見ないで
私は、とあるスマホアプリゲームにはまっていた。
序盤、サクサクと進んでいたゲームが、中盤を過ぎると難しくなっていき、最近は限界を感じるようになっていた。
「あぁ、レアなカードが欲しいけれど、空想の世界にお金は使いたくないしな……」
ゲームの攻略サイトを検索していると、
『無料アプリをダウンロードするだけで、ガチャが回せるコインがもらえる』
というページを見つけた。
「ダウンロードするアプリは『笑顔アプリ』?
アナタの笑顔の瞬間を勝手に撮ってアルバムにしていきます?
何これ?
意味が分からないけれど無料だから、まぁ、いいか。
コインをもらったあと、アプリは削除しちゃえばいいし」
私は『笑顔アプリ』をダウンロードして、コインを一枚もらった。
「……やったぁ!
一回でレアカードが当たった! 」
『カシャッ……』
「え? 」
ダウンロードした『笑顔アプリ』を開くと、アルバム欄に、レアカードが当たった時の顔が勝手に保存され、コインがもう1枚増えていた。
「やだ、このアプリ。勝手に起動するの?
こんな汚い部屋でノーメイクでいる写真なんか、誰かに見られたら最悪。
早く削除しなきゃ」
早速アプリを削除しようとしたが、その度に画面がフリーズした。
「何これ?
削除できないじゃない。
まぁ、スマホ本体には影響無さそうだから、いいか……」
私はアプリの削除を諦めた。
「あ。タケシからのメールだ。
今何してる? か……。
『きのこパスタを作って食べてるところ。多めに作りすぎて、食べるの大変……』送信っと」
『カシャッ……』
アルバムに、コンビニで貰った割り箸をくわえてメールを打っている姿が追加された。
それから半年、私はこの迷惑アプリの存在を気にしなくなっていた。
むしろ、どんな顔が写っているのか、興味が湧いて、久しぶりにアプリの中のアルバムを開いてみた。
「うわ!
ひどい顔。
普段こんな顔してメールを打ってたの?」
次々にスライドしていくと、見たこともない男がニタリと笑った顔が何枚か写っていた。
「何これ……、いつ撮った写真?」
よく見ると、この部屋で、私がお風呂に入っている時間か、寝ている時間に撮られている事が分かった。
「……!」
背後に人の気配がした。
恐る恐る振り向くと
『ガッ……!』
頭に強い衝撃が走った。
私を殴った男は逃げて行き、数分後、私の部屋に警察がきた。
「あぁ……、私のスマホ、見ないで……
恥ずかしいから、中を見ないで……」