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第9話 若手コンビの奮闘劇・不安 ~新人冒険者Sくんと猫耳少女Nさんの話~

セントとニナのお話です。


※7/31 サブタイトルを変更しました。

 前編 → 不安

 ―――side:セント―――



 失敗したかもしれないなぁ。

 目の前の光景を見ていると本当にそう思えてならなかった。


「今更後悔したって遅いんだけどさぁ」


「セント、ニナもう帰りたい」


「言うなよ。俺だって帰りたいんだから」


 隣に立つニナから不機嫌そうな声が届く。

 帰りたいという意見には全面的に同意するけど、依頼を請けてしまった以上、勝手に帰る訳にもいかない。


「嫌かもしれないけどさ。もうちょい我慢してくれよ」


「むぅ、分かった」


 唇を突き出し、如何にも渋々といった様子で頷くニナ。

 取り合えずこれで一安心……とは言えないよなぁ。

 俺達は森の中を歩いている。

 目的はゴブリンの討伐で、今は奴らの巣穴を探しているところなんだけど……。


「出てこいゴブリン共! 全部纏めて俺が叩き斬ってやるぜ!」


「ふふ、ゼンが相手じゃゴブリンも怖くて出てこれないわよ」


「……ふん、この森には碌な素材がありませんね」


「ん? これって……やっぱ銅貨だ。もーらい」


 今回の依頼を一緒に請けたメンバーがゴブリン討伐などそっちのけで好き放題やっていた。

 ニナが不機嫌になっている原因はこいつらにある。


「どうしたもんかなぁ」


 何故こんな連中と一緒に依頼を請けてしまったのか。

 本当に失敗したなぁ。


 盗賊討伐の依頼を終え、ネーテの街に帰還してから数日。

 充分な休息を取った俺は、冒険者としての活動を再開することにした。

 何故か集落からここまでくっついてきたニナと一緒に。


「マスミやローリエと一緒に居たい」


 というのがニナの主張。

 すっかり懐かれてしまったマスミさんがみんなを代表して、どうやって家族を説得したのかと訊ねれば、まさかの泣き落としとニナは答えた。

 妹に泣き落とされたのか、兄貴(ルト)

 じゃあニナはこのままマスミさん達のパーティに加わるのかと思われた時、ローグさんから待ったが入った。

 暫くの間は俺と一緒にパーティを組んで経験を積んでいくべきだとローグさんは言った。


「言っちゃ悪いが、マスミ達と一緒じゃ冒険者としての基礎が学べねぇ。なんせマスミの〈顕能(スキル)〉と道具が便利過ぎるからな。最初から楽してると碌なことにならねぇぞ」


 この意見にはニナ以外の全員がそりゃそうだと納得した。

 運搬可能な量やそれに伴う移動時の負担。

 更には盗難被害。

 マスミさんの〈顕現(スキル)〉―――本人は空間収納って呼んでた―――さえあれば、物資に関する一切の心配が無くなる。

 おまけにあの人は何処で手に入れたのか知らないけど、凄い便利な道具を沢山持ってる。

 マスミさんは否定してたけど、俺には全部魔道具にしか思えなかった。


「成程。確かにローグ殿の言う通りだ。甘やかすのはいかんな、うん」


「今更過ぎてすっかり忘れてましたね」


「それもこれもぉ、マスミくんが便利だからぁ、いけないの~」


「便利なのに何故悪く言われるのか」


 こんな感じのやり取りが先輩達の間ではあった。

 当然マスミさんやローリエさんの傍に居たがっているニナは、当初この提案に難色を示していたけど、ローリエさん本人に根気よく説得されたことで、ようやく了承してくれた。

 そうして簡単だが基礎的なことを先輩達から教わり、ニナの冒険者登録も終えた今日、まずはどの依頼を請けようかと二人で掲示板の前に立っていると―――。


「なぁ、よかったら俺達と一緒に依頼を請けないか?」


 ―――突然声を掛けられた。

 ニナと揃って声のした方を向けば、俺と同い年くらいの男が一人で立っていた。


「えっと、あんたは?」


「俺の名はゼン。今はしがない銅級冒険者だが、いずれは真精銀(ミスリル)級の冒険者となって英雄と呼ばれる男だ!」


「……あー、そう」


 聞いてもいないことを堂々と言い放つゼンという男は、如何にも駆け出しといった雰囲気を漂わせていた。

 真新しい革の鎧。

 ほとんど使われたことのなさそうな長剣。

 無駄に自信満々な態度。

 いったい何処からこんな自信が出てくるんだ?

