回れ右して目を覚まそう(後)
さてはて、今現在わたしは自宅のベッド上に座り込んでいる。
もう女装少年や腹黒ロキくんやオカン魔王が起こしに来るわけでもないワケだ。
今までのは一体なんだったのか?そんなものは考えてもわからない。
綾斗はまだ行方不明。
今までのはただの夢ではなかったのかと考えるには、随分とリアリティに溢れていたし。
あの世界の空気も触れ合っていた人たちの感触もちゃんと覚えている。
まぁこのままだといずれは風化してしまうのだろうけど・・・。
「ずいぶんとあっさり帰れたなぁ。」
一時期帰れないかもしれないとかなり不安に思っていたのに。
どこかで残念だと感じているし、寂しいとも思う。
あっちで過ごしたのはせいぜい1ヶ月程度で、親しい仲になったわけでもないのに?
まぁ内容が濃かった分随分長く居たように感じていただけだけど・・・。
まどから外を見れば随分と懐かしく感じた。
見慣れたビル群にコンクリートの地面、どこかよそよそしい青い空。
帰りたいとは、確かに思っていた。
別に向こうの正解にいるのが苦なわけではなかった。むしろ楽しいとすら感じていた。
個性豊かな人たちに、鮮やかな世界。
どうやらどうしようもなく、気が付けば愛着がわいていたらしい。
「なんて帰ってきたときに気がついてもどうしようもないんだけど。」
せめてお別れくらいしたかったなぁと、ひとり苦笑した。