2. 俺が壊れそう
『俺、天満のこと好きやなー』
少し、意地悪な気持ちで言った。
天満がどんな反応をするのか見てみたかったからだ。
天満は驚いた様子で「……え?」と咄嗟に俺を見たが、すぐに恥ずかしそうに俯いてしまった。
想像通りの反応だ。顔は見えなかったが耳が真っ赤になっていてどんな表情をしているのかくらい分かった。
『……うん。まぁ……俺も……』
その返答も想像の範囲内のはず、だった。
想像と実際に言われるその言葉の重みは全然違った。意地悪な気持ちは吹き飛び、愛しさが急速な早さで膨らんでいった。
もちろん"告白"の気持ちなんてさらさらなかった。普段のように意地悪を言ったような、そんな感覚だった。
ああ、俺は思っている以上に天満のことが好きなのだ。
天満をからかったつもりなのに自分の気持ちの大きさに気づいて急に恥ずかしくなった。
今すぐ抱きしめたい、という想いを隠すため手をぎゅっと握りしめ恥ずかしがる天満も見ていられず窓の外をながめつづけた。
そのとき想いを伝えていればよかったのに。
それから卒業するまで天満をまともに見れなくなっていた。
「もしかして天満?」
10年。高校を卒業して10年も経っているというのに天満に気づけたことに自分でも驚いた。
天満は相変わらず大きな目をしていて「……中井、や……」とつぶやくように俺の名前を呼んだ。
天満の声を聞いた瞬間、彼を愛しいと思った日を思い出した。
だけどそれと同時に天満は慌ててエレベーターから降りて行ってしまった。
「……すみません!降ります!」
人混みを掻きわけ閉まりそうなエレベーターの扉を押さえた。
もう一度「すみません」と声をかけエレベーターを降りると、天満が階段のほうへ走っていく姿が見えた。
年甲斐もなく必死に追いかけた。
追いかけているあいだ、高校生のころを思い出していた。
どうして俺は天満に想いを伝えなかったのだろうかと。
お互い好きあっているのには気づいていた。天満が俺に想いを伝えるようなやつではないことも知っている。
天満は周りの目を気にするやつだ。俺のことを好きで好きで好きでどうしようもないのに周りの目にはやはり勝てないのだ。
だからと言って俺が告白しても簡単に受け入れられるようなやつでもない。
抱きしめてキスをして、俺のことを好きだと聞きださなければきっと天満は受け入れない。
俺が18才のときにそうしていれば俺も天満も10年間こんな想いをしなくて済んだはずだ。
天満が俺を目にしたとき、確信した。
―――天満はまだ俺のことを想っている。
その証拠に天満はこうして戸惑い、逃げ出した。
抱きしめてキスをして、想いを聞きださなければ天満は俺から一生逃げつづける。
いや、違う。本当は。抱きしめてキスをしたいのは俺で、そうしなければ、