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第18話 あの夜の顛末 ~操虫競技大会・予選第二試合~

前回のお話……夜這いを

(ユ ゜Д゜)したい

(ミ ゜Д゜)(ロ ゜Д゜)させない

「間もなく試合を開始します」


 審判役を務める女性スタッフがそのように告げた直後、周囲の観客達から歓声が上がる。

 これから俺とレイヴンくんの二度目の予選試合―――操虫競技大会本戦への出場を懸けた大事な試合が始まるのだ。

 レイヴンくんは既に定位置である俺の肩から土俵上へと移動している。

 ウォーミングアップのつもりなのか、シャドーボクシングよろしく一本角による刺突を繰り返している。

 準備万端だな。気合も充分だ。

 そして今回の対戦相手は……。


「し、ししし神聖なる操虫競技大会にっ、おおお女連れで参加しやがってぇぇ!」


「みみみ、見せ付けてるのかぁぁぁ?」


「う、うらっ、羨ましくなんかないからなぁ!」


 凄まじくどもりまくっている年齢不詳の三兄弟。

 三つ子なのか、三人とも外見がそっくりだ。

 付け加えると全員が体重100キロを超えるであろう肥満体型で全身汗だく。

 彼らの周囲だけ気温が二、三度上昇しているような気さえする。


「……アレ(・・)が見せ付けているように見えるのか」


 だとしたら彼らの感覚も大概だなと思いつつ、後ろを振り返る。

 土俵近くの俺から少し離れた所には、我がパーティの女性陣が並んで立っている。

 俺から見て、右からエイル、ローリエ、ミシェルの順に並んでいる。

 ここまではよくある光景なのだが、ミシェルのすぐ近くには……。


「ああ、このような姿を公衆の面前で晒すことになろうとは。予想外、新展開、そして新感覚でございます。そうは思いませんか、ミシェル様?」


「喧しい。黙っていろ」


 何故か縄で縛られたユフィーの姿があった。

 素人目に見ても、かなり複雑な拘束が成されているのが分かる。

 おそらく縄脱けを警戒してのことだろう。

 余ったロープの端はミシェルの手に握られている。

 幸い縛られているのは上半身だけなので、歩行する分には支障なさそうだが……。


「連れの一人が縛られてるのを見て、普通羨ましいだなんて思うか? 俺なら一緒に歩きたくないぞ」


『そう思ってしまうくらいモテぬのであろう』


 男の嫉妬は醜いのぅと顔は出さずに毒を吐くニース。

 こんなことで嫉妬されてもなぁ。

 俺としては誰かに通報されやしないかと心配で仕方ないのだが。

 さてさて、何故(なにゆえ)このように拘束された状態のユフィーが俺達に同行……というか連行されているのか。

 それは今朝のことである。


「ふぅぁぁあ~、もう朝か」


 ベッドの上から身を起こし、現時刻を確認する。

 午前六時三十分ちょうど。まだギリギリ早朝と呼べる時間かもしれない。


「……あの二人はまだ戻ってないのか」


 寝癖の付いた頭を掻きながら室内を見回すが、就寝前と同様ミシェルとローリエの姿は見当たらなかった。

 ベッドにも使用された形跡はないことから、結局二人が部屋に戻って来ていないことが分かる。

 いったい何処で何をしているのやら。

 他のみんなはまだ起きてきそうにない。

 ニースはレイヴンくんの背中を枕にして眠っている。

 どうやらレイヴンくんの方もまだ眠っているようだが、寝苦しくはないのだろうか?

 エイルは自身の枕を抱き締めながら幸せそうに寝息を立てている。

 寝巻代わりに着用しているシャツやショートパンツがかなり際どいところまで捲れ上がっていて、朝から大変眼福である。

 ありがとうございます。

 心中で感謝の言葉を述べつつ、俺ももう一回寝ようかなぁと考えていると部屋の外に人の気配を感じた。


「……曲者?」


 狙われるような覚えはないし、別に害意らしきものも感じないが、はて?

 一向に移動しない気配の主の正体が気になった俺は、ベッドから降りて部屋のドアへと向かった。

 特に躊躇うことなくドアを開けると……。


「何をやっとるんだお前らは?」


 部屋の前にいたのは、一晩中何処かに行っていた筈のミシェルとローリエ。そして二人が何処ぞに捨てた筈のユフィー。

 何故か全員が廊下にうつ伏せで倒れていた。

 正確にはユフィーの上にミシェルとローリエが二人掛かりで伸し掛かり、その動きを封じているような状態だ。

 一応意識はあるのか、這いずってでも前に進もうと試みるユフィーだったが、流石に二人分の体重を掛けられては身動きが取れないらしく、ドアに向けて伸ばされた腕だけがプルプルと震えている。


「む……無念」


 力尽きたようにパタリと腕が落ちた。


「マ、マスミ……無事だな?」


「あ、よく眠れたようで何より、です」


 その台詞を最後に二人も限界を迎えたのか、ユフィーの上に伸し掛かったまま意識を失ってしまった。


「どゆこと?」


 誰かこの状況を説明してくれ。


 しばらくして目を覚ました彼女達に事情を訊ねたところ、俺に夜這いを仕掛けんとするユフィーと彼女の行いを阻止せんとするミシェルとローリエとで、一晩中謎の攻防戦が繰り広げられていたらしい。

