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第1話 若手パーティの奮闘劇 ~お金がない~

本日よりサブキャラ達による幕間話その2を開始します。

時系列としては主人公パーティがセクトン出向中のお話になります。

 ―――side:セント―――



「お前マジでいい加減にしろよ!」


「そんなに怒鳴らなくたっていいじゃない」


「これが怒鳴らずにいられるか!」


 思わず目の前のテーブルをガンと叩いてしまい、近くを歩いていたちょっとガラの悪い女給さんに注意された。

 そちらに謝罪した後、向かいの椅子に座るイルナを睨み付けたが、この女は素知らぬ顔で薄味のスープを啜っている。

 その態度に腹が立ち、衝動的にまたテーブルを叩きそうになったけど、今度はなんとか(こら)えることが出来た。


「女給が睨んでるわよ?」


「誰の所為だと思って……ッ」


 一言余計なイルナに、もう何度目になるかも分からない怒鳴り声を上げそうになった。

 冒険者同士の揉め事は御法度。たとえ同じパーティでもそれは変わらない。

 落ち着け。落ち着くんだ俺。


「セント、その人には言うだけ無駄だと思う」


 同じくパーティの一員である獣人のニナが無表情にもそもそと黒パンを齧りながら告げてきた。

 何か反論しようかとも思ったけど、黒パンを一切れ食べ切ったニナに「怒ってもお腹が空くだけ」と言われ、テーブルの上に並べられた食事に目を向ける。

 木製のバスケットに入れられた数個の黒パンと人数分の薄味のスープ。

 貧しい農村などでよく見られる最低限の食事。

 見ても食欲はそそられないけど、身体は栄養を求めている。

 くぅと小さく腹の虫が鳴くのを聞いた俺は無言で木匙を手に取り、自分の分のスープを掬って口に運んだ。

 幾つかの屑野菜と少量の塩だけで味付けされたスープ。

 はっきり言って美味しくないし、量も全然足りない。


「肉食いたいなぁ……」


「ニナも……」


「お金がないもんねぇ」


 しれっとそんなことを口にするイルナをブン殴ってやりたくなったが、また腹が減るだけだと言い聞かせ、食事に専念する。

 硬い黒パンと薄味のスープ。

 ここ数日、俺達が食べているのはこれだけだ。

 何故こんな粗末な食事が続いているのかというと、イルナの言った通り金がないからだ。

 そして金のない理由が……。


「今回で五連続未達成か」


 依頼の未達成。つまりは失敗続きで報酬を貰うことが出来ていないからだ。

 収入がないんだから減っていくのは当たり前。

 それもこれも……。


「全部お前の所為だ」


「パーティで請けた依頼のミスを私一人に押し付けられても困るんだけど」


「事実だからだよ!」


 我慢出来ずにまたもやテーブルを叩いてしまった。

 さっきより強く叩いた反動で黒パンやスープがテーブルから落ちそうになったが、咄嗟にニナが「勿体ない」と言ってカバーしてくれた。


「お客さぁん……さっき叩くなって言ったよな?」


「す、すんません」


 ガラの悪い女給さんに至近距離から睨まれた。

 凄ぇ怖い。なんでこんな人が接客業やってるんだよ。


「セント、食事中に暴れちゃ駄目でしょ」


「誰の所為だと……ああもうっ」


 テーブルの上に転がった黒パンを手に取り、適当にスープに浸して齧り付く。

 まだ充分に柔らかくなっていない黒パンは、かなり強い歯応えを感じさせたが、今の俺にとっては苛立ちを紛らわせるのに丁度良かった。

 イルナをパーティに―――誰も望んでいない―――加えて三人で活動するようになってから既に一月以上経つけど、その成果は芳しくない。

 いや、はっきり言って悪い。

 目の前の食事風景がそれを物語っている。


「お前ってなんでいつもそんなに偉そうなの?」


「あら、随分控えめだと思うけど?」


「何処がだよ」


 こんな風に普段のイルナは図々しい上に減らず口ばかり叩いているが、いざ仕事をするとなったらとんでもない役立たずに変貌するのだ。

 移動時に疲れた面倒臭いと不満を漏らしてはすぐに馬車を使おうとするし、無駄に高い宿に泊まろうとしたりする。

 討伐依頼ではビビって俺とニナの後ろに隠れているだけ。

