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おにぎり屋ふくふく

おにぎり屋ふくふく|クロの席

作者: 絵宮 芳緒
掲載日:2026/06/16

朝のふくふくは、今日もいい匂いです。


ふくさんがおにぎりを並べていると、


「おはようにゃー!」

トラが、元気よく飛び込んできました。


「おはよう」

ミケは、いつものように落ち着いています。


まぐろは窓の外を眺めながらあくび。


シロは静かに席につきました。


そして――

クロも、いつものように店へ入ります。


まっすぐ向かったのは、

窓際の席。

いつもお昼寝する場所です。


日当たりが良くて、風が気持ち良くて、クロのお気に入り。


ところが、クロの足が止まりました。


「……」


そこに、小さな丸い影。

すやすや。

気持ちよさそうに眠っています。


クロは瞬きをしました。

もう一度見ます。


やっぱりいました。

小さな子猫です。


「あら」


ふくさんが笑いました。

「来てたんだねぇ」


トラが覗き込みます。

「シャケの子!」


「シャケの子じゃないわよ」

ミケがすぐに訂正しました。

でも少し笑っています。


あの日、クロがシャケを半分にした子猫でした。


子猫は、まったく起きません。

お腹を見せて、ぐっすりです。


クロは席を見ます。

子猫を見ます。

また席を見ます。


「……にゃ」

少しだけ不満そう。


まぐろが吹き出しました。

「クロ、困ってる」


「席取られちゃったね!」

トラは楽しそうです。


クロは無言のまま、少し離れた場所へ移動しました。

でも落ち着きません。


窓際を見る。

子猫を見る。


また別の場所へ座る。

やっぱり見る。


「気になるのね」

シロがくすりと笑いました。


お昼近くになると、店の中にやわらかな光が差し込みます。


子猫はようやく目を覚ましました。


「みぃ……」

眠そうに伸びをします。


その瞬間、ころん。

席から落ちそうになりました。


クロの耳がぴくり。


子猫は慌てて体勢を立て直します。

「みぃ!」


トラが笑いました。

「危なかった!」


子猫はきょろきょろ。

それからクロを見つけます。


ぱあっと顔が明るくなりました。


「みぃ!」 


とてとて。

とてとて。

まっすぐクロのところへ。


クロは少しだけ身構えます。

でも逃げません。


子猫はクロの隣に座りました。


ぴとっと、体をくっつけます。



「……」


「みぃ」


「……にゃ」

クロは少しだけ困った声。


でも、離れませんでした。


ふくさんが微笑みます。

「よかったねぇ」


クロは窓の方を見ました。

お気に入りの席は、もう空いています。

でも、今日はそこへ戻りません。


子猫は安心したように、クロの隣で目を閉じました。


ふくさんは、そんな二匹を見ながら笑います。


「そこも、悪くない席みたいだねぇ」


クロは少しだけ目を細めました。

「にゃ」


窓から入る春の風が、二匹のしっぽをやさしく揺らしていました。

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