第13話 失敗を失敗で終わらせない
「……で、どうするわけ?」
「ん? すぐに陽斗も来るだろ。そうやってメール送っといたし」
俺は出来る限り、いつもの調子を保ってみせた。
二人とも村阪が乱入してきたことに対して、少なからず動揺している。加藤など嫌悪感を隠そうともしないし、水崎は先程から蛇に睨まれた蛙のように震えてしまっている。
ここで多少は俺がいつもの雰囲気を作っておかないと、彼女たちの心が負の方向に寄ってしまう。それは結果として嘉地に対してもいい印象を与えないだろう。
「? 何て送ったの、達也くん?」
それの俺の気遣いを悟ったのか、それともそれとは関係なしに元に戻ろうとしているのか、水崎が問いかけてきてくれた。
「あぁ。《俺、村阪が苦手だから先に奏たちと出とく。あと打ち合わせ兼ねてお前の家に行くから。そのことを口実に村阪たちを撒いてゲート集合。あいつら連れてきたら俺は演技指導辞めるからな》って送った」
加藤も俺に八つ当たりする気はないらしく、ため息をついただけでいつもの調子に戻ってくれた。
「ド直球ね……」
あの短時間でこれだけ打った技量の方を評価してほしい。それに、婉曲的に間接的な表現を繰り返すと、嘉地の方がそれを察してくれない可能性もある。
「でも、一応目を通して一旦は村阪と話すかもよ? そうなると時間かかるかも」
「だから、わざわざおかしな一文を足しといたんだろ。《お前の家に行くから》って。確認したくなってすぐにこっちと合流するだろうよ。ちなみにいま俺はケータイの電源を切ったので、電話すら出れない」
「……ホント、やることがコスいわね」
そろそろ加藤のこの手の発言は誉め言葉だと受け取ることにしよう。きっと彼女はツンデレに違いない。――デレたの見たことねぇけど。
「本当だぞ。何でいきなり俺の家なんだよ」
そんなことを話していると、嘉地がやってきた。その顔は少しばかり怒っているようだが、勝手に村阪と話しこんだ引け目があるのか怒りきれないようで、複雑な顔だった。
「ん? 半分は口実。半分は希望だな」
全く悪びれる様子もなく俺はその場で適当な嘘をくみ上げていく。もはや詐欺師か悪徳弁護士にしかなれないようなこの嘘八百を並べる技術も、ここ数日だけでかなり磨きがかかっている気がする。
「正直に言うと、今日の感想を言い合う場所が欲しい。だからってカラオケやらファミレスは金がかかる。小遣いの少ない俺にこの連日の出費は結構な痛手なんだよ」
「なら駅のフリースペースとかいろいろあるだろ」
「フリースペースはがやがやうるさくてディスカッションに向かないし、学校には制服に着替えないといけない。なら誰かの家が手っ取り早いが、女子二人の家に男子が押しかけるのはまずいし、俺の家は飼ってる犬がうるさいので却下。消去法でお前の家しか残っていない、というわけだ」
よくもペラペラ舌が回るものだ。自分でも感心してしまう。――ちなみに犬を飼っていることだけは本当なんだけども。
「分かった、分かったよ。家族に電話入れとくから俺の家でやろう」
半ば投げやりながらも、やはり勝手に村阪と話しこんだことを後ろめたく思っているのか、嘉地は俺の意見に乗ってくれた。
「さすが陽斗だ。話が早い」
「……それを言うなら流石は達也だろ。人の退路を尽く潰すとか、やり口が汚い」
嘉地は恨めしそうに、少し笑いながら俺を睨んでいた。あと、ずけずけ言い過ぎだぞ、いくら俺でも泣いちゃうだろ。