第六幕 永遠の相棒、宿命の遭遇
前回の答え…四,長宗我部家
長宗我部家は、秦家の系譜だと言われております。
そしてその秦家は自分のルーツは、中国最初の帝国、『秦』の始皇帝が先祖とあります、ホントかウソかは別にしてよって、四が正解です。
ほかの選択肢のルーツ
一,足利家…清和源氏,『源 義家』の四男、源 義国を祖とする。よって源氏
二,長尾家…桓武平氏,『坂東八平氏』の一つ。平良文を祖とする。よって平氏。
三,伊達家…藤原北家,『山蔭流』を祖とする。藤原北家とは摂政関白を代々行ってきた藤原氏である。よって藤原氏。
五,真田家…清和源氏を祖とする。一説では古代豪族の一つ、大伴氏を祖とする説もあるが系図によると源氏を祖先としている。よって源氏。
三河国 信濃守拠点近くの森
蓮に旅支度を任せた信濃守は、一人近くの森に来ていた。ここは、鍛錬の場としても使っていた。
蓮が言うには、ここは近隣の領主たちもあまり近づきたがらない森だったそうだ。理由としては、いくつかあるものの大きく分けて四つ。
第一に対織田、対今川戦線の最前線に位置しておらず猛獣等の危険性を考えればこんなところ通る必要性がないということ。
第二にこの辺は両家共にそこまで重要性がなく、城を築くことがなかったこと。
第三には三河国自体が今川勢力下に位置し、地侍や土豪がもめ事を起こせなかったこと。
…そして第四に…あいつのせいだろうなぁ。
「!?」
そこまで頭の中で記憶を反芻して思い出していると、急に頭上の影が大きくなる。とっさに信濃守がしゃがむと先ほど頭上に位置していた場所には、大きな足。ただの足じゃない、馬の脚、馬蹄が通り過ぎていた。
「…よぅ。」
信濃守は、馬蹄の主の方へ振り向き、声をかけた。
…
大きな馬だ。この時代の日本の馬の平均体長は5尺弱、だいたい140㎝位、大きくても150㎝だ。だがこの馬は明らかにそれよりもでかく、明らかに信濃守と同じぐらいの位置に馬首がある。
そして全身傷だらけだ。青毛と呼ばれる真っ黒の毛でおおわれており目を凝らさなければわからない程度ではあるが。
馬も信濃守の声に反応するかのごとく、嘶く。気性こそ荒々しいが、不思議と恐怖を感じさせない。
「今日はお前に別れを伝えに来た。いいか?」
信濃守の言葉を理解した、あるいはその表情で何を言いたいか伝わったのか、巨馬は尾を振り、まっすぐ森の中へ入っていく。
信濃守もそれに黙って着いて行く。
信濃守は巨馬の背中を見ながら、こいつと初めて会ったときのことを思い出していた。
それはまだゲームが始まって2,3日も立っていない日のことであった
…
信濃守は、自分のステータスを改めて数字化されたのを見て、蓮に稽古をつけてもらっていた。
それは覚悟していた以上にきつい上に、筋トレなんて観念すらない時代なために、ひたすら木刀を10本束にしたものを振り回したり、蓮が持ってきた岩を背中に括り付けたまま追い回されたりと、結構スポ根的なことも多く、その日もまた前日の鍛錬の疲れが完全にとれぬまま、鍛錬しようとしたが、蓮に「今日は休んでください。」と言われたので涼をとりがてら、拠点の近くの森林に来ていた。
「なんだかんだ、きついとか、もういやだとか思いながらも結局やってる俺ってなんなんだろ…。」
連日の鍛錬に愚痴愚痴言いながら、信濃守は休憩がてら大木に腰を下ろす。
「…まずいな、疲れがとれねぇ。…大丈夫だろ、ちょっと休憩…す…こし…だけ…」
そう言って信濃守の意識は瞬く間に夢の中へ…落ちていった。
どれぐらい時間がたったのだろう。太陽は既に頭上を過ぎ、西に傾きかけていた。
「…んだ、なんか臭うな。」
信濃守は周辺に漂うある特有の臭いで目が覚めた。
「あれだ、犬とか猫を触った時の臭いだなこりゃ。」
いわゆる獣臭ってやつだろう。
ここは森、でもって獣臭がするとすれば…
「狼!?」
狼の単語で一気意識を覚醒させた信濃守だったが、周りには狼らしき面影はもちろん肉食動物の影すらなかった。
その代わり…
「…あぁ…なんだこいつ?」
そこには、姿こそ馬だが馬とは思えないほど巨大な生物がそこにはいた。そのデカさはおおよそ2m弱…。
…しかも出血夥しく、倒れた状態で。
明らかにそいつは弱っていた。ふと見てみると、折れてはいるものの矢じりが至る所に刺さっていたり、斬傷やら刺し傷やらが目立つ。
ふと、結構遠くから、怒声らしき声が聞こえてきた。
