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あわいろ  作者: 九条智樹
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第4話 なんだかんだで”イケてる”女子って怖いよね


 いろいろ策を考えたもののそれほど役に立ちそうなものもないままに日は過ぎていき、早くも木曜日の昼休みとなってしまった。


 いつも通り席を動かずに弁当を食べながら、特定の誰かと食べることをしないで席から動かない八方イケメンの嘉地と無駄な話をする。

 窓際最後列が俺でその前が嘉地なのだが、わざわざ後ろを向いて弁当を食べてくれている。


 俺と嘉地の仲がいい、というよりは、嘉地が俺みたいなのといると気楽なだけだろう。

 俺は話に相槌は打つが他の連中と違って新しく振ったりしないし、過剰に盛り上がるのは好きじゃない。嘉地の友人を名乗る連中はそういうのが多いし、昼休みくらいは呑気にしたいとでも思っているのかもしれない。


 とは言え、半分以上は成り行きだろう。席が変わったら変わったで嘉地はその先で友人を作るだろう。もう五月の末だし今日はLHRがあるから、下手をすると今日にでも席替えとかあるかもしれないのだが。

 などと残念なことを考えている俺に、嘉地は新しく話題を振った。


「そういえば最近、滝川って加藤さんとか水崎さんと仲良くなった?」


 早くもバレかけている……だと……っ。


「……俺に親しい友達が出来るとか、そんなのありえないだろ」


 いつも通り卑屈なことを言ってごまかす。ちょっと涙が出そうなくらいの自虐ネタに自分でも引いた。


「それもそうか」


 それで納得しちゃうのかよ。お前友達じゃねぇのかよ。


「まぁ、加藤とは小学校からの仲だからな。そりゃ話もするだろ。あと、水崎さんは加藤と仲いいみたいだからそのおまけみたいな感じ。たぶん、向こうも俺とそんなに親しいとは思ってない」


「……そうか?」


 ちょいちょいと嘉地が俺の肩を叩いて、前の方の席を指差す。

 加藤と一緒に弁当を食していた水崎が、俺たちの方を向いて小さく手を振っていた。

 いや、その手は俺じゃなくて嘉地に振れ。そんな「嘉地くんと話して情報収集してるんだねありがとう頑張って」みたいな顔で俺に手を振るな。色々台無しになるだろ。横の加藤の顔を見て気付いてください。


「いやぁ、滝川に友だちが出来てよかった」


「おいお前、今さらっとヒドイこと言ってるからな。俺が相手じゃなかったらいじめで訴えられてるぞ」


 暗に俺に友達なんか出来ないだろみたいなこと言うんじゃない。ほとんど隠しきれてない事実だけに、その気遣いが逆に悲しくなるから。


「まぁまぁ滝川だからできるんだろ」


 そんな俺の忠告を、嘉地は割と酷いセリフで笑い飛ばしていた。


「……友だちだから冗談言えるんだろっていう意味なのかもしれないけど、滝川ならどんだけいじめても文句言わないよね、って言ってる風にしか聞こえないからな?」


「まぁそれはともかく」


 否定しとけよ。うっかり思いつめたらどうしてくれるんだ。


「飯も食い終わったし俺はトイレ行ってくるから。また後でな」


「いってら。俺はジュースでも買ってくるわ」


 俺に連れションという行為は存在しない。あれの意味が分からないのに、だいたいみんな連れ立っていくのは何なのだろう。あと嘉地が立ったら「今だ」と言わんばかりに他の男子がわらわらとついていくシステムもどうなっているんだろう。


 立ち上がって俺は教室の外へ向かう。自販機は昇降口にあるので四階分の階段を降りて昇るのは帰宅部の俺には重労働だが、いたしかたない。


 そんな風に面倒臭さがってぼーっとしていたのがいけなかった。

 教室の入口のところで、誰かとぶつかりそうになってしまった。


「おっ、悪い……」


 とっさにそう謝りそうになって、俺は失敗したと気付いた。

 目の前にいるのは女子だった。スカートはやたら短いし、ブラウスの胸元ははだけてブラが見えそうなくらいだ。制服のリボンなど緩みすぎてもはやネックレス状態なのだが、それなのにわざわざ校則で禁止されている本物のネックレスする意味があるのだろうか。あれか、ダブルネックレスというやつか。たぶん違う。


