し肉と水だけ―――を済ませた後、俺達は全員で森の中へと入った。

 野営地に馬車と馬を残していくのは少し心配だったけど、ここで戦力を分散させたら昨夜の話し合いが無駄になっちまうから仕方ない。


「ったく、それにしても歩き辛いなぁ」


 場所が場所だから木や植物が多いのは当たり前なんだけど、同じくらい倒木や岩がそこら中に転がっている上に太い木の根があちこちの地面から出ている所為で凄く歩き辛い。

 おまけに生い茂った葉や迫り出た枝に視界が遮られて、満足に先が見通せない。

 自然と足取りは慎重になり、進行速度も遅くなる。


「ニナ、悪いんだけど先頭頼む。俺じゃどっちに進んだらいいのか分かんねぇや」


「ん、了解」


 先頭をニナと交代し、俺は後ろに回って殿(しんがり)を担当する。

 普段、殿はニナに任せているのだが、このまま俺が先頭になって進んでいたら、その内迷ってしまう可能性があったので交代をお願いした。

 感覚が鋭く、森の中での活動にも慣れているニナだったら迷わず進んでくれる筈だ。


「ニナ、堅皮蜥蜴(ハードリザード)の匂い分かる?」


「んーん、血の匂いしか覚えてない」


 僅かに眉を下げ、残念そうに首を振るニナにコレットが「気にしないで」と返す。

 そりゃ幾らニナの嗅覚が優れているからって、あれだけ血が流れてたら他の匂いなんか感じられないよな。

 ちょっとした会話を交えつつ、足を止めることなく進み続けて三十分以上が経つけど、堅皮蜥蜴(ハードリザード)の姿は見当たらない。

 ここまでの行程で見掛けたのは小さな虫や小動物くらい。

 他の魔物どころか野生の獣すら出て来ない。

 安全第一で行動すると決めていたので、危険が少ないのは有り難いんだけど……。


「ここまでくると正直暇だな」


「何も出て来ないのも考え物だね」


「むしろ何も出て来なくていいわよ」


 怖いし……と最後に情けない台詞を付け足すイルナ。

 このまま何も出て来なかったら大赤字確定。

 それだけは本当に困るので勘弁してほしい。


「ニナ、この際他の魔物や獣でも構わないからさ。何かしら匂いを探せないか?」


「探せない……訳じゃないんだけど。この森、木や土の匂いが強くて、他の生き物の匂いが分かり難い」


「匂いが強い?」


 ニナを真似てスンスンと鼻をひくつかせ、周囲の匂いを嗅いでみる。

 言われてみると、葉っぱを嗅いだ時に感じる独特の青臭さや土臭さなんかが漂っている……ような気がする。

 それに吹いてくる風も湿気っぽくて生温い。


「多分、この森はあんまり人の手が入ってないと思う」


「え、そうなの?」


「うん。頻繁に人が行き来してるんだったら、もっと歩き易いように地面が踏み固められてたり、邪魔な枝葉は切り払われてる筈だから」


「あー、確かにどう見ても獣道だもんな」


 人のためじゃなくて野生の獣が通るためにある道だ。

 そんな道が歩き易い筈もない。


「えっと……這いずったような跡もないし、堅皮蜥蜴(ハードリザード)が利用してる道じゃなさそうだね」


「こりゃ見付けるのに―――」


 時間が掛かりそうだなぁと言い掛けた時、ニナが「シッ」と口の前に人差し指を立てた。

 その仕草を見て会話を中断する俺達を余所に、ニナは人差し指を立てたまま目を閉じた。

 時々、頭の猫耳がピクピク動いたり、鼻をひくつかせている様子からして、何かしらの異常を感じ取ったのが分かる。

 しばらくそうして集中した後、ニナはおもむろに目を開き「こっち」と言って、脇の小道に入ってしまった。

 慌ててニナの後を追い掛けようとするが、ここまで歩いて来た獣道と比べて道幅が狭くなってる上に地面には下生えの草に隠れた段差が幾つもある。

 気を付けなければ足を取られてしまいそうだ。

 そんな悪路をニナは平地と変わらないような速度でスルスルと駆けて行く。

 小柄な体躯が幸いしてか、コレットも意外な速さでニナの後ろを付いて行った。

 だが俺とイルナの二人は、そう簡単にいかなかった。

 無駄にデカい図体が災いした俺は、木の枝や葉っぱに阻まれて中々前に進めず、イルナに至っては単純に鈍臭いので何度も段差に躓き、「痛ッ、またお尻打ったぁ」と涙目になっていた。


「くそ、服に引っ掛かる……ッッ」


 それでもなんとか苦労して先に進み、邪魔な障害物を抜けた先ではニナとコレットが揃って地面に片膝を突き、身を低くしていた。

 二人とも背の高い茂みに隠れながら前方を覗いてるみたいだけど……。


「何してんの?」


「静かに。二人も早く伏せて」


 コレットの声に従い、俺もイルナも二人に倣って身を低くした。

 いったい何を見ていたのか。

 茂みの隙間から覗いた先では、一頭の猪らしき生き物が泥浴びをしていた。


「何よ、ただの猪じゃない」


「猪じゃない。牛角猪(ブルボア)


