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第36話 蛇身を討て ~紅刃覚醒~

前回のお話……真澄くん、颯爽と登場?

(真 ゜Д゜)バキューン

(蛇 ゜Д゜)シャーシャー!?(目が、目がぁ!?)

「ここから大逆転だ。舐めんじゃねぇぞ、異世界(ファンタジー)


 耳障りな鳴き声を上げてのたうち回っている巨大蛇(フェルデランス)に対して、俺はエアライフル(静音)の銃口を向けたまま、啖呵を切るようにそう告げた。

 今しがた放った魔力弾は奴の片目を撃ち抜いた。

 如何に怪物並みの図体と耐久力を誇ろうとも、眼球を潰されてはひとたまりもないだろう。


「好き放題暴れやがって」


 しばらくそこでもがいてろと吐き捨てるついでに鼻からもフンスと息を吐き出していると、地面に座り込んでいたエイルがか細い声で「マ、マスミくん……?」と俺の名前を呼んだ。

 こんなに弱々しいエイルを見るのは初めてかもしれない。

 少し驚いたけど、それだけ彼女も追い込まれていたということだろう。

 随分と無理をさせてしまったようだ。

 致し方ない状況だったとはいえ、少々申し訳なさを感じてしまう。


「無事、だったの?」


「一応、無事っちゃ無事だけど……」


 五体満足という意味でなら。

 今の俺の有り様を見て、果たして無事と判断してくれる人がどれだけいるだろう。

 重傷こそ避けられたものの、細かな負傷なら数え切れない程負っている。

 自慢の戦闘服(ACU)もボロボロだ。


「まあ、生き埋めにされた代償がこの程度だってんなら、まだマシな方かね」


 ミシェルの治療中に突然襲ってきた衝撃。

 どのような手段を用いたのかは不明だが、フェルデランスが引き起こした災害ばりの猛威の影響によって、この大通り一帯の建物は軒並み倒壊し、瓦礫の山と化した。

 必然、俺達が居た建物も倒壊を余儀なくされ、動けないミシェルや法術に力を注いでいたユフィー諸共、俺は瓦礫の下敷きとなってしまったのだ。

 この際、俺は咄嗟に身体強化を発動し、落ちてくる瓦礫から二人を庇うため、彼女達の上に覆い被さった。

 無論、これだけで助かる保証など……助かる可能性など皆無だったろう。

 俺達が瓦礫に押し潰されずに済んだのは、現在胸ポケットの中で気を失っているニースのおかげだ。

 俺が身体強化を発動するのとほぼ同時にニースも周囲に障壁を張り、瓦礫から俺達を守ってくれたのだ。

 流石に全ての瓦礫を防ぐことは叶わなかったものの、この魔力障壁によって俺達は辛うじて助かった。

 今のニースはかつての力―――土地神と崇められていた頃の力は既に失われているにも関わらず、なけなしの魔力を振り絞ってくれたのだ。

 結果、自前の魔力をほとんど使い切った彼女は消滅こそ免れたものの、いつもより身体を薄くし、そのまま気を失ってしまった。


「ありがとな。ゆっくり休んでくれ」


 感謝の言葉もそこそこに、ニースが張ってくれた障壁と強化された身体能力を駆使して積み上がった瓦礫を退かし、俺達は生き埋め状態からようやく脱することが出来た。

 そうして瓦礫の中から顔を出した俺の目に飛び込んできたのは、局地的な大地震に見舞われたとしか思えない程に変貌した大通り一帯とフェルデランスに巻き付かれ、今にも潰されそうになっているローリエの姿。

