EP.2 「テスト」
Ep2 『テスト』
「はい、じゃぁテストを返すから。出席番号順に取りに来なさい」
今回の数学のテストは凄く難しかった。
クラスのみんなもビビってた。
ゴメン。
僕のせいだ。
「私どうしよう・・・これじゃママに怒られる」
「げげ・・30点・・・・」
「俺も今回ひでーよ」
周りから聞こえてくる悲痛な叫び。
先生も少し悪かったと思ってるようで皆を安心させるように言った。
「今回は難しかったから、平均点は35点です」
「え、まじ、助かった~」
「て言うか、私60点も取ってるからクラストップなんじゃね」
「いや、いい方だけどトップてことないっしょ」
先生の一言で、さっきまでの悲鳴は安堵の声へと変わっていく。
今回どうしてこんなにテストが難しかったかと言えば僕のせいなのだ。
それは10日ほど前の事。
「ねぇ、朋君。4月の第4土曜日は朋君の誕生日だよね」
「ええ、まぁそうですけど」
「18歳だね。結婚できるね」
「ま、まだ高校生ですよ」
先生はニタァと嬉しそうな顔を向ける。
もはやこの数学準備室は僕と先生のデート部屋だ。
「ねぇ、朋君。お祝いしようよ。お祝い」
僕の服の袖を引っ張って話す先生を見てると、
とても七歳も年上とは思えない。
「なんかそんな風に僕の誕生日のこと考えてくれてすごく嬉しいです」
「でしょ、じゃあ温泉旅行に行こう。決まりね」
そう言って早速スマホで場所を検索し始める。
いや、ちょっと待って。
温泉旅行っていったら、泊まりじゃないのか?
いや、さすがに教師だし、そんなことは・・・。
「あの、先生。確認なんですけど・・・日帰りですよね」
僕が聞くと、先生は何たわけたこと言ってるのと言う顔をした。
「んなわけ無いでしょ。泊まりよ泊り。ダブルスイート」
「な、何言ってるんですか!! ダメですよそんなの!!!」
「はぁ、18歳になるんでしょ。もう大人だから良いじゃない」
「まだ未成年です」
「うそぉ、お酒は飲めるのに?」
「お酒は20歳からです。まだ改正されてません」
「これだから日本の政治は・・・」
「そんな事どうでもいいんです。とにかく宿泊旅行なんて無理です」
すると先生は残念そうな顔をした。
「しょうがないなぁ。じゃあ、ウチに泊まってもらうか」
「おんなじ事でしょ!」
「どうしてぇ~」
さも不思議な事を言ったかのような目で僕を見る先生。
もう、教師なんだからちゃんとして欲しい。
「先生は首になりたいんですか?」
「それでも良いと思ってるけど」
そうだ、そう言う先生だった。
でも、だめだ先生のペースに巻き込まれちゃ。
「でも僕は、退学になる覚悟はありませんよ」
「そう、私より学校の方が大切だって事ね」
「それは・・・」
くぅ、先生も大事だけど、やっぱり退学は嫌だ。
どっちが何て比べられないし。
「まぁ確かに朋君が退学になっちゃうのは可哀想だよね」
よかった、分かってくれた。
「だったら、今度のテストで朋君が80点以上取ったら諦めるわ」
分かってくれてなかった!
いや、違う。
これはきっとあれだ。
僕にしっかり勉強させようとしてわざとそんな条件を出してるんだ。
そうなんじゃないかな
多分そうだと思う・・・
いやちょっとは覚悟しておこう・・・じゃない。
絶対80点以上取らなきゃ。
先生の事だ、めちゃくちゃ難しい問題出してくるに決まってる・・・・。
「わかりました。じゃぁその条件でいきましょう」
「言ったわね・・・、ムッフッフッフッフ」
先生は不敵に笑った。
とにかく頑張ろう・・・。
と言うことがあっての今回のテストだ。
平均点35点とか先生も無茶するよな。
今回のテストは僕たちが3年生になって初めてのテストで、これまでの総復習的な内容だ。
範囲も広いし問題も難しかったので先生と付き合ってる僕もかなり苦戦した。
手ごたえはそこそこあったが、80点確実に行ったかと言われると自信がない。
お、室田さんが取りに行った。
次は僕、森戸朋だ。
先生が僕を睨む
震える手で答案を手渡してきた。
今の表情、手の震え・・・これはひょっとして・・・
「83点」
やった、ガッツポーズの僕。
先生は苦虫を噛み潰したような顔をした。
僕はそんな先生に舌をベーっとだした。
「わぁ。すごいね森戸君」
「お前、このテストで83点て・・・」
「ねぇ教えて、どうしてそんな点数取れるの」
それはね・・・
「小菅先生の授業が好きだからかな」
僕がそう言うと、クラスのみんなは
「お前珍しいな、小菅ッチ厳しすぎんだろ」
「小菅先生話がつまんないから、好きじゃない」
と言う反応だったが
「先生はちょっと嬉しそうだった」
放課後、数学準備室。
先生は不機嫌顔でブツブツ言っていた。
「どういう事、朋君。なんで80点取れたの?」
「そりゃ、凄く頑張りましたから」
「そんなに私と旅行に行きたくないの?」
そんな事は無い。
僕だってもちろん行きたい。
でも、やっぱり今はまずい。
僕も、もう3年だしあと1年待てば、誰気兼ねなく旅行だろうが何だろうが行けるじゃないか。
「卒業するまで、我慢するつもりです」
「なにそれ、真面目か!?」
「普通です!!」
「卒業前に行くからスリルがあっていいんじゃない」
「先生は不倫に走るタイプかもしれませんね・・・」
「まぁ、いいわ。その代り、誕生日はウチに来なさい」
「・・・・・」
「泊まりじゃないから安心しなさい!」
そして、当日先生の部屋へ行くと
婚姻届けが準備されていた。
「先生、これなんですか?」
「18歳なんだから結婚できるでしょ」
「いえ、未成年は親の承諾がいるんですよ」
「じゃぁ、今度の三者面談で承諾貰いましょう」
「ぜっ―――――――――――――――――ったいにダメです」