第5話 始まる予選と蚤の市
前回のお話……命名レイヴンくん
(真 ゜Д゜)駄目?
(レ ゜Д゜)オッケー
宿の食堂で朝食を食べ終え、テーブルに着いたままレイヴンくんと戯れていると……。
「確か今日からだったな」
対面の席に座ったミシェルがそんなことを言ってきたので、レイヴンくんに指を挟まれたまま顔を上げる。
「何が?」
「何がって……レイヴンが参加する大会とやらに決まっているだろう」
そいつ呼ばわりされた途端に俺の指を解放し、ガチガチと大顎を鳴らしてミシェルを威嚇し始めるレイヴンくん。
対抗するようにミシェルまで唸り出した。
「落ち着け。なんでそうミシェルに対してだけ喧嘩腰なんだよ。お前なんかしたか?」
「知らん。私が聞きたいくらいだ」
フンッと不満げに鼻を鳴らすと、ミシェルはローリエにお茶のお代わりを要求した。
もう少し仲良くしてくれないものだろうか。
威嚇を続けるレイヴンくんを宥めるつもりで、一本角をゆっくりさすってやる。
「ローリエやエイルとはそれなりに仲良くやってるのになぁ」
現にエイルが手を伸ばして背中を触っているが、嫌がるような素振りは見せなかった。
何故ミシェルとだけ相性が悪いのか。
ちなみにニースに至ってはそれなりに仲良くどころではない。
何しろ背中の上に彼女がまたがってもレイヴンくんは全然怒らないのだから。
どれだけ懐いてるんだよ。
「ていうかいつの間にそこまで仲良くなったんだ?」
『マスミが寝ておる夜中に話していただけじゃよ』
「そうか……って話せるの?」
元土地神様はなんでもありだな。
『実際に言葉を交わすのではなく、思念によって其奴の意思を読み取っているだけじゃ。それくらいならばマスミにも出来よう』
胸ポケットからひょっこり顔を出したニースの説明に首を傾げる。
従魔契約を結んだ影響なのか、俺にはレイヴンくんの意思のようなものが時々伝わってくる。
だが生憎、それはニースが言う程に確かなものではないのだ。
イエスかノー、あるいは怒っているか喜んでいるかといった喜怒哀楽の感情が大雑把に理解出来る程度の曖昧なもので、具体的に何を考えているのか、その内容までは伝わってこない。
逆にレイヴンくんは俺の言葉をちゃんと理解しているように思える。
「身振り手振りというか、割りと激しい動きで表現してくれるから察することは出来るけどね」
鍬形兜という魔物は皆こうなのだろうか?
それとも単にレイヴンくんの頭が取り分けて良いだけなのか?
魔物の生態には詳しくないのでなんとも言えん。
機会があったら専門家に訊ねてみたいものだ。
「こっちも落ち着いてきたみたいだな」
ようやく興奮が収まってきたのか、ミシェルへの威嚇行為を止めたレイヴンくんは俺の腕を伝い、定位置である肩の上へと登って来た。
「さて、そろそろ出掛けようかね。ミシェルもいい加減機嫌直せって」
「別に私は怒ってなどいない」
「いや、全力で不機嫌アピールしとるがな」
頬をパンパンに膨らませてそっぽを向いておきながら、怒っていないとはこれ如何に。
彼女は時々、妙に子供っぽくなる。
やれやれと苦笑しながら立ち上がれば、ローリエとエイルも俺に倣って席を立った。
それを見たミシェルも渋々といった体で椅子から腰を上げる。
「マスミさん、まずはどうされるんですか?」
「取り敢えずはまた中央広場かな。今日から蚤の市が始まるって話だから一度見てみたい」
蚤の市。
日本では所謂フリーマーケットと呼ばれている古物市のことだ。
異世界のフリマには、いったいどんな品物が出品されているのだろう。
大変興味深い。
「なんぞ掘り出し物があるかもしれん」
「大会は~?」
「別に慌てて何かするもんでもないし、のんびりやろうじゃないの。折角来たのに観光も全然無しってのはつまらんしな」
俺の言葉に笑って―――ミシェルだけは憮然とした表情で―――頷く女性陣を伴い、蚤の市が開かれているという中央広場へと向かった。
操虫競技大会への参加を決意し、受付を済ませてから二日が経った。
ミシェルが言った通り、今日から大会の予選が始まるのだが、別に何処ぞの会場に集合してリーグ戦などを行ったりする訳ではない。
というより出来ないそうだ。
どうもこの大会、年々参加者が増加しているようで、各リーグ毎に総当たり戦を行うのはスケジュール的に相当厳しいとのこと。
これは俺とレイヴンくんが参加する種目―――鍬形兜の力比べに限らず、どの種目でも事情は同じらしい。
ではどのようにして予選会を実施するつもりなのか。
「街中での野良試合か」
「如何にも苦肉の策って感じですね」
若干呆れ気味なローリエの言葉に同意する。
如何せん参加者の数が多過ぎるので仕方ないとは思うがね。
街中の各所に試合用のリングのようなものを設置し、その中で鍬形兜同士一対一の試合を行わせる。
リングと言っても、実態は直径150センチ程の土俵に近い形状をしている。
ルールは単純で、引っ繰り返って背中が土俵につくか、あるいは土俵の外に押し出された方が負けとなる。
聞けば聞く程、虫相撲としか言い様がない。
