地味で健気な姉と華やかで我儘な妹
世間では地味な姉、華やかな妹、と比較されている姉妹がいる。
姉の名前はロディローズ、妹の名前はリリエンラーラ。
周りから見たら二人の仲はとても悪そうに見えるようだ。
例えば、ある時ロディローズに婚約者が出来たのだが、リリエンラーラは姉からその婚約者を奪って簡単に捨てた、とか。
例えば、姉に贈られたプレゼントをリリエンラーラが奪い取って次の日には捨てた、とか。
我儘な妹に振り回される姉の健気さは社交界でも知られるようになっているのだけれど。
「よくもまあ、お姉様の性格の悪さが露呈しませんわねぇ」
「そういうものよ。はい、わたくしの勝ちね」
「あー!またお姉様に負けたわー!」
カードゲームに興じながら語り合う二人の姉妹は仲が良さげである。彼女達こそ不仲な姉妹と噂されるフロリアン侯爵家のロディローズとリリエンラーラである。
「最初の婚約者。あれは駄目でしたわ」
「リリィが引き受けてくれて助かったわ。誰に擦り付けたの?」
「略奪大好きなナトルレイ子爵家のミザリーよ。会わせた次の日にはアピールして三日後には陥落してたわ」
「最高ね。わざわざ不良品を引き取ってくれたのだもの」
伯爵家の三男だった元婚約者は多情な男で、結婚前から愛人が何人もいた。婿入りなのに身綺麗にする気は無く、寄生して金を吸い上げて愛人に貢ぐつもりだったのが判明したので、ロディローズはリリエンラーラに協力を頼んだ。
始末の仕方はリリエンラーラに委ねられていたので、欲しがりで少しばかり愛情が重い、一度捕まえたら手放さない女に面倒な男を横流ししたのだ。傍にいられても困るので。
あんな男を選ぶなど我が父ながら見る目が無いと姉妹揃って呆れたのは随分と前のことである。
「お姉様に毒を含ませたプレゼントを贈った令嬢の行く末は堪らなかったわね」
「二度と日の目を浴びることは無いものね」
侯爵家の地味な姉と侮ったどこぞの令嬢から贈られた誕生日を祝うプレゼント。そこに含まれていた毒は皮膚を爛れさせる物であった。
リリエンラーラは華やかな見た目とは裏腹に薬学に精通している上、鑑定眼と言う特殊な目を持っていた。もちろん、その目の事はロディローズとリリエンラーラだけの秘密である。
にこやかに傲慢に姉から奪い取ったそれの中身を鑑定したリリエンラーラは、贈り主に同じ毒で返した。
顔の肌を爛れさせた令嬢は哀れにも治すことなど出来ず領地に引きこもっているそうだ。
リリエンラーラの鑑定眼は人にも物にも有用で、姉の為に使う事を厭わなかった。
「健気なわたくしの婿になりたいと言う男が増えたのよね。面倒だわ」
「そして私はお姉様を虐げる酷い妹と言う評判のせいで、結婚相手が見つかりそうにないわね」
「望んでいるのでしょう?」
「ええ。このフロリアンの地から出ていきたくないの。叶うならばグリモルの森の傍で暮らしたいのよ」
薬学に精通しているリリエンラーラは植物をこよなく愛する引きこもりの性格をしていた。
華やかな見た目をしているせいで社交的のように思われるが、本質は引きこもりである。
それに対して、姉のロディローズは中々に癖のある性格で欲深い。見た目が地味だから侮られやすいが、矜恃の高さは人一倍あった。
二人はお互いに見た目が逆なら、と思いもしたが、ロディローズの性格でリリエンラーラの外見だと間違いなく悪女となっていたことだろう。
それはそれで面白そうではあるが、あえて地味な見た目でどこまで人を騙せるかを楽しめるようになってからは、見た目を気にしなくなった。
「グリモルの森ねぇ。わたくしが家督を継いだら貴方の為に屋敷を建ててあげましょうか?」
「本当?お姉様!大好きよ!」
人を見る目の無い父は、婿の選別が下手だが、リリエンラーラの嫁ぎ先の選別も下手だった。何故そこにするの?と呆れ返る程に愚か者しか選ばない所為で、ロディローズはそろそろあの父を排除しようかと考え始めていた。
「リリィ。貴方は貴族であることに拘りは?」
「無いのをご存知でしょう?私は好きなように薬を作ってお姉様に売ってもらう。それで良いのよ」
「なら、平民になっても問題無いのね?」
「ええ。煩わしい社交界に出なくても良くなるのね」
うっとりと夢を見るような面持ちで頬を染めるリリエンラーラ。きっと多くの男達は彼女のこの顔を見ただけで恋をするのだろう。
姉であるロディローズですら妹のその艶めいた表情に一瞬心を奪われたのだから。
ロディローズは自分の名に含まれている薔薇色の目は好きだが、平民にも多い枯葉色の真っ直ぐな髪の毛や父と母のそこそこの部分を集めたような顔立ちはあまり好きではなかった。
