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あわいろ  作者: 九条智樹
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第21話 皆ずれていく


 朧月祭、前日。


 今日の全授業は休止となり、全校生が朝から文化祭の事前準備に当たる。

 当然、演技と衣装以外にまともに出来上がったもののない俺たちのクラスも、一昨日の暗澹とした雰囲気に呑まれている余裕もなく、慌ただしい喧騒に包まれていた。

 ただし、演技指導という形でマネージャーのように俺がスケジュールを組んでいたおかげか、俺たちの班にはさほど切羽詰まった様子はない。


 一通りの動きの合わせはやったし、あとは今日の十一時くらいにある体育館での直前リハーサルで、舞台の幅などを見たうえで動きを調整すればいい。逆に言えば、リハーサルまで仕事がない。


「どうしよう、他の班のお手伝いとかしたほうがいいのかな……」


「別にどこも人手に困ってる様子はないしな。今から俺らが行って一から手順を教えてもらうほうが手間になる気がするけど」


 水崎の意見を却下しながら、俺は考える。

 他所の班の手伝いはどうでもいい。だが、問題はクラスの中に泥のように残った重い雰囲気と、その元凶である村阪だ。


 先程から、村阪は何もしようとせずただケータイをいじっている。

 サイド演技班は俺たちと違って、明確なスケジュールを組まずにガヤガヤやったツケが回ったせいで、余裕などないはずだ。台詞の録音ですら昨日完了したというのに、動きを含めた調整などもせずにリハーサルに臨めばどうなるかなど、目に見えているだろうに。


「……俺、注意してこようか?」


 俺の視線で感づいたのか、嘉地が聞いてきた。


「やめといたほうが無難だと思うぞ」


 それはまずいのだ。

 村阪はかわいく言えば拗ねているだけだ。自分の物にしたかった嘉地が、水崎や俺たちとばかり一緒にいる。それが気に食わないのだ。


 そんな彼女に嘉地が注意の声をかければどうなるか。

 素直に言うことを聞くこともあるだろう。嘉地にいいように見られる為にはそうするはずだ。

 だが、別の可能性を捨てることは出来ない。


 一つは嘉地に構ってもらいたさで余計サボりに拍車がかかる場合。この場合に陥れば、もうどう手を尽くしても無駄だ。


 もう一つは、注意されることで自分から嘉地が離れたと錯覚(あるいは自覚)して、誰かに八つ当たりしさらに状況が悪化するパターン。これが、おそらく現状で最も村阪が取りうる可能性の高い行動だ。


 要するに、声をかけた時点で詰みだ。


「解決にはならないけどリハーサルまであのままにしとけばいい。それで派手に失敗でもすれば、嫌でも練習しないといけなくなる」


「……失敗しなければ?」


「そもそも練習する必要がないだけだ。手を叩いて喜んでればいい」


 根本的な解決にはなっていないが、表層だけなぞればそれで十分だろう。

 俺はもう目的を失っている。嘉地と水崎の仲を取り持つことも、おそらくもう不可能だ。だから、俺が躍起になって文化祭の成功に尽力してやる義理もない。


 俺は今まで通り、校舎の隅にでも一人で座り込んで無為に過ごすだけだ。


「……どうしたの?」


 その問いかけは、水崎からのものだった。


 水崎の言っている意味が、俺には分からなかった。


「何がだよ」


「いつもの達也くんらしくないよ」


 断言すらされた。

 どれをもって、彼女はいつもの俺(、、、、、)などというのだろうか。


「……明日が本番だからね。達也も疲れてるんでしょ」


 そんな俺の放ったピリッとした空気を加藤は感じ取ったらしく、軽くフォローを入れて会話を断ち切ってくれた。


「ほら、最近暑いし。熱中症気味とか夏バテなんじゃない?」


「それは、そうかもな」


 俺も頷いておく。嘘から出た真、ではないが、俺が俺らしくない原因をそういう外的要因のせいにしておけば、いずれ俺の中の嫌な部分はなりを潜めてくれるかもしれない。――などという馬鹿みたいな期待もあった。


「確かに暑いよね。わたし今日はお茶を持ってくるの忘れちゃったから、リハーサル終わったら飲み物買っとかないと」


「注意しなさいよ? 奏はそんなに身体は強くないんだし、舞台だって出ずっぱりなんだから。それに、一昨日のことで睡眠不足気味なんでしょ?」


「大丈夫だよ、ちょっとくらい」


 笑う水崎を見て、俺への不信感が消えたことを確信し俺は安堵のため息をつく。

 これ以上の無様を晒すのだけは、どうしても嫌だった。


「ま、リハーサルが終わったら俺はちょっと休むわ」


 頭を冷やさなければいけないから。

 直に、リハーサルが始まる。

 それを終えれば、もう俺は水崎たちに関わる必要がなくなる。


 ――それで、いいんだ。



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