第7話 回収されなきゃフラグじゃない
金曜日も終わり週末も過ぎ去り、六月の第一月曜日の放課後。
さっそく文化祭の話し合い第二弾があった。
俺たちクラスメートの手元には、中林委員長が用意した台本が人数分配られている。おいこれ、いくらなんでも仕事が早過ぎるんじゃないですか。委員長、過労死しますよ?
「じゃあ今回は班決めね。一応だけど、大まかに必要な班と仕事は演劇部の経験から考えてきたから。あ、でも意見があるなら言ってね」
そう言って、中林委員長さんは黒板に班を書いていく。
メイン演技班、サイド演技班、大道具班、衣装・小道具班、照明演出・買い出し班の五つだ。
俺は衣装・小道具班にしよう。適当にやって後は隅っこで気付かれないようにサボりる。
「仕事内容は、まぁ見ての通りかな。サイド演技班はアドリブ部分とかもあるから、自分たちで話を作ったりするのも仕事ね。あと照明演出は演技の演出じゃなくて、演出効果っていう意味だから」
委員長はそう言いながら、メイン演技班に既に決まっている嘉地や水崎の名前を書き込んでいく。
「で、メインのお話は真面目にしっかり作り込みたいって考えているから、監督っていうか、演技指導役が一人ほしいの」
まぁいて損はない役どころだ。そもそも配役を男女逆にした上でメインの演技をコミカルにしすぎないようにするには、第三者の客観的な指摘が必要になるはずだ。何なら嘉地や水崎、加藤の三人だけでは真面目な劇が出来る気もしない。
「それで、その役は立候補でもいいんだけど……」
ちらりと、委員長は俺を見たような気がした。
「どうかな、滝川くん」
ような気が、とかじゃなくて事実だった。
「立候補でいいんじゃないですか」
そんな俺個人を特定して同意を求めなくても、ぼーっとしてて目つき悪いとはいえ、ちゃんと話し合いには参加している。
「そういう意味で言ったんじゃなくて、滝川くんにやってもらえないかな、っていう意味なんだけど」
……は?
あまりに対人スキルが低い俺は声も出せずに驚いてしまった。
「……俺が?」
理由がさっぱり分からない。何なの、俺のこと好きなの?
「だって木曜日の嘉地くんの意見って、滝川くんの意見でもあるんでしょ? あんな風に細かいところに気付く人なら演技指導はぴったりだよ」
……マジで言っているんでしょうか。
「大丈夫、話のイメージとかは私に訊いてくれればいいから。仕事としては違和感を指摘するだけでもいいよ」
いや、委員長はそう言っているが絶対そんな簡単な仕事じゃない。つまりメインストーリーの面白さはその演技指導係にかかっているということだ。失敗は全てそいつの責任になる。そんな重圧が俺に耐えられるわけがない。
「どうかな?」
俺としては、どう(やって断ろう)かな。という状態なんだが。
どう考えても楽が出来ない。俺のモットーは|《人生楽してそこそこの生活》であるので、こんな役回りなど死んでもごめんだ。……一石二鳥だったかもしれない。
だが、この流れはマズイ。
そんなふざけた理由で断るのは文化祭の雰囲気をぶち壊す。文化祭はさほど楽しみでもない俺としてはそれでもいいのだが、そんな空気を読まない行動をして周囲から浮いた存在になるのだけは嫌だ。
結論。
詰んだ。
「……じゃあ、やります……」
俺はやりたくもないのにそう言わざるを得なかった。
……いや、違う。これはあれだ、他の人にそんな重圧のある仕事をさせないで済むようにという俺なりの配慮。そう、俺は優しさから引き受けた。そうでも思ってないと泣きそうだった。
遠くで加藤が笑いを堪えようとして堪え切れてない声が聞こえた。後で殴る。
「ありがとう!」
そんな殺気に溢れた俺に対して委員長は本当にありがたそうに言ってくれたが、正直それくらいじゃこれから先の責任や重圧に見合っているとは思えない。
「みんなもそれでいいかな?」
もちろん委員長の意見に誰も拒否しない。俺に興味がある人間などいないから当然か。ヤダ凄い悲しい理由だ。