雨
「なお、今夜空いてる?」
昼休み終了間際の社員食堂で友人がBセットランチを受け取りながら、私の肘をつっつく。
「危ないじゃない。・・・・・・空いているけど?」
彼に振られた私は今夜以外もずっと予定が空いている。
窓側の席に並んで座る。春の暖かい日差しで気持ちがいい。
「よかった。彼女がね一緒に飲みましょうって言っているの。よかったらまたあのお店に行かない?」
友人の口からでた「彼氏」ではなく「彼女」という言葉にから揚げを落としそうになる。
慌ててご飯の上にから揚げを避難させて、周りの人を気にしながらお茶を一口飲む。
幸いなことに時間が遅いので人もまばらだった。ほっとしながら声をひそめる。
「『彼氏』はどうしたのよ」
「そんなの別れたわよ。私が今好きなのはあいつじゃなくて『彼女』だもの」
「その人ってこの間の?」
「そそ。あの夜に色々話しをしてさ、なんか合うっていうか価値観が合うっていうか・・・・・・。でそのまま別の場所で飲みなおしてね・・・・・・・」
後の言葉を濁す友人。心なしか顔も赤い。つられて私も顔が熱くなる。
「まさか・・・・・・しちゃったの?」
肯定なのか友人はあじフライを食べる。
「ねぇ、どうなの?」
お昼ご飯どころじゃない。気になって箸を置くと観念したのか友人も箸を置いた。
「・・・・・・・だってね。素敵なんだもの、仕方がないじゃない?」
「それって、男よりも女のほうがよかったってことなの? あんた女もいける口だったわけ?」
「もう、なおったら。違うわよ?女が好きなんじゃなくて、『彼女』が好きなの」
幸せそうな友人の笑顔に、私はそれ以上何も言えなかった。
人の気持ちはその人それぞれ。
出しかけた溜息をから揚げを口に入れることで抑えた。
「お願い、なお。一緒に彼女に会ってくれない?まだ二人きりだと緊張しちゃうの」
う~ん。またあのお店に行ったら、見たくない光景を見てしまうような気がするけど・・・・・・・。
それに会いたくない人にも会ってしまいそうだし。
自分の気持ちとは反対に心臓がドキドキしてしまう。
私が振られたとき、友人は真夜中だったのにもかかわらず、タクシーで駆けつけてくれた。
一晩中励ましてくれたっけ。
そんな友人に感謝の気持ちでお返しするだけ。
ただそれだけだよね。
別にあの人に会いに行くわけじゃないし・・・・・・・・。
「わかった、付き合ってあげましょう」
見え隠れする気持ち。
不安と期待。
「ありがとう!ビール一杯おごるね」
友人は私のから揚げを盗みながらにっこりと笑った。
1部の続きです。
1部のおかしなところで前回ぶったぎってしまいました><
まだまだこのサイトの使い方がわかっていません。
ご不便をおかけしてしまい申し訳ありませんでした。