 端的に言えば“イケてる”女子で、要するに俺が一番嫌いなタイプの人間だ。おそらく向こうも俺のことは嫌いだろう。


「チッ」


 盛大に舌打ちしやがった彼女の名前は、確か村阪弥希(むらさかみき)だ。いつも心の中では「アレうるせーな。授業中だっての」とか思っているから名前はうろ覚えだったりするが、たぶんおそらく十中八九正解だろう。


「あぁ、ごめん」


 そんな奴にも謝れるくらいには俺は大人だった。ちなみに丁寧になったのはちょっとビビったからとかそんな心情から来るものではない。ただ単に無意識の内に誠意を込めただけだ。たぶん、きっと、そのはず。


「チッ。キモ」


 何だアレ超絶怖いんだけど。危うく漏らすかと思った。

 わざわざ謝ったというのにまたあからさまに聞こえる音量で舌打ちして、村阪は俺の横を過ぎていく。――あとその罵りをさりげなく追加するな。俺じゃなかったら泣いているぞ。

 そんな風にビビっていると、自分の席にどかりと座った村阪は取り巻きの女子三人を自分の周囲に侍らせて大笑いし始めた。


「何、アイツ。きょどっててマジでキモイんですけど」


 おいそれは本人の聞こえるところで言うな。いや、本人がいなければ言っていいわけじゃないけど。あときょどってない。ただ単に相変わらずの目つきの悪さのせいのはずだ。


 ……まぁ、そんなことをいくら思ったところで喧嘩もする気もないのだし、ため息一つつくだけにしておく。


「……さっさとジュース買ってこよ」


 誰にも聞こえないくらい小さく呟いて、俺は教室を出る。

 なぜジュース買いに行くだけで嫌な思いをしないといけないんだろう。階段の昇り降りとかの分も考えたら、費用対効果がおかしいことになっている気がする。


「おっす。面倒なヤツにぶつかっちゃったわねー」


 そんな俺の横に並んで加藤が歩いていた。財布を左手に持っているのから察するに、たぶんこいつもジュースを買いに行くのだろう。一人で行けばいいのに。


「問題ねぇよ。俺の影の薄さがあれば、昼休みが終わるまでには忘れられている自信がある」


 ミスディレクションとか使えば効果はさらに上がる。幻の六人目である。


「でも気をつけなさいよ? あいつのいる吹奏楽部での噂なんだけど、村阪はちょっと危ないから」


「危ない? 大丈夫だろ。アイツと関わる気なんかさらさらないし。少なくとも俺はあいつが嫌いだから」


 階段を降り終えた俺は自販機に硬貨を投入しながら言った。


「なるほど。あぁいう見た目とか?」


「おい。俺は人を見た目で判断しないぞ。それでもなお村阪は無理なタイプだ。あと俺の金で勝手にコーヒー牛乳を買ったお前も大嫌いだ」


 加藤は悪びれる様子もなく、俺の金で勝手にボタンを押したコーヒー牛乳を取り出してストローを刺していた。


 世の中の女子は二つのタイプがいる。

 俺に声をかけてくれるか舌打ちするか。なんだそれ、落差が激しい。


 前者はいい人だ。進んで声をかけてくれたなら「も、もしかして俺のこと……」と勘違いしそうなレベルだし、授業とかで仕方ないときでも話してくれるなら俺は泣いて喜ぶ。

 後者は最低だ。人としてどうかしている。もうお前の視界に入る気はないから俺の視界にも入ってくるなよ、とか思う。


 そしていわゆる“イケてる”見た目の中にも前者のような人間はいる。なんか敬遠していたのに球技大会のときとか声をかけられてドキッとして、以降もたまに声をかけてくれるのは嬉しいのだが、俺のリアクションが「ぅす」みたいなことしか言えないのが残念極まりない。