「アレが牛角猪(ブルボア)? 初めて見たな」


 牛角猪(ブルボア)

 牙だけではなく、牛のような一対の角を備えた猪型の魔物。

 体格、身体能力共に通常の猪を大きく上回り、その肉は非常に美味いって聞くけど、まだ一度も食ったことがないから、実際どんな味をしてるのかは分からない。

 牛角猪(ブルボア)が泥浴びをしているのは小さな窪地で、周囲を木々に囲まれている。

 覗かれていることに気付いていない牛角猪(ブルボア)は、全身に満遍なく泥を塗りたくり、実に気持ち良さそうにしていた。


堅皮蜥蜴(ハードリザード)じゃないけど、どうするセントくん?」


「……狩ろう」


 俺の意見にニナとコレットが頷く。

 イルナだけは「泥だらけで嫌なんだけど」なんて言ってるけど、元々戦力として数えてないので無視する。

 仕留めたところで依頼の成功にはならないけど、牙や毛皮はギルドに買い取ってもらえるし、肉は食うことが出来る。


「財布だけじゃなくて腹も満たせるんだぞ。今の俺らにとっては最高の獲物だ」


 と力説すると「じゃあこっちに誘い込んじゃおう」とコレットが作戦を提案し、特に反対意見もなく受け入れられたそれが即実行に移された。

 茂みから飛び出したニナが牛角猪(ブルボア)に向けて石を投げ、投擲された石は相手の鼻先に命中した。

 泥浴びを邪魔された牛角猪(ブルボア)が怒りの眼差しでニナを睨み付ける。


「おいで」


 ニナが挑発するように手招きをすると、牛角猪(ブルボア)は大きな鳴き声を上げ、猛然と突撃を仕掛けてきた。

 泥を掻き分けて迫って来る牛角猪(ブルボア)をギリギリまで引き付けたニナは地面を蹴って跳躍し、牛角猪(ブルボア)の身体を軽々と跳び越えてみせた。

 標的が目の前から消えたことに驚いた牛角猪(ブルボア)は慌てて止まろうとしたが、そう簡単に最高速から停止することは出来ず、結果として頭から茂みの中へ突っ込むことになった。

 そして茂みを破って出たその先で―――。


「オラァッ!」


 ―――長柄鎚矛(ロングポールメイス)を構えた俺が迎え撃つ。

 全力で叩き込まれた鉄塊が牛角猪(ブルボア)の顔面を容赦なく押し潰す。

 悲痛な鳴き声を上げながら転がっていく牛角猪(ブルボア)にコレットが素早く接近し、その胴体……心臓のある箇所にナイフを突き立てた。

 ビクッと一度だけ大きく痙攣した後、牛角猪(ブルボア)は動かなくなった。

 完全に仕留めた。その事実を確認した俺は詰めていた息を吐き出した。


「ふはぁ……なんとか上手くいったな」


「コレットの作戦勝ち」


「みんなの連携が上手くいったからだよ」


 ちなみにイルナは居ても邪魔になるだけなので、近くの木立の裏に隠れている。

 これで食料と臨時収入を纏めて入手出来た。

 一頭だけとはいえ、牛角猪(ブルボア)から取れる肉は相当な量になる筈だ。


「数日は食料の心配をしなくても大丈夫そうだな」


 さっさと解体を済ませしちまおう。

 地面の上に長柄鎚矛(ロングポールメイス)を置き、解体用のナイフを取り出した時……。


「待って!」


 というニナの警告が響き、同時に別方向の茂みを突き破ってもう一頭の牛角猪(ブルボア)が現れた。

 新たな牛角猪(ブルボア)は速度を落とすことなく、俺に向かって突進して来る。


「んなッ!?」


 俺は馬鹿か!

 何故この森に生息している牛角猪(ブルボア)が、あの個体一頭だけだと思っていたんだ。

 考えりゃ分かるだろ。もっと頭使えよ!


「ってごちゃごちゃ言ってる場合じゃねぇ!」


 ナイフを手離し、長柄鎚矛(ロングポールメイス)に手を伸ばすが……。


「プギィィイイイイッッ!」


「ぐぅッ」


 間に合うか。

 迎撃、いやせめて防御だけでもと長柄鎚矛(ロングポールメイス)を引き寄せようとした瞬間―――。


「油断大敵ですよ」


 ―――視界の外から飛来した巨大な盾が真横から牛角猪(ブルボア)に激突した。

 突然加えられた攻撃に牛角猪(ブルボア)は為す術もなく吹き飛ばされていく。


「間に合ったようで何よりです」


 場違いな程に柔らかな女の声。

 俺達が通って来たのと同じ小道を抜けて現れたのは……。


「ミ、ミランダさん?」


「セントくん、ニナちゃん、お久しぶりです。お仲間が増えたみたいですね」


 美しい外見や丁寧な口調には全く似つかわしくない板金鎧(プレートアーマー)で全身を固めた鉄級冒険者―――ミランダさんだった。

お読みいただきありがとうございます。

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