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第七幕 永遠の相棒、はじまりの狼煙

 前回の答え


 ヨーロッパが原産じゃない馬種は?


1,サラブレッド…イギリス


2,リピッツァナー…オーストリア


3,アハルテケ…ロシア


4,ペルシュロン…フランス


5,スタンダードブレッド…アメリカ


5以外はすべて欧州発祥の馬と言われています。

最も、それまでに数多くの交配合を繰り返した結果生まれてきた種である。


5のスタンダードブレッドも別の種同士であった馬の混合種である。

 三河国 色々棲んでる森



 信濃守は森のはずれに向かって歩みを進める。

 

 ドスッ…ドスッ…ドスッ…ドスッ…


 その後ろを馬が歩く。しかしその蹄が地面をたたく音は、さながら熊が歩く音にも聞こえる。


 「…」


 信濃守はそれをあえて気にしないようにしていた。こいつがなぜ、着いてくるのか理由がわからないからである。

 

 馬は種類によって誤差はあるものの、基本的に臆病だということは有名である。

 ゆえに人間に襲われた今、自分を助けたとはいえ同じ人間という生物である信濃守に怯え、着いて来ようとするはずはないと思っていたからだ。


 だが、馬についてそこまで知識があるわけではない信濃守は一つ、失念していることがある。

 臆病ということはすなわち、危険回避を察知するのに長ける。


 つまり、馬は非常に賢い動物である。

 

 家畜、飼育できる動物の中では犬や猫に次いで知能が高く、個体認識の長期記憶が可能なレベルだ。

 また義侠心が強く、一度認めた相手には絶大な信頼を寄せ、絶対に裏切らない。

 日本の源義経、中国の関羽をはじめ、世界の歴史においても、戦場で活躍した豪傑、猛将などは愛馬との強い絆が結ばれていたと言われており、彼らが有名となりえた要因に何らかの関係があると考える者もいる。


 「なんで着いて来るんだ?お前…」 


 信濃守はたまらず森の出口が見え始めたあたりで止まり、振り向いて馬に問う。


 …


 馬は何もせずただ信濃守をジッと見つめる。


 …ザワッ…ザワザワッ…


 森が風に揺られて木霊する。


 それは様々な動物たちの鳴き声にも聞こえるようだ。


 そう思いながらふと、信濃守は周りのあちこちからこちらに近づいてくる音や獣臭を感じた。


 馬の後ろを見てみると、木々に隠れながらではあるものの、兎やネズミといった小動物はもちろん、夜行性のはずのキツネやタヌキと言った動物、さらには初めて森に入ってから一度も見たことがない、様々な種類の馬までが現れていた。


  [感謝する…]


 動物たちしかいないのになぜか信濃守にはそう聞こえたような気がした。


 「気のせいか…。そうに決まってるよな…。」


 おそらく風の悪戯かなんかだと判断した信濃守は、馬の方を見て言う。


 「着いて来るのか…?」


 馬は、短く、嘶き首を下げる。

 それはまさに主従の誓いのごとく。

 それを見ていた森の生き物たちはまさに歓声ともいうべき鳴き声を木霊していた。


 …短いながらも共に生き抜いた同志への旅立ちを祝う…


 そう言わんばかりに。


 しばらくすると、信濃守と馬は森を出で国境で待っているもう一人の共のもとに向かったのだった。



 尾三国境 尾張国側 


 

 蓮は、信濃守が森に向かってから若干時間がかかりはしたが、持っていけるだけの家財道具と、信濃守に持って行かせるための荷駄を手押し車に乗せ、信濃守との合流場所である、三河国境を越え、対岸の尾張国側の川岸まで来ていた。


 …近辺に橋すらない川をどうやって渡ったかは気にしないほうがいいだろう。


 「…殿は今後、馬無しで如何されるのであろうか…。」


 以前、馬術の鍛錬用に使役していた馬も、一応連れてきてはいるが、はっきり言って信濃守を支えきれるような馬ではない。 


 蓮は、信濃守があの馬に別れを告げると言っていたのを考えながら、信濃守が来た際の目印とするために焚火をし、さらに川魚を焼いていた。

 そこから立ち上る煙に引かれたのか、何度か食い詰めた貧民たちが襲撃してきたが、確保していた魚を生のまま十尾ほどやると、さっさと蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。