リリエンラーラのような鮮やかな金色の巻き毛が羨ましくて仕方なかった。リリエンラーラの目は黒で、それだけが惜しいと思っていたけれど、近付いてよく見ればその目には銀の粉を散らし、まるで夜空に浮かぶ星のような独特な煌めきがあることに気付いた。
彼女は母の遠い家系が持つ特別な目を持っていた。
幼い頃、リリエンラーラはその力を発現し、それを恐れてロディローズにだけ話した。
見た目が特別な妹は目も特別で、羨ましく妬ましく思った。
しかし、見えてしまう彼女は知りたくも無いことを知り、人が怖くなった。
ロディローズにだけはその力が働かなかったようで、後に鑑定眼とは別に鑑定阻害と言う力があり、その力をロディローズが持っているのだと判明した。
リリエンラーラにとってロディローズだけは何も分からないからこそ安心出来る存在だった。
成長するにつれて力の制御が出来るようになったリリエンラーラだけれど、幼い頃に植え付けられた人間不信が直ることはなかった。
ロディローズは特別な事が人を幸せにする訳では無いのだと妹を見て理解したし、自分の外見を上手く利用することを覚えてからは好きではなかった見た目を愛せるようになった。
ロディローズはリリエンラーラを利用しているが、愛してもいる。
一心に姉を慕う健気な妹。その彼女は貴族社会で生きていく事は到底無理だと分かっていた。
だから、彼女に悪評をつけて貴族男性が妻にしようと思わない我儘な女に仕立てる事にした。
リリエンラーラを悪く言われるのは気に食わないけれど、健気な姉の皮を被って少しの時間を流してしまえばよい。
第三者からすれば歪んでいるかもしれないけれど、最愛の妹を自由にする為であった。
ロディローズが二十歳になってすぐの事である。彼女は父親から家督を奪った。
邪魔な父親を少しずつ弱らせて隠居させたのだ。母と二人、領地で穏やかに暮らしていれば良い。
二歳年下のリリエンラーラはデビュタントこそしたものの、社交の場には一切出ることはなく、引きこもって生活をしていた。
「リリィ。グリモルの森に建てる屋敷についてなのだけれど」
「え!?本当に建ててくださるの?」
「約束したでしょう?」
「ああ、なんてこと!ありがとう、お姉様!」
女侯爵として忙しい日々を過ごしているロディローズだが、リリエンラーラとの約束を忘れるなんてことはしない。
彼女の求める要素を聞き取り、ロディローズが必要だと思うものを組み込んだ屋敷は侯爵邸ほど大きい必要は無かった。
「リリィ。貴方に紹介したい男性がいるの」
「え?」
「縁談だけれど、嫌ならば断っていいわ。ただ、この方ならば貴方も良いのではないかと思ったの」
美しいリリエンラーラは性格が悪いと思われていて評判は悪いものの、やはり見目の良さに妻へとの希望は定期的に来ていた。
ロディローズはそれらにお断りの返事をしていたのだが、最近王族の一人がリリエンラーラを求めているという噂が出てきた。
貴族でも無理なリリエンラーラが王族などとんでもない話である。
その為、早急に誰かと婚約をさせる必要が出た。
ロディローズが調べたのは、植物に詳しい人間で貴族に拘りの無い三男あたり。
それに適合している男性が植物研究所にいたのだ。話をしてみると、研究所に所属もあまり拘りはなく、寧ろ最近では柵などで辞めることも考えていたのだという。
グリモルの森については知っていたようで、リリエンラーラとの見合いを了承させるのに利用した。
彼はリリエンラーラの噂は気にしないし、口で吐き出す言葉と内面は同じように思うし、浮気はしそうにない。
ロディローズ的には「見た目と中身が合わない人間二人目」とその男を見ていた。
リリエンラーラと並んでも見劣りしない、銀の髪の毛を腰まで伸ばし、深い青色の目をした美貌の男は、全く見た目を気にしていなかった。
女侯爵相手だからこそ多少は身繕いをしたと分かるほど、着るものにこだわりは無さそうだし、髪の毛は適当に括られていた。
リリエンラーラは外には出たくない引きこもりだけれど、オシャレは年相応に好きなので、この男の方がより外見にこだわりが無いのがわかった。
リリエンラーラとその男――セルヴェイの顔合わせは上手くいった。少しばかり人見知りの傾向にあるリリエンラーラだったが、二人の共通点が植物であり、お互いにグリモルの森の傍で生活したいという希望が合致したのだ。
グリモルの森は古くからある神秘の森で、豊かな植生なのだが、「森の主」と呼ばれる人ではない存在によって守られているという伝承がある。
手付かずなのは、そうならざるを得なかったからで。
きちんと決まり事を守ればグリモルの森は牙を剥かないし、恵みを分け与えてくれる。
意気投合したリリエンラーラとセルヴェイ。ロディローズはにっこりと微笑みセルヴェイの親と話をまとめて婚約を決めた。
