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第6話 気付けば便利にアップデートされていた

前回のお話……目覚めれば奴が……

(真 ゜Д゜)おはー

(ミ ゜Д゜)zzz

「よぉ、お目覚めか?」


 テントから顔だけを出したミシェル―――寝惚け(まなこ)に口は半開き状態の間抜け面を晒したままの彼女に向けて、ぶっきら棒な声を飛ばす。


「………………マスミ?」


 状況が呑み込めていないのか、それとも単純に寝惚けて頭が働かないだけなのか、反応が返ってくるまでに大分間があった。

 ミシェルは、変わらずテントから顔だけを出した体勢のまま動こうとしない。

 俺は構わずに話し続けた。


「目覚めの気分はどうよ、この家出娘。おっと間違えた、一人じゃないから家出娘共だったな」


 わざと強調するように言い直せば、焚き火を挟んで向かい側に座っていたローリエがビクッと肩を跳ねさせた。

 そんなローリエの様子を横目でジーッと見ながら、無言でお茶を啜っているエイル。

 普段のおっとりした表情は完全に鳴りを潜め、隠し様がない……隠すつもりもない刺々しい雰囲気が駄々漏れになっていた。


「……なんで、此処に?」


「さぁて、なんでだろうなぁ?」


 漸く頭に血が巡ってきたのだろう。

 何故、俺とエイルがこの場に居るのか。

 その理由が分からず、首を捻りながら訊ねてくるミシェルだったが、俺は敢えて素直に答えることなく、はぐらかすような物言いをした。

 エイル同様、刺々しい雰囲気を隠すこともなく……。



 ―――半日前―――



 二人が泊まっている客室内でローリエが残した書き置きを発見した後、俺とエイルはこれからどうするかについて話し合った。

 すなわち二人を追うのか、追わないのか。


「何日も待ってなんかぁ、いられな~い。マスミくぅん、探しに行こうよ~」


「気持ちは分かるけど却下だ。二人が何処に行ったかも分からないんだぞ」


 普段の口調に戻って二人を探しに行きたいと主張するエイルに対し、俺はキッパリと却下を告げた。

 本音を言えば俺だって探しに行きたい。

 今すぐにでも探し出し、なんなら発見次第全力で頭を引っ叩いてやりたいとすら思っている。

 だが二人の行方が分からない以上、下手に動き回るのは逆効果になり兼ねない。

 行き先の手掛かりすらないのだから、探したくとも探しようがないのだ。


「でもでも~」


「仮に二人の捜索に出たところで見付かる保証はないし、行き違いになったら最悪だ。今は帰ってくるのを信じて待つ他ないんだよ」


 まるで逃げるように行方をくらませた……というか実際に逃げたのであろうミシェルとローリエ。

 逃げた理由は知らないけど、ある程度予想は出来る。

 まず間違い無くミシェル宛に手紙を寄越してきた送り主が原因だろう。

 この際、相手が誰かはどうでもいい。

 問題は相手もミシェル達を探しているということ。

 もしも何者かに追われているなんて状況だとすれば、帰りたくても帰って来れない可能性だって有り得るのだ。


「あぁもう、本当にどうしたもんかね」


「マスミくぅん」


 疲れたように息を吐く俺を見て、エイルの表情が悲しそうに歪んだ。

 そんな今にも泣きそうな顔するなよ。

 黙って待つのは辛いかもしれないけど、俺だって我慢しているんだからエイルにも我慢してもらう他ない。

 それにしたってもどかしいけど……。


「せめて居場所だけでも分かればなぁ」


『分かるぞ?』


 胸ポケットからひょっこり顔を出したニースが、そんなことを言ってきた。


彼奴(あやつ)らの居場所なら分かるぞ?』


「「………………は?」」


 事も無げな態度でミシェル達の居場所が分かると告げるニース。

 彼女の発言を受け入れるのに俺もエイルも数秒の間を要した。


『これでも一度は神と崇められた身じゃ。任せるがよい』


「でもぉ、どうやって~?」


 当然の疑問をエイルが口にすると、ニースは『これを使う』と言って、俺のスマホを取り出した。

 異世界に渡ってからこっち、写真撮影以外にほとんど使い道の無くなってしまったこいつをどのように活用するのか。

 ニースは自信満々に『きっと驚くぞ』と告げた後、ミシェル達を探し出す為の手段について説明してくれた。