 条件反射的に空間収納からエアライフル(静音)を取り出した俺は、問答無用とフェルデランスに一発ブッ放した訳である。


『ジャアアアアアアアアアアッッ!』


「あん?」


 先程まで苦しんでいた筈のフェルデランスがこちらに首を向けていた。

 残った片目にありったけの憎悪を乗せ、俺のことを睨んでいる。

 然しもの魔力弾でも脳にまでは到達しなかったか。

 エアライフル(静音)の銃身で肩をトントンと叩きながら、深々と息を吐いた。


「チッ、今のでくたばってりゃ良かったのに」


『ジャァァァ……ジャアアアアアアッ!』


「シャーシャーシャーシャーとうるっせぇんだよ。片目潰された程度で騒ぐな、このクソ蛇が。こっちゃ一人を除いて全員がズタボロなんだぞ」


 言っても無駄だと分かってはいたが、それでも言わずにはいられなかった。

 喧しい。クソデカい図体で騒ぐんじゃねぇよ。

 当然、俺の言葉など理解していないフェルデランスは相変わらずシャーシャーと鳴き喚いている。


『ジュアアアアアアアアアアッ!』


「……お前、こっちばっか見てていいのか? お前以上に怒り心頭の奴がいるんだぞ」


 すぐそこになと言って、俺が顎で示した先に彼女は立っていた。

 普段はポニーテールに結わえている赤茶色の長髪が(ほど)け、マントのように背中に広がっている。

 俺と同じように身に付けた装備はボロボロだが、その立ち姿に弱さは微塵も感じられなかった。

 爛々と強い輝きを放つ青い双眸。

 全身を覆う魔力の光は彼女の闘志に呼応してか、まるで炎のように揺らめいている。

 その手に握られた赤き長剣〈ロッソ・フラメール〉の美しい剣身からは、火の粉を思わせるような真っ赤な光の粒子が立ち上っていた。


「先程は随分と世話になったな」


 静かながらも、その声からは隠し様のない闘志が漏れ出ていた。

 彼女―――ミシェルは光放つ〈ロッソ・フラメール〉の切っ先をフェルデランスへと向け、「私の腕は安くないぞ」と告げた。

 フェルデランスの攻撃を受けて骨折していた筈の彼女の腕は既に完治しており、剣を振るうのに何の支障もなくなっていた。


「ご苦労さん。間に合わせてくれたみたいだな」


「ゼェ、ゼェ……さ、流石に立て続けに法術を行使するのは堪えますね」


 少し離れた所ではユフィーが瓦礫の上で完全にへたり込んでいる。

 建物の倒壊に巻き込まれた時ですら彼女は集中を途切れさせることなく、ミシェルに治癒の法術を掛け続けてくれたのだ。

 その尽力の甲斐あり、ミシェルは戦う力を取り戻した。


「ほ、本当に死ぬかと思いました。肉体的にも精神的にも……」


「大したもんだよ、お前」


 あの状況下でも神様へ祈り続けた訳だから、見上げた信仰心と言わざるを得まい。

 離れた所で休んでおくように言うと、「そうさせて……いただきます」とユフィーはのろのろと移動し始めた。


「ミシェル、腕は大丈夫なんだよな?」


「ああ、全く問題ない」


 むしろ普段より調子が良いくらいだと言って〈ロッソ・フラメール〉の柄を両手で握り、正眼に構えるミシェル。

 なんとも頼もしい返事に頷きを返した俺は、フェルデランスに向けて手招きをしてみせた。


「という訳でこっちは準備万端だ。オラ、掛かってこいや、このド腐れ大蛇」


 へいへーい、ビビッてんのかよぉいとわざとらしい挑発をして見せたところ、フェルデランスが瞼の存在しない隻眼を見開いた。

 言葉は通じずとも、小馬鹿にされていることは理解したのだろう。


『ジャアアアアアアアアアアッ!』


「おーおー、怒っとる怒っとる」


『ジャアアアアッ、ジュラアアアアアアッ!』


「……だからお前、俺のことばっか見てていいのかって。でないと―――」


 叩き斬られちまうぞと告げた時には、既に彼女が動いていた。

 フェルデランスの潰された片目―――視界の外から回り込むミシェル。

 足場の悪い瓦礫の上を駆けているとは思えない速度で迫るミシェルに対して、フェルデランスは自らの長大な尾を振り回してきた。

 おそらくはピット器官―――蛇が有する赤外線感知器官のようなものが、この巨大蛇にも備わっており、それによってミシェルの接近を感知したのだろう。


「二度も喰らわん!」


 瓦礫を巻き込みながら迫る丸太のような尾をあっさりと飛び越えるミシェル。

 すれ違い様に振るわれた〈ロッソ・フラメール〉の刃は、然したる抵抗もなく、フェルデランスの鱗を斬り飛ばした。


『――――――ッッ!?』


「調子が良いと言っただろう」


 ミシェルは着地と同時に両手で握った〈ロッソ・フラメール〉を横薙ぎに一閃する。

 今度の一撃も強固な鱗に阻まれることはなく、フェルデランスの蛇体に深々と傷を付けた。


『ジィアアアアアアアアッッ!?』


 蛇体をくねらせ、ミシェルから距離を取ろうとするフェルデランス。

 強固な防御力を誇っていた筈の蛇鱗が何の意味も成さない。

 その事実に巨大蛇は驚き、そして明らかに恐怖していた。


「貴様らの行いは断じて許されるものではない」


 怯えるフェルデランスに再び切っ先を向けるミシェル。

 さながらその姿は、巨大な魔物に単身挑む赤き剣を携えた戦乙女。


「自らが犯した罪……その身を以て償うがいい!」


 ミシェルの言葉に、強い意思に応えるかのように〈ロッソ・フラメール〉は輝きを増し、主の姿を照らし出した。

お読みいただきありがとうございます。

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