 ニナも胡散臭そうにゼンのことを見ていた。


「ゼンだっけ? 俺達とってことは、自分のパーティがあるんだよな?」


「ああ、俺も含めて四人いるぜ。見ての通り俺が剣士で、あとは狩人、盗賊、魔術師が一人ずつだ」


 結構バランスの良いパーティだな。


「それって俺ら必要なのか?」


「ちょっと人手がいるかもしれなくてな。取り合えず話だけでも聞いてくれよ。ついでに俺の仲間も紹介するから」


 そう言うとゼンは、こっちの返事を待つこともなく、一人でギルドの酒場へと移動してしまった。

 まるで俺達が付いてくるのが当たり前と言わんばかりの態度に釈然としないものを感じつつも、ゼンの後を追うことにした。

 ゼンの後を追って着かされたテーブルには、仲間だという二人の男と一人の女がいた。

 小柄で軽薄そうな顔付きをした盗賊の男、ナッシュ。

 神経質そうな印象のローブ姿の魔術師、メラン。

 パーティ唯一の女である狩人、イルナ。

 全員がギルドに登録して日が浅い新人だと紹介された。

 俺もまだまだ新人だけど、もしかしたら俺よりも経験が浅いかもしれない。

 ここで名乗らないのも変だろうと思ったので、一応名乗り返した。

 ニナは喋りたくなさそうだったので、俺がニナの分も紹介した。


「それで依頼ってのは?」


 ダラダラと会話を続ける気にもなれなかったので、さっそく本題に移ることにした。

 俺とは反対にゼンの方は色々と喋りたいことがあったのか、微妙に不満そうな顔をしていたけど、そんなの俺の知ったことじゃない。


「俺達が請けるのはゴブリン退治さ」


「……ゴブリンね」


 小鬼とも呼ばれる下級の魔物。

 一匹一匹は大した脅威にはならないけど、奴らは異常なまでの繁殖力を持っているので、すぐに群れを作る。

 しぶとさだけなら最上級だ。

 新人が請ける依頼としては、まあ無難なところかもしれない。

 ゴブリン討伐なら俺も経験があるし、戦闘に関してはニナは俺なんかよりも上だから、初仕事としては悪くない気もするけど……。


「おいゼン、こんな奴ら役に立つのかよ?」


「確かに、どちらも教養が無さそうですね」


 こんな纏まりの無さそうな連中と一緒で大丈夫かなぁと思っていたら、いきなり難癖をつけられた。

 明らかに俺達を見下すような発言をしたのはナッシュとメラン。


「今更なんだよ。今回は人手が要りそうだから、応援を頼もうってのは全員で決めたことだろ」


「だけどよぉ、一人はガキじゃん」


「僕も獣臭いのは勘弁ですね」


 獣呼ばわりされたニナの目付きが険しくなる。

 こいつらいったい何様のつもりだよ。


「……俺達だって別にお前らと一緒に仕事したいとは思ってねぇよ」


「あっ? おい今なんつったよ」


「聞こえなかったのか? 頭だけじゃなくて耳も悪いみたいだな」


「なんだとテメェ!?」


 俺の発言に腹を立てたナッシュがバンッとテーブルを叩いて立ち上がり、こっちを睨み付けてきたので、俺も負けじと睨み返した。

 慌ててゼンが止めに入るものの、俺とナッシュはお互いから目を逸らさなかった。


「おい、止めろって」


「やれやれ、これだから教養の無い人間は困ります」


「うるっせぇぞ、メラン! 魔術学院卒業しても行くとこがなくて冒険者になったようなテメェがスカしてんじゃねぇ!」


「ぼ、僕を馬鹿にするな!」


 今度は顔を真っ赤に染め、怒りを露にしたメランが立ち上がり、ナッシュを睨む。

 魔術学院どうこうの話は知らないけど、どうやらメランにとっては触れてほしくない話題だったらしい。

 やはりこんな連中と一緒に仕事なんて出来ない。

 さっさと断ってこの場を去ろうと思ったら―――。


「はいはい、喧嘩は駄目よぉ」


 ―――妙に甘ったるい声を発したイルナが間に入ってきた。


「ナッシュもメランも、相手が嫌がるようなことを言ったりしちゃ駄目よ?」


「でもよぉイルナ」


「先に言い出したのはナッシュで……」


「二人とも……私は駄目って言ってるのよ?」


 イルナが笑顔でそう言えば、ナッシュもメランも不貞腐れたように席へ座った。

 仲裁の出来なかったゼンはあからさまにホッとしている。

 リーダーはゼンだって言ってたけど、今の様子を見るに、このパーティの本当の纏め役はイルナなのかもしれない。


「セントもニナもごめんねぇ。この子達ったら口が悪くて」


「別に……悪いけど俺達は―――」


「それじゃあさっそくお仕事の話をしましょうか」


 俺の発言を遮るように言葉を重ねるイルナ。

 完全に断るタイミングを外されてしまった。

 俺達のことなどお構いなしに仕事の話が進められていく。


「……セント」


「ニナ、どうかしたのか?」


 ずっと黙っていた筈のニナが急に口を開いた。

 その細められた目はイルナを見据えている。


「あの人、なんだか嫌な臭いがする」


「嫌な臭いって、どういうこと? 普通に臭いってこと?」


 特におかしな臭いは感じないけど。


「そうじゃないけど、よく分からないけど……でもニナは、あの人嫌い」


「……ニナ」


 ニナが口にした嫌な臭いの正体がなんなのか、俺には分からない。

 だけどニナは獣人だ。

 俺なんかよりもずっと優れた勘をしている。


「何かあるかもしれないもんな」


 リーダーのゼンではなく、イルナを中心にして回るパーティ。

 俺とニナの意思を確認せず、勝手に進められていく話。

 目の前の光景を薄気味悪い気持ちと共に眺めながら、警戒だけはしておこうと俺は心に決めた。

お読みいただきありがとうございます。

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