第11話 パンとモツ ~食べたくない時もある~
知人がこの作品を読んでいたことが判明。
恥ずかしい(/ω\)
―――ガリガリガリガリ。
「……」
―――ゴリゴリゴリゴリ。
「……」
―――ガリガリゴリゴリガリガリゴリゴッ、バキッ。
「……かっっったいんですけど、これ」
「黙って食え」
歯が痛い。
どうも、前回憎きゴブリン共を見事殲滅することに成功した深見真澄です。
お前が仕留めたのは最後の一匹だけで、ほとんど倒したのはミシェルとローリエだろうが……といった感じのツッコミは受け付けておりませんので悪しからず。
数の問題ではありません。
みんなで力を合わせて撃退したという事実が大切なのです。
あれから既に一夜明けて時刻はお昼時。
我が腕時計は十二時半を示しております。
どうやらこちらの世界も一日は二十四時間で統一されている様子。
正直助かる。
そして現在は村の人達が用意してくれた昼食をいただいている訳ですが、黒パンってびっくりする程硬いのね。
余談だが、ゴブリン共を撃退した後もしばらくは大変だった。
雄叫びを上げながら大喜びしている男衆。
彼らの雄叫びに驚き、モーモーと騒いでは恐慌状態に陥る牛達。
何事かと駆け付ける他の住民達。
男衆の喜び様と地面に転がる複数のゴブリン―――全部死骸―――を目にした結果、村が守られた事実を知り、今度はみんなで大喜び。
村全体がヒャッハー。牛はモーモー。
嬉しいのは分かりますけど、皆さんそのくらいにしておきましょうなんて言ったところで誰も聞きやしない。
流石にその場で宴会を始めようした時は焦った。
残党がいたらどうするんだ。
今襲われたら一溜まりもないぞとミシェルとローリエにも協力してもらい、なんとか場を落ち着かせることが出来た。
余談だが、この騒ぎによって牛の恐慌は更に悪化。
暴走した数頭が牧場を囲う柵の半分近くを破壊する事態にまで発展してしまった。
自業自得とはいえ、今後の村の大工さん達の苦労が偲ばれる。
一頭も逃げ出さなかったことがせめてもの救いか。
「荒ぶってたなぁ、牛」
「何人か弾き飛ばされてる人もいましたね」
その後は男衆以外の住民を先に帰宅させ、交代で休憩を取りながら夜明けまで警戒を続けたのだ。
ちなみに計十三匹ものゴブリンの死骸は手分けして運び、全て森の中に放置してきた。
そんな雑な処理で大丈夫なのだろうか?
異世界だからアンデッド化したりするんじゃ……なんて心配になったのでローリエ先生に質問してみたところ―――ミシェルが何故自分には訊ねないのだとむくれていたがスルーした―――やはりこの異世界、アンデットになる可能性は有るとのお答えをいただいた。
しかし、それも場所や状況によりけり。
特に呪われてもいない普通の土地で死んだ魔物が、たったの一日二日でアンデットになることは有り得ないので、そこまで心配しなくても大丈夫。
確実にアンデッド化を防ぎたいのなら神官に浄化してもらうのが一番だが、そんな都合よく神官などいる訳もないので、大抵は解体すか焼いてしまうらしい。
森の中に放置した理由は、こうしておけば森に暮らす他の魔物や獣が勝手に片付けてくれるので手っ取り早いからとのこと。
死して尚、その肉と骨は他の生物の糧となり、自然に還元されていく。
これ即ち食物連鎖なり。
こうして生命は巡っていくんだなぁと哲学っぽい考えに浸っていると、おもむろにミシェルが俺の腕を掴んできた。
「こちらも取れるものは取っておくぞ」
何をと俺が訊ねるよりも先に歩き始めてしまうミシェル。
腕を掴まれたままなので彼女の後に続く他なく、ローリエも俺の隣に並んできた。
向かった先にあるのは、ぞんざいに放り捨てられたゴブリン共の亡骸。
見ていて気持ちの良い光景ではない。
何より非常に臭い。
こんな所で今更何をしようというのか。
ミシェルは一言「魔石を取り出す」とだけ告げ、いつの間に用意していたのか、刃が剥き出しのナイフを俺に押し付けてきた。危ない。
見たところ刃渡りは二十センチ強。ナイフとしてはかなり大振りの部類だろう。
刀身は分厚く、先端部は鋭く反り返っている。
鍔元から先端へ向かうに連れて僅かに幅広くなっていることから、形状としてはボウイナイフに似ている。
実に丈夫そうだが、反面切れ味は期待出来そうになかった。
肉切り包丁とでも表現した方がしっくりくる。
ちゃんと手入れをしとるのかね?