 しかし、少なくとも村阪何某は確実に後者だ。お願いだから生活指導の呼び出しくらいまくって嫌気が差して退学したりとかしてほしい。


「けど、意外だったな」


 今度は加藤が自販機にお金を入れただけで下がったので、俺は意図を察して自分の分としてオレンジジュースを購入しながら言った。


「何が意外なの?」


「お前ってスポーツマンだから、人の陰口とか言わないタイプだと思ってた。そんなに村……なんとかは関わらない方がいいってことか」


 少なくとも俺は加藤が人の悪口を言うなど初めて聞いた。

 そんな俺のささやかな誉め言葉に、加藤はあからさまに顔をしかめていた。


「どうした?」


「思いっきりスポーツマンって言ったくせに、それがただのタチの悪い冗談じゃなくて本当に自覚がないとか……っ」


「あれ。何か間違ってたか?」


 ここには男しかいないと思っていた。


「歯を食いしばれ」


 飲み干したコーヒー牛乳の紙パックを握り潰し、そのまま内臓を抉るようなパンチが俺のボディに炸裂した。

 ぴくぴくと浜に打ち上げられた魚のように、俺は痙攣して倒れ伏していた。


「それより、あんた。ちゃんと考えてきた?」


「な、何を?」


 加藤の暴行に対する被害届を出すかどうかだろうか。


「……あんた、まさか本当に何も考えてなかったわけ? 何も言わないもんだから、てっきり何か策を練っている途中なんだと思ってたんだけど」


「だから、何の話だ?」


「……来月、何があるか知ってる?」


「むしろ祝日がないな」


 六月とか滅べばいいのに。


 そんな返事をすると、加藤は頭を抱えてしまった。それほど大事なことなど六月にあっただろうか。


「六月十五日、うちの学校の文化祭でしょ」


「……そうなの?」


 祭りとか縁がなさ過ぎて本当に眼中になかった。去年はだいたいぼっちで校舎の隅でジュース飲んで過ごすだけだった俺が、そんな行事を覚えているはずがない。


 ……だが言われてみればそんな行事が六月にあったのを思い出してきた。

 この東霞高校は名目上だけは進学校だ。実際はむ……なんとかさんみたいなかなり頭が悪そうな奴もいるが、それでも進学率が全体の八割を超えていればそう名乗ってもいいのだろう。それもあって、文化部の引退を早めるために文化祭は六月に実施している、というまことしやかな噂がある。


 まぁ他にもクラスの仲をイベントで深くするために早い段階に持ってきているとか、何の意図もなく偶然たまたまだとかいろいろな説があるが。


 とりあえず来月、なんなら今日は五月の三十日なので、あと三週間もないくらいに文化祭があるらしい。


「その準備とかを上手く使って奏と嘉地をくっつける方法を考えてると思ってたのに、まさか何にも考えてないとかあんたバカなの? この時期に何の為にあんたに手伝ってもらえるように奏をせかしたと思ってるわけ?」


「うるさい。だいたい文化祭の準備とか俺に関係ないヤツだろ。話し合いとかで俺が率先して意見を出して何か誘導したりしたら怪しすぎる」


「……だから、アイディアを用意して私かなんかに言わせれば良かったんじゃないの?」


 その発想はなかった。加藤は天才だったらしい。


「――けど、言い訳するとしたらディスカッションだと、用意したアイディアを喋らせるだけじゃ、反対意見が出たときにどうしようもないだろ。結果として無意味だ」


 ふぅ。素晴らしい言い訳だな。惚れぼれするぜ。


「自己弁護が早いうえに適格ね……。むかつくから殴っていい?」


「人を殴っちゃいけないって小学校で習わなかったのか、お前は」


 言いながら俺は腕を交差させて自分のみぞおちを守る。ここ数日で俺の内臓への蓄積ダメージは冗談では済まない気がする。


「ま、とにかく。この文化祭の準備とかを上手く使えないと、奏と嘉地の仲が進展するなんてあり得ないんだから」


 それは確かにそうかもしれない。そもそも現時点では進展するほどの仲ですらない。嘉地にとって水崎はその他大勢のクラスメートくらいにしか思っていないだろう。


「あと二時間で、なにかアイディアを考えときなさいよ」


「……そうか。今日の七時間目のLHRは文化祭の話し合いだったのか……」


 席替えなんかではなかったようだが、それにしてもゆっくり考える時間がない。


「まぁどうにかなる。最悪の場合、文化祭に絡めなくてもどうにかしよう」


「それ、もう文化祭諦めてるじゃない……」


 加藤の深いため息を無視して、俺はゴミ箱のジュースの空きパックを投げ入れた。

 ――外れた。


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