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そうだ、旅にでよう。


少女は怒っていた。

少女は普段は温厚であまり怒らない。だがしかし、自分の人生まるごとダメにされたばかりか、知らなかったとはいえいままでご先祖様が守ってきたものまでダメにされかけていては怒らざる得ない。



「もうだめだ!!旅にでよう!!」


普段怒らない少女の決断と行動力はすさまじく、手早く荷物をまとめるとどうどうと玄関から出ていった。

どうせ、この本邸には父親も半分しか血の繋がらない妹たちも寄り付かず、唯一自分の味方だった母親も数年前に亡くなった。

通いの使用人はいるが引きこもってばかりの自分とはあまり顔を合わせずにきたから旅に出ても数日はばれないだろう。


むしろ、居なくなったと知ったら嬉々と父様に報告するかもしれない。

今回の件で、私の価値はもうなくなったのだから。


同い年で、同じ名前をつけられた愛人の子であるはずの妹が、本妻の子である私として社交界デビューを果たしたのだから。


少女、ルーシェは玄関の鍵がしっかりしまっていることを確認すると門扉を出た。

このランペルーチェ家は諸事情により鬱蒼としげる森の中にある。


よく言えば静かで落ち着いた雰囲気だが、正直言うとなにもなく不便な場所であった。

森から出て町へ行けばランペルーチェ家別邸、執務館があって代々の当主及びその配偶者は本邸から執務館に通うのが常であったが、現当主である父親は愛人と別館に住みこちらの本邸には母の葬儀以来帰ってなかった。


「とはいえ、」


ルーシェはぶつくさ呟きながら歩く。ときおり木の根や倒木が歩みを邪魔するがもう15年も暮らしてきた森だ。考え事しながらでも歩くことができる。


「本来、うちの家は女が家を継ぐことに意味があるのに…婿養子だった父さまは知らないことが多いとはいえ、こんなことになるなんて…」


異母妹が、嫡子としてデビューしてしまった以上、私がこの家を継ぐことは難しいだろう。

そうなると、ランペルーチェの名前がまだ私にあるうちにしなければいけないことがある。

私がどこかの家に政略の道具として嫁がされてしまってからでは色々と遅いのだ。


そう、ご先祖様が血筋と家名で契約を交わしたドラゴンと、血と名を持った最後の子孫になりそうな私が契約を切らなければ、ドラゴンは永遠に契約に縛られた存在になってしまう。


誰も使役できぬまま、誰にも放してもらえぬまま、飼い殺しのドラゴンにはさせはしない。



本邸よりも森の奥、まわりを一周するのに2、30分ほどかかるような少し大きめの湖がある。

そこにルーシェは母親から継いだドラゴンを呼び出すと、その背にに跨がり飛び立った。

向かう先は北の果ての砦。砦の先にはドラゴンの住む谷があるのだ。







アランステラ王国の王子、ウィルフリートには、いつかドラゴン使いの少女と一緒に冒険の旅にてる。

という、しょーもない夢があった。

が、王子はげんなりとため息を吐いた。


「殿下?どうかなさいましたの?」


ちょっとわきを見下ろすと、鮮やかな紅い髪に、緑の瞳を持つ美しい少女が王子の腕に垂れかかりながら上目使いで見てくる。

少女は一見美しい。が、中身は王子の好みではなかった。

王家がこっそりと見守り続けていた、ドラゴン使いのランペルーチェ家の女公爵が亡くなったと聞いたのはまだ記憶に新しい。

その一人娘であるルーシェという少女もそれはそれは落ち込んでいるだろうと喪が明け次第、城に呼んでみたのだが、持っていたイメージとは大分違っていた。


第一、母親を亡くしたばかりだというのに落ち込んでる気配が全くない。

それに、ランペルーチェ家長女と言えば、森の奥深くにある本館でドラゴンの扱いを学びながら過ごすという。

こないだ庭を散歩していたときちょっと飛びでてきた蜥蜴にびびっていたぞ!!

あげくに、「わたくし、爬虫類だめなんですの…」って!!!おい!!ドラゴンはどうした!!!


