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第38話 蛇身を討て ~蛇戦決着~

前回のお話……拳骨炸裂!

(ロ ゜Д゜)ドリャー!

(蛇 ゜Д゜)シャー!?(超痛ぇ!?)

「ガルゥァァアアアアアアアアアアッッ!!」


 雄叫びと共に振り下ろされた獣拳が巨大蛇の頭部に突き刺さる。

 常人離れした膂力から繰り出される拳打は大気を震わせ、鉄球でも叩き落としたかのような強烈な殴打音が地上の俺達の耳にまで届いてきた。

 意識の外から脳天に加えられた一撃。

 巨体に見合った耐久力を誇るフェルデランスもこれには(たま)らず悲鳴―――非常に情けない鳴き声―――を上げ、開かれた顎から涎と思しき透明な液体を吐き出した。

 ローリエの妨害によって狙いと体勢を大きく崩したフェルデランスは地上へ落下し始めた。

 無論、フェルデランスの蛇体を足場にしていたローリエも一緒に……。


「ローリエ!」


「馬鹿ッ、伏せろ!」


 咄嗟に落下するローリエの元へ駆け出そうとしたミシェルの腰にしがみ付き、そのまま地面の上に押し倒した。

 いきなり何をするのだと怒鳴るミシェルに構わず、その頭を地面に押し付け、俺自身も彼女の上へ覆い被さるように身を伏せる。

 重なるように身を伏せてからほんの数秒で地面が大きく揺れ、強い突風に襲われた。

 吹き飛ばされないよう四肢に力を籠めて踏ん張り、ついでに瓦礫が飛んで来ませんようにと口には出さずに祈っておく。

 そうして突風をやり過ごし、身を起こした俺達の前には、更なる変貌を遂げた大通りの姿が広がっていた。

 周囲の建物が軒並み倒壊した影響で、あちこちに山積み転がり放題となっていた瓦礫のほとんどが吹き飛ばされており、代わりにクレーターを思わせるような大穴が出来上がっていた。


