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第16話 目覚める性獣

前回のお話……パーティ合流からの退散

(真 ゜Д゜)逃げろ逃げろー

 広場からの逃走を図り、街中を全力で走り続けること約十分。

 ここまで来ればもう安心だろうと適当な路地で足を止め、少し早いが食事にしようと適当な酒場に入り、適当に空いていたテーブルに着き、適当に注文して人心地付いていたところ……。


「「ごめんなさい!」」


「ごめんなさ~い」


 テーブルを挟んで向かい側。横一列に並んだ女性陣がそれぞれ謝罪の言葉と共に揃って俺に頭を下げてきた。

 ミシェルとローリエはバッと勢いよく、エイルはいつもの緩い感じという違いはあるけど。

 ちなみにローリエは既に犬耳と尻尾を隠している。


「なんでいきなり謝ってんの?」


「いや、昨日の私達の態度は余りにも酷かったと今更ながらに反省して……」


「マスミさんのお話を聞こうともしなかった上に勝手に機嫌を悪くして、宿を飛び出して……」


「独りぼっちでぇ、寂しかったでしょ~?」


 別に寂しがってはいないけど……とは言い辛い雰囲気。

 態々謝らなくとも良いのだが、彼女達なりに反省し、俺のことを考えてくれた結果なので、まあ余計なことは言わずに受け入れよう。


「エイルまで謝る必要なくない?」


「なんとなく~」


 なんとなくで謝られてもなぁ。


「エイルだからしょうがないか」


「なんか失礼~」


 不満げに頬を膨らませるエイルには取り合わず、未だ頭を下げたままのミシェルとローリエに向き直る。

 二人に対して頭を上げてくれるように頼むも、いやでもと中々応じてくれなかった。


「頼むからいい加減頭上げてくれって。女の子にいつまでも頭下げさせてんのも申し訳ないし、周りの目も辛い」


「だがそれでは私達の気が……」


「謝罪を受け入れた俺がいいって言ってんだからそれでいいの。以上、この話おしまい。蒸し返すのも禁止。二人は可及的速やかに頭を上げること」


 俺がパンパンと手を叩きながら促すと、二人はようやく顔を見せてくれた。

 その様子を見ていたエイルが「仲直り~」と嬉しそうに笑い、多少ぎこちなさはあるものの、ミシェルとローリエも釣られるように笑みを浮かべた。

 妙な行き違いはあったが、これでパーティは元通り。

 一件落着。めでたしめでたしと思っていたのだが……。


「おめでとうございます。これでわたくしも気兼ねなくマスミ様にお仕えすることが出来ますね」


 ユフィーの発言により、ピキッと空気が凍り付いたかのような錯覚を覚えた。

 和やかになりつつあった雰囲気が再び重みを増していく。

 それに気付いていないのか、はたまた気付いていながらも無視しているのか。ユフィーは普段と変わらぬ様子のままに俺の隣で水を飲んでいる。

 この神経と肝の図太さだけは素直に羨ましいと思う。


『鈍いだけではないか?』


 ……かもしれんな。

 呑気に水を飲むユフィーのことをしばらく眺めた後、ミシェルとローリエはおもむろに席を立ち、テーブルを回り込んで左右から俺の腕を掴んできた。


「ミシェル? ローリエ?」


 どうしたんだと声を発するよりも先に強制起立をさせられたかと思うと、そのまま二人に挟まれる形でテーブルを迂回し、先程まで彼女達が座っていた長椅子に着座させられた。

 俺の左右を固めるようにミシェルとローリエも座るのだが、何故か隙間なくピッタリと密着してきた。

 それを見て、右端に座っていたエイルが「仲間外れはぁ、いや~ん」とミシェルにくっ付く。


「……狭い」


 俺達が今座っているのは、背もたれの付いていない大人三人掛けサイズの長椅子だ。

 女性陣三人が腰掛けて丁度良い状態だったのに、俺まで追加されたら完全にキャパオーバーだ。

 密着していようともそれは変わらない。

 狭い。そして暑い。だがミシェルとローリエが離れてくれる様子はなかった。


「ユフィー殿、悪いがそれとこれとは別問題だ」


「わたし達は貴方の同行を認めるつもりはありません」


 とユフィー対して告げた後、これは自分達のモノだと主張するように左右から俺の腕をきつく抱き締めた。

 うーむ、こそばゆいような気恥ずかしいような。

 エイルも二人の真似をしたいらしく、ミシェル越しに懸命に手を伸ばしているのだが「届かな~い」と俺の服に指先が僅かに触れるばかり。諦めろ。


「お二人は、わたくしがマスミ様へお仕えすることに反対なのですか?」


「ああ、反対も反対。猛反対だ」