それとなく「ちなみにドラゴンとかは…?」と聞いたら「蜥蜴を大きくしたようなものでしょう?想像しただけでも身の毛がよだちます!…もしもドラゴンが現れてしまったら助けてくださいね…」だと…



はぁ…。

俺の夢を返してくれ…。

そして、ちょっと離れてくれ。正直暑苦しい。


「殿下、陛下がお呼びですが…」


そんな時俺を呼びに来た救世主は、侍従のロイドだ。


「あぁ。ではルーシェ嬢、また今度…」


「えぇ、また」


にっこりと笑う少女は存外おとなしく部屋を出ていった。



「もう、殿下ってばなーに、ルーシェ嬢の後ろ姿みて溜め息ついてるんですかー?名残惜しいなら陛下のもとを辞してからまた会いに行けばいいじゃないですかー?」


「ばかロイド。その逆だ。…どうにかしてそろそろあの娘を城から追い出せないか考えていたんだ」


「えー!ルーシェ嬢お嫌いなんですか?あんなに可愛らしいのにー。でも無理じゃないですかね?」


「…どういうことだ?」


「だって、陛下からのお呼び出しって、ルーシェ嬢との婚姻のお知らせですもん」


「なっ…!」


王子は絶句すると、そのまま駆け出した。


ドタバタとおよそ王子らしくない足音に、城を守る衛兵が一瞬構えるが、王子だと知るとみんな生暖かい目で見守ることにした。ルーシェ嬢が城にきてからは猫を被ってるのか大人しかったが、あの知らせを聞いて浮かれているのだろうとみんなは思ったのだ。実際はぜんぜん違うのだが。


「父上っ!!」


バンっ!


と、荘厳な謁見室に見合わぬ音で扉が開かれる。


「なんだ、走ってきたのか?そんなに嬉しいかー、よいぞよいぞ!」


「それより!ルーシェ嬢と誰が結婚するって!!?」


父王に詰め寄ると、父王はにやにやとした顔で「お、ま、え、」と指でちょんっとほっぺたをつついてきた。


「なんで急に…」


「なんだ、嫌なのか。ルーシェ嬢が来る前はあんなにそわそわと楽しみにしていたのに」


「抱いていたイメージとは違ったんです。というか城に呼んだだけで婚約者気取りでうっとうしいし…」


それに、自分が行くところにしょっちゅう現れて気は休まらないし、女官には当たり散らす。



ルーシェ嬢が次の王妃だと思い込んだ貴族を取り巻きにして王宮を我が物顔で闊歩するのもちょっとやめてほしい。


「それに、ドラゴン使いじゃないし…」


ぼそぼそと言い訳しつつ、最後に自分のわがままを付け加える。

別に、ドラコン使いじゃないのはルーシェ嬢が悪いわけではない。

自分が勝手に夢見て、勝手に夢破れただけだ。


それでも長年夢想してただけあって一番ショックが大きいのはここだった。


父王はにやにやしていた顔を一変させて真面目な顔つきになった。


「実はな、それが問題なのだ」


「え」


「ランペルーチェ家はドラゴンのことはひたすら周りに隠すしている。それは、ドラゴンを利用されるのを恐れてだ」


「はい。なので王家はいままでずっと知らぬ顔をしつつ見守ってきたと…それがなにか?」


うむ、と父王は肘をついて重々しく頷いた。


「ドラゴンのことを知らなさそうな娘が当主になりそうになった時たびたび王家はその娘を王妃にたて血をわけてきた。王子は王に姫はランペルーチェ公爵に」


「まさか…」


「そう、お前の代にまたそれをやるのだ。ルーシェ嬢が何故ドラゴンを知らずに育ったのかはまだわからない。母君だった先代の公爵が病弱だったというからもしかしたら母君から離されて育った可能性もある。現公爵はその伴侶であったころからほとんどの執務を代行していて、先代は森に籠っていたそうだからな」


「本来なら、先代が亡くなったらルーシェ嬢が継ぐはずだったはずの爵位を現公爵が継いだのも…」


「公爵はランペルーチェ家出身と言えど末席だっただからなぁ。あの家は女が継ぐのを知ってはいてもその理由まで分からなかったんだろうなぁ。とりあえず、婚約発表まで時間をやろう。それまでにちゃんと頭を納得させておきなさい。」


「はい、父上…」


王子は渋々ながら頷き、ロイドを伴い謁見室を後にした。


「ロイド!!」


謁見室を出るやいなや、王子は叫んだ。


「旅に出るぞ!用意しろ!独身卒業旅行だ!!」


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