おにぎり屋ふくふく|クロの席
朝のふくふくは、今日もいい匂いです。
ふくさんがおにぎりを並べていると、
「おはようにゃー!」
トラが、元気よく飛び込んできました。
「おはよう」
ミケは、いつものように落ち着いています。
まぐろは窓の外を眺めながらあくび。
シロは静かに席につきました。
そして――
クロも、いつものように店へ入ります。
まっすぐ向かったのは、
窓際の席。
いつもお昼寝する場所です。
日当たりが良くて、風が気持ち良くて、クロのお気に入り。
ところが、クロの足が止まりました。
「……」
そこに、小さな丸い影。
すやすや。
気持ちよさそうに眠っています。
クロは瞬きをしました。
もう一度見ます。
やっぱりいました。
小さな子猫です。
「あら」
ふくさんが笑いました。
「来てたんだねぇ」
トラが覗き込みます。
「シャケの子!」
「シャケの子じゃないわよ」
ミケがすぐに訂正しました。
でも少し笑っています。
あの日、クロがシャケを半分にした子猫でした。
子猫は、まったく起きません。
お腹を見せて、ぐっすりです。
クロは席を見ます。
子猫を見ます。
また席を見ます。
「……にゃ」
少しだけ不満そう。
まぐろが吹き出しました。
「クロ、困ってる」
「席取られちゃったね!」
トラは楽しそうです。
クロは無言のまま、少し離れた場所へ移動しました。
でも落ち着きません。
窓際を見る。
子猫を見る。
また別の場所へ座る。
やっぱり見る。
「気になるのね」
シロがくすりと笑いました。
お昼近くになると、店の中にやわらかな光が差し込みます。
子猫はようやく目を覚ましました。
「みぃ……」
眠そうに伸びをします。
その瞬間、ころん。
席から落ちそうになりました。
クロの耳がぴくり。
子猫は慌てて体勢を立て直します。
「みぃ!」
トラが笑いました。
「危なかった!」
子猫はきょろきょろ。
それからクロを見つけます。
ぱあっと顔が明るくなりました。
「みぃ!」
とてとて。
とてとて。
まっすぐクロのところへ。
クロは少しだけ身構えます。
でも逃げません。
子猫はクロの隣に座りました。
ぴとっと、体をくっつけます。
「……」
「みぃ」
「……にゃ」
クロは少しだけ困った声。
でも、離れませんでした。
ふくさんが微笑みます。
「よかったねぇ」
クロは窓の方を見ました。
お気に入りの席は、もう空いています。
でも、今日はそこへ戻りません。
子猫は安心したように、クロの隣で目を閉じました。
ふくさんは、そんな二匹を見ながら笑います。
「そこも、悪くない席みたいだねぇ」
クロは少しだけ目を細めました。
「にゃ」
窓から入る春の風が、二匹のしっぽをやさしく揺らしていました。