「…!!!…け…討ち…!」
明らかに何か狙っているような声が聞こえた、信濃守はとっさに、この馬を狙っているのだと思った。
「探せ!!あれだけの傷だ、そう遠くまでは逃げられん!!必ず討ち取るんだ!!あの化け馬、必ず仕留めろぉ!」
風の影響か、遠くの声が結構鮮明に聞こえた。
化け馬…おそらくこいつのことだろう。この時代の人間は、まだまだ迷信深い。
これだけの巨馬を見れば間違いなく怪物か何かに見間違うのも無理はないとは思う。
「お前さん、異国の生まれかい?この国の生まれではないよな。」
信濃守はふと、そう馬に告げる。
日本の在来馬種は蒙古系の馬種で現代でいう大型のポニー程度の大きさだ。だがこいつは、体型こそそれらに似て後ろ脚が発達しているが、蒙古系に似たのっぺりした顔ではない。アラブ馬種系のサラブレッドに近いシュッとした顔立ちだ。
おそらく南蛮人が、はるか遠くのヨーロッパから珍馬目当ての客でもいたのか、はるばる日本まで連れてきたのだろう。
馬に関しての知識なんてほとんど持ってないが、以前十二支について調べていたことがあった。その時調べた知識によると、馬は家畜される動物の中で非常に知能が高い。ゆえに信濃守の声が聞こえるのに合わせ、動くのも億劫なはずなのに尻尾を揺らす。
「お前さん、いったい何したんだ?」
信濃守は、なぜかこの馬が気になった。この時代、というよりも現実ではこののち約300年は日本の馬は大型化はしていないはず。なのに馬産地としても有名ですらない三河国にこんな巨馬がいるのは偶然ではないと勝手に思ったからである。
信濃守の問いに馬はまた尻尾を振る、ただし今度は怒気を含めた視線と共にだが。
「…そりゃそうだわな。…わかった、おれが何とかしてみよう。明日辺り又来る。生き延びろよ。」
信濃守は、そう言って馬から離れた。帰り際、馬がとぎれとぎれではあるものの鼻を鳴らしたのがわかった。
…
信濃守はすこし土汚れを全体的に施したうえで自身の腕や足を手ごろな石で叩く。結構な力でやったおかげか5,6回やると痣ができてきた。
その状態で、足を引きずるふりをしながら先ほど声がした方に向かっていった。
その頃、化け馬捜索のために森に入っていた人たちは、馬が見つからず捜索をあきらめかけていた。
「いたか!?」
その中のリーダー格の男が叫ぶ。
「いや、この付近にはいねぇ。」
それに呼応しほかの男が返答する。
「あの馬の血がこの森に入っているんだ!もっと奥にいるのかもしれん。探せ!!必ずあ奴を討ちと…」
「だれか…誰かいねぇがぁ…」
「「!?」」
リーダー格が言い終える前に、全身土で汚れ、いたるところが赤く腫れたり痣になってる男が出てきた。信濃守である。
「あんたら早く逃げろぃ、この森は化け物がいる!!」
信濃守がいかにも演技臭い芝居をすると、男が駆け寄る。
「お主、いかがしたんじゃ!?化け物!?それは馬に見えんかったか!?」
「馬…確かに脚は四本あったで、だけど馬…、いやぁ馬には見えん、とにかく逃げるんじゃい!」
「まぁまぁ、落ち着け、それでそいつはどこにいるんだ?」
リーダー格は信濃守を落ち着かせ馬の居場所を聞こうとした。
「お、お、おれが見たのはこの森の奥だぞぃ。だから大分離れた、あっちに行った。」
信濃守はそう言って森の反対側の方角を指した。
「…?あっちか?あっちは先ほど…」
「相手は化け物みたいな馬だぞぃ。あんなでかけりゃぁ木々の鳥たちが騒がん筈はないぞぃ。」
「た、確かに。」
男が、納得すると信濃守が指した方向で鳥が羽ばたいて飛んで行ったのが見えた。
「…あそこか!いこう!感謝する。」
そう言って男たちは森を東側に抜け、消えていった。
「かなりの大根役者ぶり…いや大根役者にも失礼か。演技は向かねぇな俺。」
信濃守も苦笑しながらすでに暗くなった大地を、急いで駆け戻り、蓮に相談するのであった。
深夜 森
信濃守と蓮はひとまず馬を見に行くということで夜も深いこの時間に再び森に来ていた。
「殿、拙者も流石に夜の森には入りたくないのですが。」
蓮はそう言いながら信濃守の袖をつかんでいた。普段、鬼のように厳しい蓮にも苦手なものはあるようだ。
「確かこの辺に…いたいた。」
信濃守が馬の方に向くと、そこには昼間と変わらず横たわったまま馬が倒れて…いや、寝ていた。昼間あれだけ呼吸が荒かったのに、今では静かに寝息を立てていた。心なしか若干、昼間よりも傷口は浅くなっていたように見えた。