「落ちてきたのは隕石じゃなくて蛇だけどな」


 誰にともなく独り言ちながら、クレーターの中央でビクビクと蛇体を痙攣させているフェルデランスの元へと近付いて行く。

 離れた場所にいても尚あれだけの余波に襲われたのだ。

 至近距離で浴びたらどうなっていたことか。


「あのまま走っていたら私も……」


「最悪ペシャンコ。良くても瓦礫共々吹っ飛ばされてただろうよ」


 ペシャンコにされる光景でも想像したのか、ミシェルの表情が微かに強張る。

 トドメを刺すなら今が絶好のチャンスかもしれないが、それよりもローリエの安否確認の方が重要だ。


「何処だローリエ! 返事をしろ!」


 ミシェルが姿の見えないローリエに向けて呼び掛ける。

 すると蛇体の影の方から「ここですぅ……」と弱々しい応えが返ってきた。

 即座に反応したミシェルが声のした方へと全速力で駆け出して行った。


「あいつは元気だなぁ」


 未だ痙攣したままのフェルデランスを一足飛びで越えていくミシェルを見送っていると、「マスミくん」と背中に声を掛けられた。

 振り向けばエイルが足を引き摺りながらこちらへとやって来た。


「無理すんなって」


 傍に寄って肩を貸してやれば、エイルは「ありがとぉ」と力のない笑みを浮かべた。


「ローリエちゃんは?」


「今ミシェルが迎えに……って来たな」


 フェルデランスを迂回するようにして二人が戻って来た。

 ローリエは既に〈獣化〉が解除されており、両手足が剥き出しになっている。

 ミシェルに肩を借りてはいるが、足取り自体はしっかりしているので、大きな負傷は無さそうだ。


「随分と無茶したもんだなぁ。でもおかげで助かったよ」


「あはは、皆さんが無事で良かったです」


 困ったような笑みを浮かべるローリエのことを「笑い事ではない」とミシェルが嗜める。

 実際笑っていられる状況ではなかった。

 如何に獣人の肉体が強靭であろうとも、あの高さから落下して無事でいられるとは思えない。


「フェルデランスの身体をクッション代わりにしました。それでもかなり痛かったですけど……」


「いや、クッションて」


 それで助かるのだから、やはり獣人の肉体強度は普通の人間とは比べ物にならない。

 普通はクッションの有無に関わらず死んでるぞ。


「まあ、無事ならなんでもいいや。みんな早いとこ治療を……」


 と言い掛けたところで頭上に影が差した。

 そして耳に届く独特な息遣い。

 見上げれば、満身創痍のフェルデランスがこちらを見下ろしていた。

 怒りのためか、俺達全員の姿を視界に納めた隻眼はギンギンに血走っている。


「蛇の目って血走るもんだっけ?」


「そんなことはどうでもいい」


 ミシェルからのツッコミに仰る通りと返した俺は、エイルに肩を貸したままエアライフル(静音)を構え、エイルも隣で静かに魔術の詠唱を開始した。

 ミシェルは身体強化と〈魔力付与(エンチャント)〉を同時に発動し、ローリエは再び四肢を〈獣化〉で変化させて両の拳を打ち鳴らした。

 全員が疲労困憊の上に大なり小なり負傷しているが、闘志は漲っている。

 俺達はまだ戦える。


「いい加減テメェの面も見飽きたし、こっちゃさっさと休みてぇんだよ。だから―――」


 決着(ケリ)を付けるぞ。

 その言葉に応じるかのように咆哮を上げたフェルデランスが、その凶悪な顎で俺達を丸呑みにしようと首を伸ばしてくる。

 最初に動いたのは詠唱を終え、いつでも魔術を放てるように待機していたエイルだった。


「〈風砲(ゲイルカノン)〉!」


 魔法陣から撃ち放たれた大気の砲弾が猛烈な勢いで突き進み、迫るフェルデランスを迎撃する。

 圧縮された暴風が巨大蛇の顎を捉え、容赦なく蹂躙した。

 口腔内を直接攻撃され、砕かれた牙や濁った血液を吐き出しながら絶叫を上げるフェルデランス。

 今度は長大な尾を横薙ぎに振るい、俺達を纏めて吹き飛ばそうとしてきたが、これにはローリエが反応した。


「わぅぁああああああああああッ!」


 獣人の脚力による全力疾走。

 その加速を上乗せして同時に放たれた左右の獣拳は、先の脳天への一撃(ゲンコツ)にも劣らない程の強烈な殴打音を響かせ、巨大蛇の攻撃を完全に相殺してみせた。

 立て続けに攻撃を防がれたフェルデランスだが、奴はまだ諦めてなどいなかった。

 フェルデランスは血を吐き出すのも構わずに咆哮を上げ、頭から俺達に突っ込んで来た。

 牙でも、尾でもなく、ただただ純粋な質量で俺達を押し潰そうと迫る蛇頭。

 魔物としての意地がそうさせるのか、あるいは狙った獲物は逃がさないという捕食者としての矜持か。

 間違いなく残る全ての力が籠められた最後の一撃。

 敵ながら見上げた根性だ。


「恐れ入ったよ。でも―――」


 勝つのは俺達だ。

 轟音と共に銃口から吐き出される鋼色の弾丸。

 視認困難な速度で大気を裂き、同色の軌跡を空中に残して疾る魔力弾は迫り来る蛇頭―――その残された隻眼を正確に撃ち抜いた。


「おおおおおおおおッ!」


 視界の全てを奪われた驚愕と恐怖。そして激痛に悶え苦しむフェルデランスへ向けてミシェルが飛び掛かる。

 蛇頭に肉迫したミシェルは剣身を真っ赤に輝かせた〈ロッソ・フラメール〉を大きく振り被り、渾身の斬撃を放った。


「これで……終わりだぁあああああああああッッ!!」


 美しき紅熱(こうねつ)の一閃は、一切の抵抗を許すことなく、フェルデランスの蛇頭を斬り落としてみせた。

お読みいただきありがとうございます。

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