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第14話 若手コンビの奮闘劇・その後 ~新人冒険者Sくんと猫耳少女Nさんの話~

前回のお話……ゴブリン退治完了

(セ ゜Д゜)早く帰ろ

(娘 ゜Д゜)zzz


間章、最終話です。

 ―――side:ニナ―――



「はああぁぁぁ……」


 セントがヘコんでる。

 テーブルに突っ伏したまま、何度も溜め息を吐き続けている。

 そんなセントのことを、向かいの席に座ったマスミも渋い顔で見ている。


「……こいつどうしたよ?」


「依頼を終えてからずっとこんな調子」


 ゴブリン退治の依頼を終えてからもう三日が経つ。

 ネーテの街に戻ったニナ達はギルドへの報告を終え、報酬も既に貰っている。

 今はギルドの酒場でマスミに依頼達成したことを話そうとしていたんだけど、セントがずっとこんな調子だから全然話が進まない。

 ……段々、鬱陶しくなってきた。


「マスミ、なんとかして」


「俺ぇ?」


 嫌そうな顔をしながらもニナのお願いを聞いてくれるマスミがニナは好き。


「あー、セント? いい加減顔上げろ。変質者じゃあるまいし、いつまではぁはぁ言ってるつもりだ」


「はああぁぁぁ……聞いて下さいよぉ、マスミさん」


「聞いてやるから、はよ話せ」


 はよはよとマスミに促されたセントが、ポツポツとゴブリン退治の時に起きた出来事を語り始める。

 ニナ?

 ニナは喋らないよ。

 だって面倒臭いから……。



 ―――

 ――――――



 ゴブリンの巣穴から助けた女の人を村に預けた後、ニナ達は洞窟に引き返した。

 イルナだけは行きたくないってごねてたけど、ニナがお尻を軽く蹴ったら泣きながら付いて来た。

 そんなに強く蹴ってないのに。

 また洞窟の中に入るのは嫌だったけど、鼻が馬鹿になっていたおかげで、最初の時よりは辛くなかった。

 念の為、危険がないかを調べるとセントは言っていたけど、洞窟の中に残っていたのは腐った肉の食べ残しや糞尿、ボロボロになった武具の残骸。

 あとは奥の壁際に色々な動物の骨が乱雑に積み重ねられてるくらいで、セントが気にするような危険なんて何もないように思えたんだけど……。


「……うん?」


 鼻が利かなくなっている所為で気付くのが遅れたけど、積み上げられた骨の山の中から生き物の気配がした。

 セント達にそのことを伝えて、一緒に骨の山を崩してみると……。


「ゴブリン?」


 二匹のゴブリンが中から出てきた。

 通常のゴブリンよりもずっと小さな個体。

 多分、生まれて間もないゴブリンの子供。

 お互いに身を寄せ合いながら、怯えた目でニナ達のことを見ている。


「ずっとこの中に隠れてたってこと?」


「―――KIッ」


 イルナの疑問にニナ達が答えられずにいると、ゴブリンの子供の一匹が突然動き出した。

 ニナ達の脇をすり抜けて逃げようとするそいつの首根っこを押さえたニナは、そのまま地面に引き倒し、ナイフを突き刺そうと―――。


「よせッ!」


 ―――したらセントに止められた。

 なんで止めるの?