他の競技がどのように行われるのかは知らないし、受付の際にも説明はされなかった。
他の競技に参加する予定もないから問題はないけど。
「んお? さっそくやってるなぁ」
やって来た中央広場の一角には、二日前には存在しなかった筈の土俵が既に設置されており、早くも勝負に興じている連中の姿が見て取れた。
ちょうど勝敗が決したところだったのか、大きな歓声と落胆の声が同時に上がる。
広場の賑わいは相変わらずだが、あの一角だけは別次元だ。
熱気が半端ない。
敗北した男が一枚の木札を相手に差し出している。
焼印のようなものを押された細長い木札―――今大会の参加証だ。
受付をした際に必ず配られるもので、俺も一枚だけ持っている。
予選はこの木札を賭けての勝負となり、勝った方が相手の所持している木札を総取り出来る。
予選の期間は今日を含めて三日間。
この間に木札を五枚以上集めた者だけが本戦への出場資格を得るのだ。
極論だが、木札を集めた分だけ本戦出場者の数も減っていくことになる。
「マスミくんはぁ、やらないの~?」
「その内ね。今はフリマ優先」
「フリマってなんだ?」
怪訝そうに訊ねてくるミシェルに「俺の故郷じゃ蚤の市をそう呼ぶんだよ」と適当に説明しつつ、広場の中をぐるりと見渡す。
二日前と比べて屋台の数は明らかに減ったが、代わりに地面の上に布や板を直接敷き、その小さなスペースの中で商売をしている者達は激増していた。
売られている商品も様々だ。
食料品や生活雑貨、服飾品、貴金属類なんかも売られている。
どう見てもガラクタとしか思えない商品も売られているようだが……。
「それが蚤の市の醍醐味ですからね」
「それもそうか」
昔はガラクタ市なんて呼ばれていたくらいだ。
法に触れるような商品でもない限り、何を売っても問題にはならない。
「時間もあることだし、暫く自由行動にでもするか」
「それは構わんが、マスミは何を買うつもりなのだ?」
「んー、特には決まってないけどね」
強いて言うなら掘り出し物だろうか。
広場を回っている内に何かしら欲しい物や面白そうな物が見付かるかもしれない。
自由行動自体には特に反対意見も出なかったので、一時間後にまた同じ場所に集合するということだけを決めた後、女性陣とは別れた。
向こうは纏まって行動するようだ。
同性だけで見て回りたいものがあるのだろう。
「たまには一人も悪くない」
『本音は?』
「ちょっぴり……ほっとけ」
寂しくなんてないもん。
自分の存在をアピールするようにレイヴンくんが翅を震わせる。
まるで俺は一人ではないと言ってくれているようで嬉しかった。
反面、その気遣いに却って切なさも覚えた。
「さてさて、どっかに掘り出し物はないかなぁ」
レイヴンくんの一本角を触りながら、適当に売り場を冷やかして回る。
用途が不明な代物や明らかなガラクタを除けば、蚤の市で扱われている商品の殆どは相場よりも安く買えるように思えた。
食料品の多くは保全性を重視してなのか、多くは干し肉や魚の干物、乾燥果物などの乾物や酢漬けにした野菜ばかりで、生の食料はそれ程売られていない。
取り敢えず乾燥果物を多めに購入しておいた。
非常食としてもオヤツとしても魅力的な品である。
『一つおくれ』
「はいよ」
見た目レーズンっぽいのを一つ摘まみ、胸ポケットから差し出されたニースの手に渡してやる。
レイヴンくんにも同じものを一つ食わせつつ、更に広場を見て回っている途中、何やら変わった売り場を見付けた。
「こんな所で武器なんか売ってて大丈夫なんですか?」
「いらっしゃい。なぁに、国が指定する禁制品なんかじゃなけりゃ問題ねぇさ」
俺からの質問に笑いながら答える中年の店主。
聞けばこの店主、この街で鍛冶屋を営んでいるそうだが、今日は店で売れ残っていた商品を売りに来たらしい。
並べられている商品に目を通してみる。
鉄製の剣や槍。
金属で補強された長弓と矢束。
革製の鞘や防具。
片手用の盾。
他にも手入れ用の砥石や目釘、小型のナイフなんかが所狭しと並べられている。
「なんか歪んでません?」
特に剣の切っ先や槍の穂先部分。
俺からの指摘に店主は「そうなんだよなぁ」と苦笑いを浮かべながら頭を掻いた。
「この剣や槍なんかはウチの弟子共が鍛えたもんなんだがな。見ての通りの出来映えなもんで、とても買い手が付かねぇんだよ」
「もしかして処分に困ったから蚤の市に?」
「まあ、そういうことよ」
二束三文であろうと買ってもらえれば御の字って訳か。
無駄に在庫を抱えるよりはマシなんだろうけど……。
「世知辛いねぇ……ん?」
雑多に並べられた商品。
その中に紛れるように置かれていた為、気付くのが遅れた。
「これってまさか……」
金属と木材によって造られた細長い形状。
剣とも槍とも弓とも異なる、だが確実に人を殺傷出来るだけの攻撃力を秘めた武器。
それを目にした瞬間、俺の心臓はドクンッと強く跳ね上がった。
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