想いと思い
「だってカズ!…将来いとこのシズちゃんと結婚するんでしょ…?」
その一言を聞き、ぴたりととまった。
「…シズちゃんと結婚するなら…もう少しで私とカズは会えなくなる…だったら、残された時間ずっと一緒にいたいじゃん!」
「カズが…好きだから____」
周りの音が止まった。
さっきまで聞こえていた草の擦れる音、風の吹き抜ける音、祭壇の松明がパチパチと燃える音。
ミズちゃんは涙を一筋だけ流していた。
その涙が地に落ちるとき、風がぼくらの間を吹き抜けていった。
好きだという思いを拭い取るように。想い合ってはいけないその辛さをかき消すように。
そこで初めて、自分の想いに気づいた。
__ぼくもミズちゃんが好きだ___
伝えなかった。伝えられなかった。この想いを伝えてしまうと、ミズちゃんはもっと辛い思いをすることを知っていたから。もどかしかった。
「…ご、ごめん。急にこんなこと話しちゃって…変、だよね…本当にごめん、これから会わないように気をつける…から…」
なにも言えなかった。
こんな気持ちじゃ、かける言葉も見つからない。
そのまま、ミズちゃんは歩き去って行ってしまった。
「やあ!はっ!!」
次々と敵を張り倒す。
しかし後衛のミズちゃんがいないため全く回復がない。
少しずつ削られる体力のなか、このあたりの森には生息しないはずの強いモンスターが現れた。
「なん…で…!」
すぐに一撃が飛んでくる。
「そんなこと言ってられないか…!」
ひょいひょいとかわすつもりが、先ほどの雑魚戦で疲労しているらしい。
思うように体が動かない。
「ぐあっ!」
そうこうしているうちに一撃入った。
そして敵は休まず攻撃してくる。二撃、三撃とどんどん入ってくる。
そして…
「ぐああぁっ!!」
ぼくは力尽きた。
「ん……うぅ…」
冷たく硬い感触は慣れているがいつもの怒りっぽい声が聞こえてこない。
少し寂しさを感じつつも、ゆっくり起き上がり、外に出た。
しかし先ほどの敵はその辺の敵とは比べものにならないくらい強い。
父に報告しなければ…
そう思った矢先、見慣れた背中が見えた。ミズちゃんだ。
かなり急いでいる。向かった方向はあのモンスターのいる方だ。
ミズちゃんの考えを察し、急いで追いかけた。
ミズちゃんは足が速い。幼少期のかけっこで1度も勝ったことがなかった。今でも追いかけるのにいっぱいいっぱいだ。
そして、モンスターのいるところの直前に来た。
「ミズちゃん!」
ミズちゃんはゆっくりふりかえる。
「…ついてきてたのはわかってたけど…なに?」
ぼくは1度うつむき、歯を食いしばってからこう言った
「モンスター、倒す気なんでしょ?」
「そうだけど、なに?」
「1人で倒せるの?」
「やってみなきゃわかんない」
「…ぼくも行かせて」
ミズちゃんは驚いた表情でぼくを見た。しかし、首をぶんぶんと横に振った。
「ダメだよ…一緒に戦ってるところをカズのお父さんにみられたら一族追放だってあるかもしれないんだよ…?」
「…だからと言って、ミズちゃんに死ぬリスクのある戦いをさせたくない。ぼくがいたら、ぼくが守る。だから…」
「私より弱いくせになにいきがってんのよ!」
突然怒鳴った。ミズちゃんがそんなことを言うなんて。目を見開いてミズちゃんを見た。
「…とにかく、私1人で行く。邪魔しないでよね」
そう言い残しモンスターのいる茂みへと消えた。
自分はミズちゃんの戦いに邪魔になるだけ…
ひどく自分が情けなくなった。
実際そうだ。ぼくが死んでも、ミズちゃんが死ぬところは最近久しく見ていない。…血のせいもあると思うが。
ふと、思った。
もしかしたら、自分を嫌わせるために言ったことではないのか?
もう2度と会えなくても、ぼくが辛くないように言ったことではないか?
そう思うと全て合点があう。ミズちゃんは実際の戦闘訓練は強いが、力は男のぼくの方が強い。
すでに、体は走り出していた。ミズちゃんを助けるために。あの強さは、ベテランでも1人ではなかなか倒しにくい。2人のチームプレーならあるいは…
その青年の目にはもう迷いはなかった。
「ミズちゃん!!!」
ミズちゃんはすでに瀕死だった。MPもおそらく底を尽きたと思われる。
モンスターはミズちゃんにトドメをさそうとしている。
「させるもんか!」
そう言い放ち、攻撃をしようとするが、足がもつれ転んでしまった。
足にはツタが絡んでいる。ツタの先にはツタ系モンスターが不気味にたたずんでいた。
そうこうしているうちにミズちゃんがやられてしまう。なんとか引っ張ったりして脱出を試みるも、もがけばもがくほどツタは絡んでくる。
鋭い鉤爪がミズちゃんの胸に刺さろうとしている___!
「ミズちゃんっ!!!!」
ザシュッ
ここで切りたかったのでちょっと短めです。
次回、父の愛が垣間見えます。