 口には出さず、軽く睨み付けるとセントは目に見えて狼狽え始めた。


「だ、だってそいつ……まだ子供」


「でもゴブリンだよ?」


 放っておけば、また悪さをする。

 こいつらの親がどの個体だったのかは知らないけど、イルナが言う通りにずっと隠れてたんだったら、目の前で自分と同じゴブリンが殺されるところを見ていたことになる。


「大きくなったら絶対復讐しに来る。またあの村が危ない目に遭う。そうなったらどうするの?」


 ニナの言葉に「それは……」と言って黙り込むセント。

 ゴブリンは恨みを忘れない。

 たとえそれが逆恨みだとしても、奴らにとっては関係無い。

 野の獣だって親の仇を討つことがあるんだから、執念深いゴブリンだったら尚更危険。

 だから……。


「今仕留める」


 そう告げると同時、ニナはゴブリンの背中越し―――心臓のある位置にナイフの刃を突き刺した。

 ゴブリンはビクッと一度だけ震えると、そのまま動かなくなった。

 自分の兄弟の死に様を目にした残りの一匹は、恐怖の余りに両目から涙を流している。


「セントはどうするの?」


「俺は……」


 ニナからの問い掛けに対して、セントは苦しそうな表情をするだけで言葉を返してくれなかった。

 返してくれなかったけど、セントは無言で背中に吊っていた長柄鎚矛(ロングポールメイス)を両手で構え、ゆっくりと持ち上げた。

 そして……。



 ――――――

 ―――




()ブリンにトドメを刺してからヘコみっぱなしと」


「子ブリン?」


「ゴブリンの子供なら子ブリンだろ」


 じゃあ今後は子ブリンって呼ぶ。

 今マスミが言った通り、あの子ブリンにトドメを刺して以降、セントはずっとこんな調子でいる。

 何故セントが悩んでいるのか、ニナには分からない。


「ふぅむ、セントお前……後悔してるのか?」


「え?」


「だから、子ブリンにトドメを刺したことを後悔してるのかって」


「後悔は……してません」


 マスミからの質問にハッキリと答えるセント。

 なんだか意外。一度はニナを止めたくらいだから、絶対に後悔しているものだとばかり思ってたのに。


「後悔はしてません。けど……」


「けど?」


「あいつらも……ゴブリンも生きてるんだなって」


「あん?」


 ゴブリンも生きてるって、そんなの当たり前じゃないの?

 セントが何を言いたいのか、ニナにはよく分からない。

 マスミも首を傾げている。


「ゴブリンの子供を見た時、魔物も俺達と同じ生き物なんだ。生きる為に必死なんだって気付いたんです」


「そりゃまあ、そうだろうなぁ」


「でも俺、そんな当たり前のことを考えたことすらなかったんすよ。今回の依頼で、その当たり前の事実にようやく気付いてから思ったんです。あぁ、俺は今まで何も考えずに生き物を殺してきたんだって。そう考えると……」


 少しだけ怖くなったんです。

 そこまで言った後、セントはまた溜め息を吐いた。

 なんて声を掛けたらいいんだろ。

 ニナには分からないけど……。


「マスミ」


 マスミだったら何か言ってくれると思う。

 きっとセントを励ましてくれる。

 ニナが密かに期待していると、マスミは「ふむ」と言って腕を組み―――。


「別にいいんでないの?」


 ―――物凄く軽い言葉を返した。

 あれ?

 なんか思ってたのと違う。


「自分が何を相手にしているのか理解したってことだろ? よかったじゃん。成長成長」


「それ、成長なんすか?」


「俺から言わせりゃ、魔物だろうとなんだろうと生き物の生命を奪って何も感じない方がおかしいんだよ。そういう意味だとお前の反応は至って正常だ」


 励まし……だよね?


「後悔してないんだろ? だったらもうちょい胸張っとけ。お前達が頑張ったから今もあの村は無事だし、救われた人もいるんだ」


「……」


「俺の故郷には因果応報って言葉があってな。簡単に言うと善いことすれば善いことが、悪いことすれば悪いことが起こるって意味だ。ゴブリン共はこれまで重ねてきた悪事の報いを受けたんだよ」


「それで、いいんすかね?」


「さて、いいか悪いかはお前次第かねぇ。そもそも誰かに言われて解決するような問題でもないんだ。折り合いがつけられないってんなら、いっそとことんまで悩め。悩んで悩んで悩み抜いて、自分なりに納得出来るだけの答えを出せばいいさ」


 但し、悩み過ぎて禿げないように注意しろよと笑いながら告げるマスミ。

 そんなマスミを見て、セントも苦笑いを浮かべていた。

 元気になった?


「マスミは時々難しいこと言う」


「いや、そんなに難しいこと言ってないぞ」


 ニナからすれば充分難しい。

 インガオウホウってなに?

