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第13話 物申したい抗議団体

前回のお話……酒に溺れる女性陣

(ミ ゜Д゜)チクショー

(ロ ゜Д゜)ムカムカムカムカ

(エ ゜Д゜)……楽しくない

「皆さん、我々の話を聞いて下さい!」


「いきなりなんだ?」


 突如として響き渡った男の声に広場の中がざわつき出す。

 声が聞こえてきた方に目を向けてみると、そこには二十人程の集団の姿が見えた。


「いったいなんでしょう?」


 傍らのユフィーが不思議そうに首を傾げているが、俺が知る筈もない。

 見たところ、その集団は年齢も性別もバラバラなのだが、一つだけ共通していることがあった。

 それは全員が険しい表情を浮かべながら、ある場所を睨み付けていること。

 彼ら彼女らの視線の先にあるものは……。


「野良試合?」


 予選の参加者や試合を観戦している連中の姿がそこにはあった。

 先程まで土俵を囲んで盛り上がっていた筈の彼らだが、今は全員が困惑している。

 自分達が睨まれている理由が分からないのだろう。

 うーむ、厄介事の予感。


「貴方達はいったい何をしているのですか?」


 そんな彼らに対して、集団の先頭に立つ若者が厳しい目を向けた。

 どうやらこの男が集団のリーダーらしい。

 先程の大声もこいつが発したようだ。

 年齢は二十代半ばといったところか。

 本来は涼しげな容貌をしているのだろうが、今は表情を険しいものに変えている。

 結構身なりが良いけど、まさか貴族ってことはないよな?


