第一話 〜冒険者の物語の始まり〜
2月7日、加筆修正
「ウソ......だろ?」
混乱した
魔物との戦争が終わったにしても、復興スピードが早すぎる
少なくとも、あの戦いから一ヶ月しか経っていない筈だった
それに龍族は魔王で最後と魔王本人が言っていた筈だ
なぜここまでの龍が居る?
ただそこに立ち尽くしていたオレに、少女が話しかけてきた
「あ、あのう、どうして迷宮の森から出てきたんですか?」
「へ?」
迷宮の森?この森が?
思考を纏めようとするが、上手く纏められず何も喋れない
「あのう......大丈夫ですか.....?」
「え、えっ....と」
やばい、どうしよう
考えてみれば街で買い物をするのは仲間任せ、冒険の途中で話した相手なんて魔物か仲間しか居ない
「ご迷惑でなければ、家で話を聞きますけれど.....」
えーっと
あーっと
「あ、ああ、すまないがそこまで連れて行ってくれ、混乱しててな......」
「はいっ!」
その子はニコリと微笑み返してきた
「えーっとだな....なんと言ったらいいか.....」
「大丈夫です、ゆっくりで良いので」
自分の家以外、しかも女性の家
思考が回らない
「えーっと.....その........」
どうすればいいどうすればいい!
どうやったらこのピンチを越えられる!
助けてくれ誰か!
「オレは...........ゆ、勇者でな」
あ
「えーっ!じゃあ貴方はあの勇者様なんですか?!」
「あ、ああ」
しまった
迂闊に喋りすぎた
ジロジロと見られている
どう考えてもボケた奴にしか思われない
「そうなんですか.....なら、どうしてあの迷宮の森から?」
「え?あ、まずだな、なんであの森が迷宮の森なんて呼ばれてるんだ?」
「ええ、それはですね」
「あの森の奥から謎の声が聞こえてくると言うことでギルドが討伐隊を募集して送ったんですけれど、行く人行く人が行方不明になるんです」
「そして森の中では魔法力が強く渦巻いているので時の流れが速く、通った道がすぐに木に埋まってしまう事もあるそうで、そこから迷宮の森って名付けられてます」
「........」
そういえば、何回か森に魔物や人間が来た事がある
魔物も人間にも勘付かれて何かあったら困るので気絶させ外まで移動させていた
それに魔法力が強かったのはオレが生活の為に色々魔法を使ったからか?
「そ、そうか」
「大丈夫ですか?汗が出ていますけれど」
「だ、大丈夫だ」
話題を逸らそう、あまり追求されても困る
「ところでだ」
「はい」
「魔物と人間の和平が起きて何ヶ月経った?」
「えーっと.....何ヶ月じゃないですね、2年です」
「に、ねん?」
「2年です」
2年
2年、確かにそれだけあれば復興も終わるだろう
「2年......かー...........」
深いため息を吐きながら俯く
「だ、大丈夫ですか?!」
「ああ......大丈夫だ.....」
2年、エガンも、アレンも、トライトも、あそこで死んでしまったのだろう
2年という月日、オレはこれからどう過ごすかを考えていた
その後も色々と話を聞いた
魔王はあの状況から蘇生され、魔物達の新しき王や人間の王からの説得を受け復讐を止めた
その後魔王は秘境に居る龍族の仲間の王となり
龍族が暮らす国、【ドラガーニャ国】を作り上げた
それに合わせ人間の国には【ストラナ国】
魔物の国には【モスタラーダ国】という名が付いた
ストラナ国は主に食物を
モスタラーダ国は労働者を
ドラガーニャ国は鉱物を輸出しているらしい
どの国も戦争のせの字もないくらいに平和で、近々近隣の小さな村なども纏める予定らしい
「そう.....か」
「魔王、いや今は龍王か.....」
「ええ、2年前の戦争から復興も終わって、どの国も平和です」
「......あー、これからどうするかな......」
正直、もうオレを知ってるのは王とその周りの人間しか居ないだろう
そうなるとあの森に居る意味がなくなってくる
本当は国の監視や裏切りに対する処置から逃げる為に森に篭ったのだ
それに森暮らしも流石に飽きが来ている
「........!そういやギルドってなんなんだ?」
「ギルドは王国が纏める傭兵団や冒険者の集まりですね、まだ深層まで至っていないダンジョンが多数ありまして、宝石や魔法物が有るって事で、夢のある仕事ですよ」
「そうか......!」
良し、良し良し
希望が見えて来た......!
ギルドでまた冒険するのも良いだろう
勇者という役目から離れて、自由に冒険するんだ
自分の意思で、判断する
そんな自由な冒険を
「ところでそのー......」
「ん?」
もじもじとしながら話しかけてくる
「ギルドに入る予定なんでしょうか......?」
「ああ!」
「.......じゃ、じゃあ......」
「私もっ!仲間に入れてくれませんか!」
「え」
脳裏をよぎったのは仲間を失った記憶
それは自分でも予想外な程に深くキズとして残っていた
オレは、もう悲しみたくなかった
そんな子供じみた理由だったが......
断るには、充分だった
「........すまない、オレはもう仲間を引き連れたくないんだ」
「そ..........そう、ですか......」
「ああ、じゃあな、また会えたら........色々話すよ」
「は、はい」
そう少女に告げ、外へと出る
「さぁて......楽しんで行きますかね.........!」