 ニナが首を傾げていると、マスミはワシャワシャと乱暴な手付きでニナの頭を撫でてくれた。

 にゃあ、もう少し耳の裏を……。


「参考になったかは知らんけど、俺から言えるのはこんなところかね」


「マスミさん、ありがとうございます」


「頑張れよ、若者達」


 マスミはテーブルの上に銀貨を一枚置くと、そのまま席を立ってしまった。

 もっと撫でてほしかったのに、セントも名残惜しそうにしてる。

 ヒラヒラと手を振りながらギルドを後にするマスミを見送った後……。


「ヘコたれてなんかいられねぇな」


「うん……ねぇ、セント」


「なんだ?」


 ニナはさっきまでマスミが座っていた席の隣に目を向けながらセントに訊ねた。

 マスミが何も言わなかったから黙ってたけど……。


「なんでこの人(イルナ)が居るの?」



 ―――side:セント―――



「なんでこの人(イルナ)が居るの?」


 ジト目でそう言うニナの視線を追うと、素知らぬ顔で水を飲んでいるイルナの姿があった。


「……本当になんでだろうな」


 俺の方こそ教えてほしい。

 マスミさんが何も言わなかったから黙ってたけど、何故かこいつもずっと同席していた。


「お前なんでまだ居るの?」


「なんでとはまたご挨拶ねぇ。一緒に依頼を請けた仲じゃない」


「他の連中はどうしたんだよ?」


「この前の依頼からもう冒険者は懲り懲りだって言って、全員何処かに行っちゃったわよ」


 情けないわよねぇと言って肩を竦めるイルナ。

 ついでにこいつも何処かに行ってくれればよかったのに……。

 ゴブリン退治の依頼を終えてからというもの、イルナはやたらと俺達に付きまとってくるようになった。

 おかげでここ数日の間、ニナはずっと機嫌が悪いのだ。


「なあイルナ、ちょっと席外してくれるか」


「なんで?」


「これから今後の活動について話し合うからだよ」


「パーティ内での打ち合わせって訳ね。うん、それじゃさっそく始めましょ」


「いや、始めましょって……」


 こいつは俺の話を聞いていなかったのか?

 ニナもこいつは何を言ってるんだって目でイルナを見ている。


「俺言ったよな。これから今後の活動について話し合うって」


「うん、だから始めましょ」


「いや、なんでお前も交えてなんだよ」


「だって私もパーティの一員でしょ?」


「んな訳あるか」


 いつからお前が俺らのパーティに加わったんだよ。

 見ろ。ニナの尻尾が不機嫌そうに揺れてるぞ。


「俺らはもうお前と組むつもりはないんだよ。悪いけど、他を当たってくれ」


「でももう登録しちゃったわよ?」


「なんの?」


「パーティの」


「……はぁッ!?」


 イルナの発言に耳を疑った。

 俺が突然大声を上げたことに驚いたのか、ニナの尻尾がピンッと伸びる。

 謝るのは後回しにして、テーブルから身を乗り出してイルナを問い詰める。


「パーティ登録したって、い、いつ?」


「さっき、なんか深刻そうな話をしてる時に。あ、ちゃんとリーダーはセントにしといたから安心して」


「そういう問題じゃねぇよ!」


 そういえば途中、受付の方に行って何かしていたような気が……。

 駄目だ。よく思い出せない。

 慌てて席を立ち、受付に着いているメリーさんの元へ向かった。


「メ、メリーさん、パーティ登録って……」


「あ、先程完了しました」


「すぐに解消を!」


「出来ませんよ?」


「なんで!?」


 パーティ登録って任意で解消出来るんじゃないの!?


「それは仮登録の場合です。今回は本登録ですので、特別な事情がある場合を除き、最低一年は解消出来ません」


「マジっすか……」


 一年。

 あの女と一年間も一緒に活動……目の前が真っ暗になるような感覚だった。

 メリーさんがまだ何か言っていたけど、よく聞き取れなかった。

 軽く頭を下げ、フラフラと力無い足取りでニナ達のテーブルまで戻る。


「セ、セント?」


「ニナ、ナカマガフエタゾ。ヤッタナ」


「え、ヤダ」


 本当に心底から嫌そうに表情を歪めるニナ。

 うん、俺も嫌だ。


「お前、なんてことしてくれんだよ……!」


「だって私が一人でやっていける訳ないじゃない」


「だったら冒険者なんて辞めちまえ!」


 なんて言ったところで既に手遅れ。

 メリーさんから説明されたように、少なくとも今日から一年間はこいつも一緒に活動していくことになる。

 登録をした以上、イルナ個人の評価はパーティ全体の評価に関わってくる為、好き勝手させる訳にもいかない。


「これからよろしくね」


「ヤダ、あんた嫌い。どっか行け」


「そんなこと言わずに仲良くしましょうよぉ、ニナちゃん」


「ちゃん付けするな。近寄るな。撫でるな。尻尾触るなフシャァァアアッ!」


 目の前でじゃれ合っている―――一方通行だけど―――ニナとイルナを眺めながら、マスミさんが言い残していった台詞を思い出す。


 ―――頑張れよ、若者達。


 果たしてこの若者達という言葉にイルナの存在は含まれていたのかどうか。

 当の本人がもう居ないので確かめようもない。

 イルナがパーティに加わることで、いったいどのような結果をもたらすのかは分からない。

 少なくとも現時点では不和を招く結果にしかならなさそうだけど……。


「一年間、どうやって乗り切ったらいいんだろ」


 考えるだけで頭が痛くなってくる問題に、俺は深い深い溜め息を吐くことしか出来なかった。

 マスミさん、俺もう挫けそうっす。

お読みいただきありがとうございます。

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