 ――――――

 ―――



「これがその手段なのか?」


「そうなるわな」


 ミシェルからの問いに対し、俺はスマホ片手に頷きを返した。

 画面の中では、四つの青い光点が点滅を繰り返している。

 四つの光点とは、俺達四人の現在地を示したもの。

 ニースがミシェルとローリエを探し出す為にスマホを使うと言った理由。

 それはスマホに内蔵されたマップとGPS機能を活用する為だ。

 本来、ネット環境の存在しないこの異世界では、マップもGPSも利用することは出来ないのだが、ニースがこの問題をある程度(・・・・)解決してくれた。

 魔力を電気の代わりにするという荒業で。


「こんなに薄い箱の中に地図が入っているなんて……俄には信じ難いですね」


「行ったことのある場所しか表示出来んけどな」


 繁々とスマホを眺めるローリエに簡単な説明をしてやる。

 詳しい原理は不明だが、俺が実際に行ったことのある場所に関しては、かなり詳細に表示してくれるものの、行ったことのない場所は一切表示してくれない。

 白紙状態である。

 ニース曰く、俺が足を運んで見聞きしたこと、正確には俺と一緒に知り得た情報を反映させることで、白紙の地図が更新されていく仕組みらしい。

 自動更新をしてくれる本来のマップ機能には及ばないものの、測量技術が現代日本程発展していないこの世界では、相当有益な機能だろう。

 何しろ自分の目で見たものがダイレクトに反映されるのだから、態々書き起こす必要がない。

 俺がやるべきことは移動だけ。

 手間要らずで、なんと有り難いことか。


「地図については分かりましたけど、わたし達の居場所はどうやって調べたんですか?」


「どうも魔力を登録しておけば、その人物の現在地が表示されるみたいなんだわ」


 ようは認識票―――魔石票と似たような仕様である。

 いつの間に俺達の魔力を登録していたのか。

 登録した魔力情報を電気信号ならぬ魔力信号として受信し、マップと連動させて現在地を把握する異世界版GPS。

 そもそもどうやって他者の魔力を受信しているのか。

 人工衛星もないのにGPSっておかしくない等々。

 色々と疑問は尽きないけど、その辺りは無視してくれとしか言えない。

 俺だってよく分からんのだから、これ以上は説明の仕様がないのだ。

 魔力は万能。それでいいじゃないか。

 ついでに言うと、密かに心配していたバッテリーの残量に関しても魔力を代用することで解決した。

 当面は大気中の魔素を吸収すれば大丈夫とのこと。


『ふふん、どうじゃ凄いじゃろ。我とて今日まで遊んでいた訳ではないぞ』


「はいはい、ありがと」


 流石は俺の守り神(マスコット)

 感謝の印に羊羮をプレゼントしよう。

 わーいと大喜びでさっそく食べ始める元土地神様。

 うん、威厳ゼロ。


「まだ日の高い内にネーテを出発して、なんとかかんとか野営中の二人に追い付いたって訳だ」


 そして道中は俺にとって地獄以外の何物でもなかった。

 スマホのマップで二人の居場所を確認した直後、エイルは物凄い勢いで水鳥亭を飛び出し、物凄い勢いで帰って来た。

 一頭の馬と共に……。


「エイル、その馬どしたの?」


「ギルドから借りたの」


「あぁうん、それはいいんだけど」


「スタリオン種なの」


「いや、知らんけど」


 何処のダービー?

 エイルがギルドから借りてきたスタリオン種なる馬に目を向ける。

 機能性と優美さを兼ね備えた白く逞しい体躯。

 風に靡く鬣と尻尾は金に近い色合いの黄色。

 長くしなやかな脚の先に備わった蹄は、地面を簡単に踏み砕けてしまいそうだ。

 見た目は確かに馬だが、これは本当に俺の知っている馬なのだろうか?

 まずサイズだが、体高だけで2メートルを余裕で越えている。

 地球にも体高2メートルを越える馬は実在したけど、目の前のスタリオン種とやらは明らかにそれよりもデカかった。

 体重に至っては果たしてどれ程になるのか。


「こいつに乗ってくの?」


「そう」


「レンタルのお値段は如何程で?」


「高いの。ビックリするくらい高いの。でもとっても速くて強いの」


 速いは理解出来るけど、強いってどういうこと?