 素材採取では折角入手した素材を傷付けたりして価値を下げる。

 おまけに装備や道具よりも高価な化粧品なんかを優先して買ってくる浪費癖。

 依頼の失敗なんかがなくても常に金欠のような有り様だ。


「あー、今すぐパーティ解消したい。もしくは今すぐどっかに行ってほしい」


「残念ねぇ。本登録しちゃったからまだまだ解消出来ないわよ」


「言われなくても知ってるよ」


 普通ならパーティを解消してしまえば済む話だけど、残念ながらそうもいかない。

 ギルドのパーティ登録には仮登録と本登録の二種類がある。

 仮登録は一時的に合同で依頼を請けるために行うもので、本人達の意思で自由に解消することが出来る。

 問題は本登録の方で、こっちは一度登録してしまったら特別な事情―――パーティメンバーが死亡したとか―――がある場合を除いて、最低一年間は解消することが出来ない。

 イルナの奴はこの本登録を勝手にやりやがったんだ。

 登録されてしまった以上、個人の評価はパーティ全体の評価に繋がる。

 だから本当は連れて行きたくなんかないけど、連れて行かざるを得ない。

 せめて何か役に立つ特技でもあればまだマシだったんだけど、そんなものをこの女が持ってる筈もなかった。

 こいつがパーティに加わって良かったと思えることが一個もないんだ。


「失礼ねぇ。一個くらいはあるでしょ」


「ひたすら足を引っ張られた以外記憶にねぇよ」


「具体的に何?」


 ニナからの疑問にイルナは「んー」と首を傾げながら考えた後……。


「お喋りでパーティの雰囲気が和む、とか?」


「とか……じゃねぇよ!」


 反射的に口から出た怒声と共に三度目の拳をテーブルに叩き付けてしまった。

 これまで二度の殴打に耐えてきたテーブルだったが、三度目の、それも俺の全力には耐えられなかったらしく、遂に天板の一部が音を立てて砕けた。


「「「あ」」」


 砕けた箇所からパラパラと零れる木屑。

 それを呆然と眺めていると後ろから肩にポンと手を置かれた。

 振り向くとガラの悪い女給さんが笑顔の代わりに額に青筋を浮かべて立っていた。


「お客さぁん……テメェちょっと店裏(ウラ)まで来いや」


「すんませんマジで勘弁して下さい」


 店裏(ウラ)に連れて行かれては堪らないと平謝りをした後、俺は壊してしまったテーブルの修繕費を女給さんに手渡した。

 ただでさえ軽かった俺の財布がもっと軽くなってしまった。


「このままだとあと何日もしない内に本当にすっからかん……ってお前何食ってんだよ?」


「え?」


 いつの間に注文したのか、イルナは一人で腸詰肉(ソーセージ)を頬張っていた。

 火を通したばかりの熱々でジューシーな腸詰肉(ソーセージ)

 見てるだけで自然と口の中に涎が溜まっていく。

 ニナもイルナが食っている腸詰肉(ソーセージ)を羨ましそうに見ていた。


「このスープと黒パンだけじゃ足りないし味気なくて」


「おまっ、だからそういう……はぁ、もういいや」


 何か言ってやろうかと思ったけど、もう面倒臭くなってきた。

 手を伸ばして腸詰肉(ソーセージ)が載った皿をイルナの前から奪うと、「ちょっとそれ私の」と抗議してくるイルナの声を無視し、残りが丁度二本あった腸詰肉(ソーセージ)をニナと分け合って食べた。

 一口齧ると濃厚な肉汁が溢れて、口の中いっぱいに広がっていく。

 美味いなぁ。


「ちょっとニナちゃん、それ私のなんだから返してよ」


「にゃあ、ヤダ」


 未だにイルナが騒いでいるけど、今はもうどうでもいいや。

 面倒なことは明日起きてから考えよう。

 自分の中でそう結論を出した俺は、腸詰肉(ソーセージ)の残りを大事に大事に味わうことにした。

 美味いなぁ。

お読みいただきありがとうごうざいます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 楽しく読ませていただいてますが、イルマの傍若無人ぶりが耐えられない不快さです。 本登録をしたから1年は解消できないってルールもパーティ全員の同意なく勝手に登録できること事態が間違ってい…
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