馬は信濃守の声に反応したようで、目を開いた。
「よぉ、まだ生きてたかい。」
信濃守は夜間なために昼間以上に見えにくい馬の顔の近くへ行き、小声でそう言った。
…
馬も小さくではあるが、確かに返事を返した。
「蓮、馬の容体は?」
信濃守が会話を続ける中、蓮は騒がせないように診察をしていた。
「はい。外傷が目立ちますがすべて致命傷は回避しています。毒物にやられてる形跡も見当たりません、ただ出血して相当時間が立ってるようですね、すぐに止血だけでもしないと出血多量で死んでしまいます。」
蓮は口早にそう言って、小屋から持ってきた薬草を広げ始める。
「昨日の鍛錬で集めた薬草か、それで足りるか?」
獣医学に関してはほとんど知識にないうえに、東洋医学もからっきしなために信濃守は蓮に頼るしかなかった。
「大丈夫です、昨日殿が集めた薬草が早くも役に立ちそうです。」
「そうか。」
そこまで言うと二人は黙って馬の治療にあたるのだった。
「それにしても妙です。」
ふと蓮が薬草を馬の傷口に当てながら信濃守に話しかけてきた。
「妙?」
「はい…この馬は…殿と共に…」
そう、この馬はゲーム上、作為的にあの場所に送り込まれたのだ、という。
大会において、本来はプレイヤーごとにそれぞれに適した馬がゲーム開始時にプレイヤー、ナビゲータと共に現れる仕組みだと蓮は言った。
…だが、俺はゲーム開始からその時までこいつの影すら見なかった。
蓮曰く、何者かが信濃守が目覚める前にこの馬を襲ったのだと推測するそうだ。
それもプレイヤーが。
「おそらく、浅い傷が多いのも毒を使ってないのも、プレイヤーのやり口だと思います。」
蓮の言うことに一理ある。この時代の人間ならば化け物扱いして槍や弓矢で殺すだろうが、プレイヤーたちならああいった巨馬ほどではないが、ほかのゲームや競馬などで近い馬は見慣れているだろう。
特に野心あるものならば自身の乗馬にしようと馬狩するだろう。
自分達にはすでに各々の馬がいる筈なのに…
「この馬は本来、殿の騎乗を考えて選ばれた対超重量級プレイヤー専用の馬です。ほかのプレイヤーの方にとっては十分魅力的なのでしょう。」
…超重量級…複雑だ…。
「とにかく、この馬の治療を行うぞ。こういう時は大体時間が左右する!!」
こうして数日かけて俺と蓮はこの馬を治療していったのだった。
…これがこいつとの出会いだったなと感慨に深けていると馬が脚を止めていた。
そこは別に森の中心地とか泉があるとかそういった特別なものはない。
多少、こいつの血痕が残り乾ききっていないということを除いて。
「ここだったな。」
信濃守の声が森に響く。大して声を張ったわけでもないのにそれは木々に反射した。
馬もそれに呼応するかのように、首を揺らして嘶く。
「悪かったな、もっと早くお前を見つけられなくて…。」
信濃守から次に出た言葉は馬に対しての謝罪だった。
「すまん。」
…そのあと互いに無言を貫く。
「!?」
突然、馬が信濃守の右肩にかみついてきた。
「…。」
最初こそ、噛みつかれたことに驚いたが、それは痛みがなくいわゆる、甘噛みというやつだ。
「許してくれてありがとうな。」
信濃守の言葉に反応し、今度は頬を舐めてきた。
やがて一通り舐め疲れたのか馬はようやく信濃守の顔から離れた。
「じゃあな。今度はもう人間に見つかんなよ。」
そういって信濃守は森の外へ向かっていった。
ちょっとした豆知識
日本の在来馬種…体長140~150㎝と言われている。ただ、在来種は江戸時代の間に10~15㎝ほど小型化したと言われているため戦国時代の馬の場合もう少し大きいかもしれない。
江戸時代の日本人の平均身長も戦国時代の人より低いということも関係あるのかもしれない。平和な時代ほど人も馬も小型化しているのは不思議である。
ちょこっとクイズ
今回はせっかく馬のことを調べたので馬に関してのクイズです。競馬が好きな人には簡単かもしれません。
難易度★★★★☆
現在、名がある馬種でヨーロッパで成立していない馬種は次の5つのうちどれでしょう?(なお、イギリスはヨーロッパに含みます。)
1,サラブレッド
2,リピッツァナー
3,アハルテケ
4,ペルシュロン
5,スタンダードブレッド
答は次回にて。
問題の解答、いつでもお待ちしています。