二人も同じようなナイフを握っている。
これでいったい何をするのだろうかと態々聞くまでもなく、二人は答えを教えてくれた。
―――ドスッ。
ゴブリンの亡骸にナイフの刃を突き立てることによって。
……マジか。
予想外の事態に硬直している俺のことなどお構いなしに、二人は黙々と魔物の解体作業に取り掛かった。
胸元を大きくかっ捌くと―――そのビクビクしているのは心臓ですか?―――躊躇することなく、その中に手を突っ込んだ。
何か探しているのか、軽く掻き回すように動かしてから手を引き抜く。
その際にグチャグチャと不快な音が聞こえてきたけど気にしてはいけない。
引き抜かれた手はゴブリンの血肉で赤黒く染まっており、その指先には石のような物が摘ままれていた。
凸凹で全体的に黒ずんでおり、艶は全くない。
サイズは直径一センチに届くかどうかといった本当に小さなもので、石の中心部から紫色の光が弱々しく漏れていた。
「それが魔石?」
「ああ」
魔石とは魔力が結晶化したもので、主に魔物の体内で精製されるか、あるいは魔素―――魔力の源らしい―――が濃い特殊な環境下で鉱石のような状態で生み出される。
一応の区分として、魔物にとってもう一つの心臓部とも言える前者を魔核、後者をそのまま魔鉱石と呼ぶらしいが、あまり呼び分けている人はいない。
この世界には魔道具や魔道工芸品なるものが存在し、魔石はこれらを製作する為に必要不可欠なのだそうだ。
そしてこの魔石だが、冒険者ギルドで買い取ってもらえるらしい。
即ちお金になる。
なので冒険者は魔物を討伐したら余程のことがない限り魔石を取り出し、ギルドに買い取ってもらう。
魔石にも等級があり、質の良い魔石は宝石と見紛う程に美しくサイズも大きくなる。
それに比例にして買取価格も跳ね上がるという寸法。
以上、ローリエ先生の解説でした。
「大概のゴブリンから取れるのは質の悪い屑魔石ばかりだがな」
それでも少しはお金になるのだから捨ててしまうのは勿体ないと二匹目の解体に取り掛かるミシェル。
塵も積もれば山となる。
若手の内は何事も地道にやっていかなければならないのは、地球でも異世界でも同じらしい。
一人納得してうんうん頷いているとミシェルからジロリと睨まれた。
何故睨む?
「お前もさっさとやれ。血の匂いに釣られて他の魔物が寄ってきたらどうする」
「やれって何を?」
「魔石の抜き取りに決まっているだろう。何の為にナイフを渡したと思っているのだ」
………………マジか。
この時のことはあまり思い出したくない。
全力で拒否する俺。
問答無用で却下するミシェル。
それを見て苦笑するローリエ。
咄嗟に逃げようとしたが、即座にミシェルに取り押さえられてしまった。
そして無理矢理ナイフを握らされた。
ローリエは苦笑しながらも解体方法を教示してくる。
嫌だ嫌だと必死に拒否するも所詮は無駄な抵抗に過ぎず、俺の声は虚しく森に響くばかりだった。
突き立てられる刃。
生々しい肉の感触と濃密な血の匂い。
汚れてしまった自分の手を見て思った。
―――しばらく臓物は食いたくない。
あの生々しさといったら(´;ω;`)