 なんとか二人の隙を突いて宿への侵入を果たしたものの、部屋の前で追い付かれてしまったのだそうだ。


「お前ら暇なのか?」


「なっ!? 私達はマスミのためを思ってだなッ」


「マスミさん酷いですよ!」


「いや、俺のこと守ろうとしてくれたのには感謝してるけどさ。だったら普通に部屋の中で待機してた方がよかったんじゃないの?」


 そうすれば交代しながら休憩も取れたし、ユフィーが来た時にも確実に二人で対応出来る。

 あとは宿の主人にお願いして部屋を移してもらうとか他にも手はあった筈だ。

 そもそも施錠をしておけばそれでよかったのでは?

 以上のことを俺が話すと、二人は今更気付いたのか、声を揃えて「あ」とか言ってた。


「ユフィーのことはどうするの?」


 そろそろ外出したいのだが、これを放っておく訳にもいかない。

 いや、俺個人としては別に構わんのだけど、ミシェルやローリエからすると自由にさせておくのは危険過ぎるとのことで、やむ無く同行させることとなったのだ。


「目の届かない場所で、何か良からぬ企みをされても困るしな」


「正直面倒ですし、物凄く嫌なんですけど、近くに居てくれた方がまだしも安心出来ます」


 というのがミシェルとローリエの言だ。

 まあ、その意見には概ね同意するので俺に否やはない。

 そして手元に置いているからといって安心は出来ないとのことから、ユフィーは縄で縛られることになったのだ。

 倫理的には問題大有りなのだが……。


「そんな縄で縛られた挙げ句、市中引き回しだなんて。わたくし……わたくしどうにかなってしまうかも」


「いっそどうにでもなってくれ」


 縛られた本人がちょっと嬉しそうにしていたので、別にいいかと考えるのは止めた。

 あと誤解しないでほしいのだが、引き回しなんてしないぞ。


「マスミくんたらぁ、鬼畜~」


「待て待て待て」


 断じて俺の趣味ではない。

 こんなやり取りの後、まるで罪人を引っ立てるかのようにユフィーを伴って外出した俺達だが、案の定注目を集めてしまった。

 特に女性から俺に対して向けられる視線―――軽蔑の眼差しでないことを祈る―――がキツい。

 急に宿に引き返したくなってきた。

 なんならそのまま今日一日引き籠っていようかなぁと本気で考え始めた時……。


「そそっ、そこの不埒者ぉ! 我々と尋常に、しししし勝負しろぉッッ!」


「誰が不埒者だこの野郎。名誉棄損で訴えるぞコラ」


 俺だって好き好んで、こんな変態を同行させている訳ではない。

 失礼且つ不穏当極まりない発言をしやがったのは何処のどいつだ。

 声のした方をギロリと睨め付けるとそこには……。


「き、ききき貴様にぃ、ししっ、勝負を挑むぅぅ!」


 年齢不詳な太っちょ三人組がそこにいた。

 勝負という言葉を聞き付けた外野が直ぐ様集まって勝手に盛り上がり始めた結果、俺の了承もなしに対戦する流れとなってしまったのだ。

 ここでようやく冒頭に戻る。


「マスミくぅん、頑張れ~」


「応援してますよ」


「この女のことは心配するな。ちゃんと見張っておく」


 女性陣の応援にヒラヒラと手を振り返すのだが、生憎と俺のテンションは低い。

 望まぬままに決まった対戦である所為か、イマイチやる気が出ないのだ。

 しかしそんな主のことなどお構いなしにやる気満々な我が従魔。

 ついでに……。


「ちくしょぅ……ちくしょぅ……ッッ」


「イチャイチャッ……しやがってぇぇぇ」


「夜道……背後…………ブスッ」


 イチャイチャなど一切していないにも関わらず、相手の敵愾心まで煽ってしまった模様。

 向こうもやる気満々だな。

 一人だけ()る気満々の奴が混じっているようだが……。


「双方準備はよろしいですね? それでは試合……開始ッ!」


 取り敢えず今晩は外出を控えようかと思案している内に試合が開始されてしまった。

 沸き上がる周囲に付いて行けず、取り残されたような感覚を覚える。


『見ておるぞ』


 ニースからの指摘によって、土俵上のレイヴンくんが相手の方を向かず、俺の方を見ていることに気付いた。

 まるで大丈夫ですかと気遣われているように感じた。


「……何やってるんだろうねぇ、俺は」


 なんであれ試合は試合だ。周りのことなんて気にするな。

 レイヴンくんの晴れ舞台なんだぞ。

 折角楽しみにしてたのに、主の俺がこんな体たらくでどうする。

 気持ちを切り替えなければ。


「心配させて悪かったなレイヴンくん。全力で楽しんできな」


 デビュー戦の時と同じ、指示とも呼べないような指示を出す。

 それにコクリと頷いたレイヴンくんは、改めて相手の鍬形兜(スタッグビートル)に向き合った。

 さあ、二戦目も華麗に勝利をもぎ取ってやろうではないか。

お読みいただきありがとうございます。

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