「答えなさい。貴方達はいったい何をしているのですか?」


「……いきなり何言ってんだ、こいつ?」


「見て分かんねぇのかよ」


 まるで詰問だ。

 口調こそ丁寧ではあるものの、余りにも居丈高な男の態度に誰もが不快感を露わにしている。

 誰一人として男の問いに答えようとはせず、わざと聞こえるように舌打ちをしたり、堂々と無視をする者が殆どだった。

 その露骨過ぎる態度を見て、リーダー格の男を除いた他の連中が騒ぎ出す。


「オイッ、なんだその態度は!」


「聞かれたことにちゃんと答えろ!」


「あんたらみたいなのが居るから駄目なのよ!」


「このロクでなし共がぁ!」


「なんだと? お前らこそなんなんだ!?」


「引っ込んでろ馬鹿野郎!」


「折角盛り上がってんに邪魔すんじゃねぇよ!」


 怒気と嫌悪を剥き出しにがなり立てる集団だったが、当然相手も黙ってはいない。

 たちまち頭に血を上らせた参加者や観戦客が負けじと声を張り上げて対抗する。

 大声でお互いを罵倒し合う集団と野良試合組。

 一触即発だと思った途端に爆発してしまった。

 みんな導火線が短過ぎやしないかね。

 胸元でニースが『騒がしいのぅ』と迷惑そうに呟いた。


「醜い争いでございますねぇ」


「それ神官が口にしていい台詞か?」


 意見そのものには同意するけど。

 理由は不明だが、あの集団は操虫競技大会の参加者や観戦客らを目の敵にしている様子。

 俺自身も参加者の一人である為、この場に留まり続けては標的にされ兼ねない。

 一刻も早く離れるべきだとは思うのだが、出来れば今後のトラブル回避の為にも、あの集団の正体を把握しておきたい。


「どっちが良いのかねぇ」


 どっちもどっちな気がするなぁと俺が微妙に頭を悩ませていると、近くの屋台の店主が「やれやれ、またあいつらか」と疲れたように息を吐いた。


「親父さん、あそこで騒いでる連中のこと知ってるんですか?」


「ん? まぁ一応な。といっても、この街で長く暮らしてる奴の大半は知ってると思うぞ」


「ほうほう」


 期せずして、あの集団の情報が得られそうだ。

 情報料代わりに屋台の飯を購入し、店主から話を聞いてみることにした。

 売っていたのは、炒めた肉と野菜をクレープのような生地で包んだもの。

 塩と胡椒。他にも何かしらの香辛料を使っているのか、中々にスパイシーな味付けとなっている。

 結構美味い。

 冷えたビールが欲しくなるな。


「マスミ様、わたくしも食べたいです」


「なんで俺が……」


 と言いつつも、つい代金を支払ってしまう自分が情けない。

 何故か店主から「兄ちゃん、尻に敷かれてるなぁ」と同情するような目を向けられた。解せぬ。


『女に甘いだけじゃろ』


 そんなことはない……と思う。


「今の時期になるとな、ああして勝手に騒ぎ出すんだよ」


 新しい肉と野菜を焼きながら、謎集団のことを話し出す店主。

 その話を食べながら聞く俺とユフィー。美味い。

 店主曰く、あの集団が現れるようになったのは十年近くも前からだそうだ。

 最初の頃は、街の中を移動しながら操虫競技大会の中止を訴えているだけだったらしい。


「あいつら抗議団体だったのか」


「もう四、五年位前からだな。あんな風に大会の参加者なんかにちょっかいを掛けるようになったのは。今じゃ必ずと言っていい程、何かしらの問題を起こしやがるんだ」


 殆どは集団同士の喧嘩だけどなと言って、焼き上がった肉と野菜に調味料をまぶす店主。

 胃を直接刺激するような香辛料独特の香りが漂い、再び食欲が湧いてくる。


「親父さん、もう一つ」


「毎度」


 代金を支払い、出来立てホヤホヤのものをいただく。


「マスミ様、わたくしも―――」


「自分で買え」


 二個目は奢らん。

 物欲しそうに見てくるユフィーを努めて無視し、出来立てのスパイシークレープ―――俺命名―――にかぶり付く。

 熱々だ。でも美味い。


「もぐもぐ……そんなに問題起こしてるのに、あの抗議団体は何のお咎めも無しなんですか?」


 店主が言う通り奴らが―――期間限定とはいえ―――常習的に問題を起こしているのだとしたら、流石に街を治める領主や官権やらが黙っていないと思うのだが。

 ましてや今はお祭り期間で平時よりも警戒体制が強まっている筈なのに。


「普通だったらそうなんだろうがなぁ。ほれ、あれ見てみな」


 と店主が指差した先、例のリーダー格らしき男が取り巻き共を宥めている。


「落ち着いて下さい。そのように声を荒げては、皆さんまで同類だと勘違いされてしまいますよ。皆さんは志のある方々です。あのように品性の欠けた者達とは違うんです」


 リーダーの言葉に従い、あっさりと落ち着きを取り戻す抗議団体。

 凄ぇなあいつ、興奮した味方の鎮静化と敵の挑発を同時に実行したぞ。

 もっとも……。


「誰が品性下劣だコラァ!」


「テメェらと同類扱いなんざ、こっちから願い下げだ!」


 野良試合組の怒りのボルテージは更に跳ね上がったがな。

 あと何処の誰かは知らんが、下劣とまでは言ってないぞ。


「あの男がどうかしたんですか?」


「ありゃ領主様の息子だ」


「……は?」


 領主の息子? アレが?

 いや、確かに貴族の可能性もあるとは思ってたけど……。


「じゃあなんですか。あいつ、自分の父親主催の祭りを妨害してるってことですか?」


「そうなるな。本人からすると妨害のつもりはないのかもしれねぇけどな」


「なんだってまたそんなことを?」


「それは……本人の口から聞いた方が早そうだな」


 と店主が再び男の方を指差したので、俺とユフィーもそちらを振り向く。


「自分がいったい何をしているのか、貴方達は理解しているのですか?」


「何って……オレらはただ祭りを楽しんで―――」


「祭り? 魔物を街中に放して遊ぶことが祭りだと? ふざけるな!」


 突然激情を剥き出しにして吼える領主の息子。

 その豹変ぶりに面食らったのか、野良試合組の面々は口を噤んでしまった。

 かく言う俺も驚いた。


「魔物はこの世で最も危険な生物だ! 人間の敵で存在そのものが害悪なんだ! そんなものを使って遊んでいるなどと……お前達はどうかしている!!」


「レイヴンくん、敵とか言われてるぞ?」


 頭を左右に大きく振り、全力で敵発言を否定するレイヴンくん。ウチの従魔は良い子です。

 完全に激昂している領主の息子は止まらなかった。

 半ば絶叫じみた彼の発言が広場に響く。


「この場に集まっているのは、私と志を共にする同志だ! それと同時に彼らは魔物の被害者でもある。皆、家族や親しい友人を魔物によって奪われた。魔物が如何に危険な存在であるかを、彼らは誰よりも知っているんだ!」


「……成程、そういうことか」


「そういうこった。あんな調子だから領主様とも上手くいく筈がなくてな。ほぼ勘当状態だって話だ」


 魔物は危険な生物。

 その魔物を利用した催し物も危険。

 だから祭りを中止するべきだ。

 言いたいことは分からんでもないけど……。


「ちと極論過ぎんかねぇ?」


 魔物の大多数が危険なのは事実だし、俺自身何度も襲われてはいるけど、人に害を加えない魔物が存在するのもまた事実。

 そもそもそういった危険性がないようにと操虫競技大会に参加している魔物は、軒並み大人しいのが選別されてるんじゃなかったのかよ。


「あの男が領主の息子だとして、なんで父親の邪魔をするような活動を始めたんですか? この祭りがあるから領地も潤ってる訳でしょ?」


「さぁな、流石にそこまでは分からん」


 一度だけ肩を竦めた後、店主は再び調理に取り掛かってしまった。

 これ以上の情報は得られそうにないな。


「今すぐこの街から出ていけ! このセクトンの街を魔物の好きにはさせないぞ!」


「おいおいおい……」


 幾らなんでも言い過ぎだろうよ。

 ついさっき興奮した仲間達に対して、落ち着くよう諭していた奴と同一人物とは思えない。

 これまで俺と同じように事の成り行きを見物していた周囲の者達の間からも、白けたような空気が漂い始める。

 領主の息子の度を越した発言に呆れているようだ。

 気持ちは分かる。


「マスミ様、何やら様子が変です」


「あん?」


 変なのはお前だと条件反射的に答えそうになったが、ユフィーの表情は真剣そのものだった。

 こんな顔も出来るんだなぁと意外に思いつつ、彼女の視線の先を辿ってみると、野良試合組の方がざわついていることに気付いた。

 未だにあーだこーだと一人で主張している領主の息子は完全にそっちのけ。別にどうでもいいか。


「今度はそっちかよ」


「揉め事……という感じではございませんね」


「だな。いったい何を―――」


 慌ててるんだかと言おうとした時、野良試合組の輪の中から小さな何かが飛び出してきた。

お読みいただきありがとうございます。

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