 おかげで今後の旅路用にできたばかりの燻製しか無くなったと嘆いてはいたが…


 …それから新たに作り、燻製が出来上がる頃、つまり大分時間が経ち、陽が西に傾いてきたころ信濃守は川を渡ってきた。


 …あの巨大馬に跨って。


 「…ようやく国境を抜けれるか。」


 その姿を見た蓮がため息をつきながら、しかし若干ホッとしながら彼らが渡りきるのを待った。


 夜になり、すっかり辺りも暗くなった。


 「それでは、結局一緒に連れてくことにしたんですね!?」


 蓮は呆れ気味に聞いてきた。


 それに相対す信濃守は「大して問題にはならない。」、そう言わんばかりに無我夢中で自分で釣ったらしい魚をがっついている。


 もちろん焼いてはいるが。


 「殿、大体予想していました。だからその馬についてとやかく言うつもりはありません。」


 そこまで言って蓮は、信濃守を守らんばかりに周りを警戒する馬を見る。


 「それでよろしいのですか、我らが向かうは人里。あそこのように人の往来が少ない場所ではないのですよ!?これほどの巨馬です。人が恐怖に駆られてこの馬に襲い掛からないという保証はありません。」


 蓮が心配していたのはそこである。

 おそらく、先日の馬狩りの面々も恐怖からの衝動だったに違いない。


 今後、往来が激しい場所は、プレイヤーのみならず、NPC(ノンプレイヤーキャラ)も多くいる。むしろほとんどがそうだ。


 その時、仮にも反撃し、馬が蹴り殺すような事態が起きれば…


 そこまで、説明し信濃守に言う。


 「間違いなく、ほかのプレイヤーたちから狙われます。」


  蓮は言い切った。本当にそうなるかはともかく、目をつけられることは間違いない。


 「あの馬、NPCでは操れない。」、「近くにプレイヤーがいる。」、そういって警戒されるだろう。


 「心配ない。」


 蓮の不安に対し、信濃守も言い切った。


 「馬がどんなに巨大であろうと、それに騎乗しているものがいる。それだけでまずNPC対策は大丈夫だ。それに他プレイヤーに対しても同様だ。」


 信濃守はそこまで言うと、食い切った魚の骨を、炎の中に捨てる。


 「あと幾らかすれば、桶狭間だ。それまではほとんどのプレイヤーは襲うことはないだろう。ましてや人が乗った馬を襲うなんて度胸がある奴なんてな。」


 なぜか?、そう蓮が疑問符を頭に浮かべていると、どうにか察せたのか、


 「そういったプレイヤーたちは人や動物に対しては殺す、といったことができないだろう。こういったゲームに参加するような奴は特にだ。直接自分の手で殺そうとする覚悟が決められないだろう。ゲームの世界だから殺しても問題ない、そんなゲーム感覚はあくまで画面越しのゲームの場合だ。実体験するのが前提の中で特に多数のプレイヤーがいる中で行うというのはとてつもない負担だ。」


 そこまで言って、「最も、全員が襲い掛かるという事態になれば話は別だが。」、そういって真顔になっている蓮をよそ目に、馬の胴体に寄りかかろうとすると信濃守を信頼してるのか、馬は足を曲げ胴体を草むらにつけた。