「ですが、わたくし既にマスミ様にお仕えすると決めてしまったのですけど……」


「それは貴方が勝手に決めたことです。わたし達もマスミさんも許可した覚えはありません」


 厳しい態度を崩さないミシェルとローリエ。もっと言ってやれ。

 そんな二人に臆した風もなく、ユフィーは不思議そうに首を傾げる。


「マスミ様はともかく、皆様からの許可が必要なのですか?」


 その点に関してだけは俺も同意見だけど、お前が言うな。

 しかし、俺が何かを口にするよりもミシェルとローリエが揃って「「当然」」と何故か自信満々に答える方が早かった。

 君らは俺の何?


「聞いたぞ。スレベンティーヌ正教は欲望に、特に三大欲求に忠実らしいな」


「はい、その通りです」


「しかも女性神官は軒並み性欲旺盛らしいですね」


「はい、かく言うわたくしも相当旺盛です。旺盛過ぎて基本的に持て余しています」


「え、何それどういう状態?」


 しれっと新情報が出てきた。

 旺盛過ぎて持て余すって、要は日常的にムラムラしてるってこと?


「その認識で当たっております。付け加えると昨日から我慢するのが辛くなって参りましたので、そろそろ解消したいと考えているのですがマスミ様、押し倒してもよろしいですか?」


「よろしくねぇよ」


 なんちゅうカミングアウトをしとるんだ、この生臭神官は。

 押し倒していいかどうかを相手に訊ねるってどうかしてるぞ。


「持て余している今の状態からまだお預けだなんて。そんな殺生なことを言われたら、わたくし…………わたくし更に興奮してしまいますよ?」


「お前、絶対に頭おかしいぞ」


 性欲旺盛な女性神官という時点で色々アウトなのに、まさかの変態宣言。

 この女の底が知れない。スレベンティーヌ正教恐るべし。


「……そこら辺で男引っ掛けて解消してくれば?」


 俺も割りと酷い発言をしているけど、他に言い様もない。

 実際、程度の差はあれ、溜まり過ぎも身体にはよろしくないからな。

 ミシェルとローリエも同意するように何度も頷いている。


「なんと失礼なッ、如何にマスミ様といえどその発言は看過し兼ねます!」


「なんで怒られてんの?」


 賭け事以外でユフィーが大声を聞いたのは初めてかもしれない。

 これでも気遣ったつもりなんだけど。


「わたくし、確かに性欲は強いです。ええ、それはもう人並み外れて強いです」


「言わんでいい、言わんでいい」


 これ以上のカミングアウトは情報過多になる。


「だからといって殿方なら誰でも良いという訳ではございません。わたくしがこの身を捧げるのは生涯でただ一人。そうっ、初めてはわたくしが心からお仕えすべき主様に差し上げると決めているのです」


「いや、そんな初めては好きな人とみたいに言われても……ってちょい待ち」


 初めては仕えるべき主に。

 それってもしかしてと思った瞬間、女性陣の目がバッと勢いよく俺に向けられる。

 ついでにニースが他人事っぽい感じで『よかったのぅ』と呟いた。いや、他人事かもしれないけどさ。

 こいつ、あんな堂々と変態宣言しておいて処女なのかよ。


「ユフィーさんがぁ、マスミくんに仕えたいって思ったのもぉ、そういう(・・・・)理由~?」


「はい、マスミ様ならばわたくしの溢れんばかりの性欲も全て受け止めていただけると確信したのです」


「勝手に確信すんな。神の啓示とやらは何処にいった」


「マスミ様の姿を初めて目にしたその瞬間、わたくしの中の女の部分(・・・・)がビビッと反応したのです。これはきっと神の啓示に他なりません」


 そんな下品な啓示があってたまるか。

 滅茶苦茶過ぎるユフィーの発言に対し、ミシェルもローリエもエイルですらもポカンと口を開けたまま、何も返すことが出来ずにいる。

 文字通り、開いた口が塞がらない状態となってしまった。

 そして当然のようにユフィーは止まらない。


「ちなみにわたくし、攻めるのも攻められるのも大好物です。多少ハードな内容でもばっちこいでございます。ご安心下さい。痛いのは最初だけ、それもわたくしだけです。さあマスミ様、新郎新婦ならぬ主従初めての共同作業と参りましょう。今夜は寝かせませんよ?」


 いざッ、と無意味にポーズを決めるユフィーに対して俺は―――。


「さっさと帰れ。この性獣」


 ―――と答えることしか出来なかった。

 俺はノーマルなんだよ。

お読みいただきありがとうございます。

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