「マスミくん、早く乗るの」


「いやエイル、少し落ち着いて―――」


「早く乗るの」


「いや、だから―――」


「乗るの」


「聞い―――」


「乗れ」


「はい」


 乗りました。

 今まで見たことないくらいエイルの目が本気(マジ)だったので。

 その巨体故と言うべきか、大人二人が乗ってもまだ余裕がある。


「しっかり掴まってるの!」


 両手で手綱を握ったエイルが馬を走らせる。

 乗馬の経験が無い俺は、振り落とされないよう咄嗟にエイルの腰に腕を回した。

 街中で馬を走らせてはいけませんなどと注意する余裕はなかった。


「――――――ッッ!!」


 急激な加速により、一瞬だけ眩暈にも似た不快感を覚えた。

 競走馬は時速80キロ以上の速度で走ると聞くが、このスタリオン種は確実にそれよりも速く、何よりも力強かった。

 巨体が生み出す圧倒的なパワーとスピードに非力な俺は翻弄され、必死な思いでエイルの身体にしがみ付き、声にならない悲鳴を上げることしか出来なかった。

 もしも推定時速120キロで走っている自動車から放り出され、そのまま地面に叩き付けられたらどうなってしまうのだろう。

 付け加えるなら、この時の俺が乗っていたのは自動車ではなく馬だ。

 落下を防止する為の術も、押し寄せる風圧を防ぐ術も何もない。

 お分かりいただけただろうか。

 俺が感じることになった恐怖の一端を……。


「最短で行くの!」


 エイルのルート選択も俺の恐怖に拍車を掛けた。

 あくまでも最短最速でミシェル達の元へ向かおうとするエイルは、マップで確認した二人の光点目指して一直線に馬を走らせた。

 整備された街道を外れ、道なき道を突き進むスタリオン。

 普通の馬には到底不可能な芸当だが、生憎とこの馬は普通ではなかった。

 逞しい四本の脚は悪路など物ともせず、途中で出くわした魔物すら文字通り蹴散らし、エイルの無茶な要求にも応えてみせたのだ。

 そして当然の如く俺はグロッキー。

 ミシェルが起きてくる少し前までへばっていた。

 ローリエなんかは俺達が突然現れたこと以上に、馬の背からずり落ちた俺が白目を剥いていることに驚いたらしい。


「呼び掛けても全然反応してくれないので焦りましたよ」


「と言われても如何せん記憶がない」


 意識が朦朧としていたので……。

 その原因たる馬は何をしているかといえば、近くの木の枝に手綱を結ばれた状態で、下生えの草をモシャモシャと食んでいる。

 恐ろしいことにこの馬、休憩無しで数時間もの間走り続けたにも関わらず、全く疲労した様子が見られなかった。

 自分まだまだ行けますけどと言わんばかりの余裕の態度。

 思うところはあるものの、二人に追い付くことが出来たのは間違いなくこいつのおかげだ。

 あとでご褒美にリンゴを上げよう。

 ちなみに鍬形兜(スタッグビートル)も無事だ。

 あの風圧に吹き飛ばされることなく、ずっと俺の肩にくっ付いているとは、お主中々やるではないか。

 俺とエイルがどうやってミシェル達の元まで辿り着いたのかは、これで分かってもらえたと思う。


「俺達からは以上。お次は……ミシェル、ローリエ」


 低い声で名前を呼ぶと、二人はバッと音がするくらい勢いよく顔を伏せた。

 伏せる直前に見えた表情は、どちらも強張っていた。


「今度はそっちの事情を話してもらおうか。なぁぁぁんでこんな真似しくさってくれたのかをよぉ」


 二人からの返事はない。

 代わりに伏せられた両者の顔面からはダラダラと大量の汗が流れ、滴となって零れ落ちては地面に吸い込まれていく。


「お前らが抱えてる事情の一切合切。包み隠さず全部この場で吐いてもらうぞ。安心しろ、時間はたっぷりあるからな。遠慮せず存分に語ってくれや、お二人さん」


 顔を伏せたまま黙秘を続けるミシェルとローリエ。

 言い訳も誤魔化しも許すつもりはない。

 ついでに容赦をするつもりもない俺とエイルは、そんな彼女達の後頭部をジーッと見詰め続けた。

お読みいただきありがとうございます。

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