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あわいろ  作者: 九条智樹
9/27

第9話 友達とカラオケにいくとか充実した高校生ライフっぽい


「……どうする、帰るか?」


 校門辺りまで来て、嘉地がそんな提案をした。

 初日から飛ばしすぎるわけにはいかないので、俺たちもクラスの帰宅に合わせて帰ることになった。ちなみに、嘉地も加藤も部活をサボっているので途中から顔を出したくないらしく、一緒に帰路についている。


「まぁ、帰ってもいいんだろうけど……」


 寄り道はいけないって親に教わりました。


「せっかくだし、親睦会とかしない?」


 加藤が俺の脇腹にエルボーを叩きこみつつ言った。分かっている。今が水崎にとってチャンスなのは分かっているけど、俺は慣れないことしたせいで疲れて眠いんだ……。


「いいな、それ。どこ行く?」


「無難なのはカラオケだろうな」


 水崎は吹奏楽部らしいし、歌もたぶん上手いだろう。アピールポイントとしては十分だ。あと高校生の放課後に遊ぶ場所はカラオケとファミレスくらいだろうか。


「じゃあ木工センターのところのカラオケに行くか」


「それでいいな」


 ここら辺の学生はだいたいそのカラオケに行く。理由はドリンクバー付きなのにフリータイムが安いから。


 ちなみに木工センターが何なのかは知らない。バス停に木工センター前というのがあるのに木工センターそのものを見たことがないのは、たぶんここら辺の七不思議の一つだろう。あとの六不思議を知らないのも不思議の一つという矛盾もある。


「かか、カラオケ……? どどどうしよう、わたし行ったことないよ……っ?」


「安心しなさいよ、奏。そんなおっかないところではないから」


「初心者にはちょっと厳しい気もするけどな……」


 選曲とかかなり悩む。まぁ嘉地と加藤がいるので俺は何の気兼ねもなく歌わないという選択をするけれど。


 そんなわけで、俺たちはバスに揺られて二十分、件のカラオケ店に到着した。

 店内は明るい雰囲気だ。近所にある大手チェーンのカラオケ屋は立地のせいか狭っ苦しく薄暗くさえあるのだが、ここは反対に広々としていて明るい受付や通路、そして一つ一つの部屋も五、六人でゆったりくつろげるほどに広い。


 学校帰りに立ち寄る学生のチラチラと見知った顔もいる中で、俺たちは受付を済ませる。


「ねぇ、滝川く――じゃなかった。達也くん?」


「何だよ?」


 話しかけるなら嘉地にしなさい。


「そこに料金一覧があったんだけどさ。カラオケの代金って、だいたいお部屋代だよね? あとはドリンクバーと著作権料だっけ」


「まぁだいたいそうだな」


 他には人件費とか清掃費とかもあるかもしれんが、お部屋代に含まれるかな。


「どうして一人で行っても四人で行っても一人が払う金額は同じなの?」


「水崎――じゃなかった。奏、それは言っちゃいけないことだ。日本放送ナントカに消費者契約法を語るレベルに言っちゃいけないことなんだ」


 あれ大学生になって独り暮らし始めたら、一斉に夜中とかに取り立てるらしいから注意しよう。引き落としにしておいても確認できるまでは取り立てるという噂まである。ちゃんと払うから迷惑行為はしないでほしい。


 などと言いながら、俺たちは部屋に入る。――作戦開始だ。


「ドリンク取ってくるけど何がいい?」


 さりげない優しさを演じつつの作戦だ。ちらりと加藤の方への目くばせも忘れない。


「あぁ、あんただけじゃ手が足りないでしょ。私も行くわ」


 予定通り加藤も察してくれた。


「じゃ、じゃあわたしはオレンジジュースで……」


「俺はメロンソーダで」


「りょーかいした」


 そう言って俺と加藤は部屋の外のドリンクバーへ向かう。さりげなくケータイを置いて行ったのがポイントだ。


 すたすたと歩いてドリンクバーに行き、言われた通りの飲み物をコップに注ぐ。ちょっとコーヒーとか混ぜたくなる衝動はぐっと堪える。無駄にスティックシュガーを投入するのも駄目だろう。


 そんな俺に任せっきりの加藤は感心したように口を開いた。


「――あんた、やっぱり頭いいわね」


「今さら何を言ってるんだ。俺は天才なんだよ」


「いや、確かにすごいとは思うしだから誉めたんだけど、そこまで言うほど? さりげなく二人きりにしたかっただけでしょ」


 加藤は呆れたような訝しんだような曖昧な雰囲気だった。


「それもあるけど、二人きりだとどれくらい会話するかを探ろうと思ってな」


「……それじゃドリンク取りに行ったらダメじゃない? ドアに耳を澄ませないと」


「カラオケなんだから防音に決まってるだろ。だから、ケータイのボイスレコーダーを起動しておいてきた」


「用意周到ね……」


「あとはもうちょっと時間潰して、ほどよく喋った頃にケータイを取って、トイレとかに行くふりして確認すればオーケーだ」


 俺がそこまで言うと、加藤はどうしてか半歩下がっていた。どうしたんだろう。


「そこまで作戦立てられると、逆にキモイ」


「おい言っていいことと悪いことがあるだろ。ちょっと眼から汗とかそういう類の何かが出そうになるだろ」


「どんだけメンタル弱いのよ……」


 ほっとけ。


 ――とまぁ、そんなわけで五分程度時間を潰して、俺達はジュースを両手に携えて部屋へと戻る。扉の開け方に四苦八苦したが、意外と肘は便利だと知った。


「遅かったな」


「悪い、部屋番号忘れちゃってな」


 言い訳の用意も忘れない。それがマイクオリティ。


「じゃ、俺は歌の前にトイレ行っとくから。先に曲入れ始めといてくれよ」


 そう言ってケータイを手にトイレへ向かう。トイレという言い訳上、あまり時間をかけ過ぎることのないように早足で向かい個室に入り、イヤホンを装着して音声を聞く。


 しばらくの無言の後、声が聞こえてきた。


《あ、あのさ。奏さんって部活やってる?》


《ふぇ!? ええっと、その……》


 答えないまま無言に。


《あ、カラオケとか初めてなんだっけ? 歌ってどんなの好き?》


《ええぇっと、えっと……》


 答えないまま無言に。


《奏さんは――》


《ふぁ、えぇっと――》


 以下略。


「……何やってんだあいつは……」


 せっかく俺がやりたくもない演技指導などという面倒な役を負ってまで、嘉地との接点を作ってやったというのに……。これではまるで進歩しない。


 俺はそのまま水崎に散々文句と注意を書き連ねたメールを送って、これからの先の見えない展開を憂いた。――トイレの便座の上で。


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