 なんだかんだ言って、夏とはいえ夜は冷える、特に川沿いなら特にだ。


 ちょうどいい毛布替わりだろう。すぐに眠気が押し寄せる。




 信濃守がすっかり眠ったころ、蓮も焚火を消し、馬の方に寄った。


 馬は一瞬、蓮の接近に気付き起きたものの、「好きにしろ。」と言わんばかりに、また眠り始めた。

 馬に寄りかかりながら、蓮はふと呟く。


 「…やっぱり変わってる、この人…。」


 そういって蓮もまた、馬の温もりによりすぐに寝たのだった。



 翌朝 未明


 信濃守は、何か冷たいもので顔をなぞられる気配を感じる。


 …正確に言えば、気配なんて感じれないがなんとなくそんな気がする…それだけである。


 「…やっぱりお前か。」


 予想通り、馬が顔をなめていたのだ。


 「…うまいか?」


 冗談交じりに聞くと、首を横に振り尻尾を振り上げた。


 こんなに巨体なのに、ものスゴーク愛嬌があるように見えた。


 「ペット飼ってる人って、こんな気分なのかな…。」


 信濃守が懐の手拭いで顔を拭いていると、既に起きていたのか、あるいは自分同様、馬に舐められたのか、蓮が川岸から戻ってきた。


 「おはようございます。殿、それに…」


 蓮が馬の方を向く。馬はそれに反応したのか鼻息を大きく吐き出す。これが、この馬の挨拶なようだ。


 「おぅ、蓮。さて、んじゃまっそろそろ行くか。」


 信濃守も蓮に挨拶する。そして手っ取り早く身支度を済ませ、馬を荷車に括り付ける。


 この時代、日本では、馬に荷物を直接括り付ける方法が主流だとある文献で読んだが、信濃守もさすがにそれは効率が悪いと考え、簡易的な荷車を作るようにした。


 ただ、一般的に言う馬車とは違う点がいくつかある。


 第一に御者席、つまり運転するための席がないこと。


 第二に車輪が三輪であり、一般的な四輪車ではないこと。


 第三に信濃守は馬上に、蓮は荷車の後部の上に乗っかることなどである。


 まあ、未整備の街道が主流のこの時代だからこそ、馬に直接持たせるのが主流となった気がするから、試しに全部の荷物を馬に持たせてみた。


 それだけなら何ともなかったが、140㎏前後ある信濃守も騎乗するのは厳しいようであった。


 「せっかく小屋を解体したのだから。」と蓮が意外とノリノリで荷車を作成してしまった手前もあるが…。


 ともかく、信濃守と蓮、そして新たに加わった馬…。


 「殿、そういえばこの馬の名は決めたのですか?」


 さすが蓮というべきか、これほどの巨馬、間違いなく連れている以上、名が必要だと判断したのだ。


 「あぁ、一応候補は決めてあるんだが、その前に聞いておきたいんだ。」


 信濃守はそう言って一拍おく。


 「今回の大会で大きな馬はこれか?」


 その言葉に蓮は一瞬、この人も名馬を好む類か、という疑念がわいたが、信濃守は違うと判断した。


 「…はい。殿の馬は全プレイヤー中、正確に言えばNPCの馬たちも含めてもっとも大きな馬です。」


 蓮の言葉を聞いて、信濃守はにこやかに笑い、


 「そうか。お前の名が決まったぞ。」


 信濃守の言葉を理解できたのか、馬はその馬面を信濃守に向け、尻尾をバタバタと激しく動かす。


 「改めてよろしくな‼お前の名は、『こま富嶽ふがく』だ‼」


 名をもらった馬、駒富嶽は今までで一番大きく嘶く。


 「…駒富嶽、ですか。なぜかいい響きに聞こえます。」


 蓮もどうやら不満はないようだ。




 …これでようやく、向かえる…。


 信濃守は決意を胸に西の空を見る。夜明けもまだの未明な為、星空しか見えない。


 …おそらくほかのプレイヤーたちも動き出すだろう。

 蓮のデータ上、そのほとんどが織田家に向かったという…。


 おそらく、桶狭間での史実改変は確率的に低い。


 これから真面目に織田に仕官しても精々、足軽大将止まり。それじゃあまずチャンピオンにはなれない。意味がないだろう。


 注目するポイントはプレイヤーのほとんどが俺と違って社会人だということだ。そうなると現実でのスキル、経験値が響いてくるかもしれない。現実社会でもまれてない俺ではまずまともに成り上がれないだろうしな。


 狙うなら、桶狭間戦後の三河か、あるいは…あの藤吉郎の陪臣となる…現実的に難しいか…。


 まぁ、いい。


 ひとまず行ってみるか。


 「じゃあ蓮、それに駒富嶽。出発するぞ。」


 行くとしよう、戦国の風雲児…否、今はまだ尾張国の覇者か。


 楽しみだな…今は5月のはじめ。桶狭間まであとひと月。


 しばらくはまた鍛錬の続きだろうなぁ。



 …はぁ…。



 ちょっとした豆知識


 当時、馬、主に軍馬を武将たちは駒と言っていたという。


 2013年度最後のクイズはこれ。


 難易度 ★★☆☆☆


 今回は(官位について)です。


 問題:山口信濃守、織田上総介など武士たちは自称で官位を名乗ることが多かったといいます。では、一般的に『守』が使われない国の官位はどの組み合わせでしょう?


 ①常陸国、武蔵国、上野国


 ②下総国、上総国、上野国


 ③常陸国、下野国、上総国


 ④常陸国、上総国、上野国


 ⑤上総国、武蔵国、下野国

 

 正解は次回‼

 これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。  

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