セルヴェイの実家は子爵家で、何の間違いが派手な見た目で生まれてきた三男を持て余していたのもあり、ロディローズがリリエンラーラの婿として求めていること、平民にはなるけれど候爵家の支援の元で生きていくことを伝えると、あっさりとセルヴェイとの婚約を許した。
セルヴェイの顔の良さは兄二人の劣等感を煽り、また、両親もあまりにも似てないセルヴェイに夫は妻の不貞を疑ったこともあるそうだ。
部分ごとを見れば両親それぞれに似ていて、配置の奇跡での美貌だったのだが、まったく理解していなかったようだ。
だからこそセルヴェイは家族への期待は無いし、貴族へのこだわりもない。引きこもって人の目がないところで静かに好きなことをして生きていたいと思っていたようだった。
グリモルの森の傍に建てた屋敷が完成した頃、リリエンラーラとセルヴェイは結婚した。
教会でロディローズだけが見守り人として参列したとても小さな結婚式。ドレスは派手なのは嫌だということで簡素にした分、生地などにお金を注いだ。
これが遠くに離れるというのならばロディローズも悲しむのだが、如何せん領地内に住むのだから感傷も何もない。
視察と称して会いに行けるし、納品として彼女達が来ることだって出来る。
リリエンラーラが平民になったと言うのは社交界にすぐに広まり、ロディローズは「英断なされたのね」と見当はずれの賞賛を与えられた。
リリエンラーラの希望で彼女は平民になったのだが、大抵の貴族令嬢や夫人は自ら平民になるなんて事は考えられないのだろう。
まあ、リリエンラーラは身分こそ平民になったけれど、生活は貴族の時とさほど変わっていない。
使用人はいるし、身の回りの世話もしてもらっている。数は減らしたけれど、料理人や下働きもいるのだ。
リリエンラーラの希望は貴族として社交をしないことだけど、貴族生活を捨てたい訳ではなかったのだ。
裕福な平民であれば使用人を雇う事もある為、彼らの生活が非難の対象になることは無い。そもそも、グリモルの森は人の多い街や村からは離れているので、非難する人すら居なかったのだ。
雇われている者たちも穏やかな生活を望んでいる者が選ばれているので不満などない。
ロディローズは周りからの的外れな慰めを聞きながら、そろそろ不仲な姉妹による恩恵から次の方法に移行しなければと考える。
ロディローズは未だに婚約者の居ない未婚の令嬢だ。
嫁ぐならば若い方がもちろん良いのだろうが、既に彼女は侯爵である。子供を産むことを考えれば後三年以内には結婚、そして出産はしたいところだ。
大切で可愛い妹が居なくなった屋敷は寂しい。
ロディローズは改めて婿入り出来そうな男性を探した。出来るならば、顔の良い男。
セルヴェイは確かに美貌の男であったが、ロディローズの好みではなかった。ロディローズの好みは男らしい顔立ちの男だ。
背が高く、体格も良く、出来るならば騎士のような男が好みだ。だが、領地経営をするロディローズの補佐が出来るだけの才能も必要だ。
筋肉だけで全てを解決するような男も悪くはないけれど、ロディローズが子を産む際に代理をしてもらう際に困る事になるのは分かっている。
本日参加しているのは公爵家の夜会で、パートナーのいないロディローズは叔父にエスコートを頼んでいた。
父の弟である叔父は自由な気質を持ち、若い頃に「商会を作って大陸中の国を巡って仕入れしながら旅をしてくる!」と言って家を出て行った男だ。
あまりにも自由過ぎて、彼の身を守る為に祖父が子爵位を与えたので、一応彼は名ばかりの子爵である。
定期的に国に戻って来ては立ち上げた商会の方にばかり顔を出していて侯爵邸には滅多に来ない。
そんな叔父をなんとか捕まえたロディローズは、叔父を飾り立ててエスコートさせている。
各国を巡り自由に生きる彼は年齢よりも若く見える上、その人脈はとてつもないものになっている。
叔父でなければ理想的な男なのに、とロディローズはいつも悔しい思いをする。見た目は勿論、その才能も何もかもが完璧なのに、唯一の欠点が叔父であることなのだ。
従兄弟は許されても叔父と姪の結婚は、この国で禁じられている。
実は、叔父は養子だったりしないかと調べたりもしたのだが、父と同父母の弟であることに間違いはない。
ロディローズの初恋は叔父だったせいで理想が高くなってしまった。
「そう言えば、俺の息子がこっちの国に来たいとか言っててさ」
「はい?」
女性達に囲まれる時間を乗り越え、叔父と共に壁際で休憩していると、突然とんでもない発言をぶつけられてロディローズの動きが止まった。
今の今まで叔父は独り身を謳歌していると思っていたのだ。
「あれ?言ってなかったか?ローレンヌに子供が二人いるんだ」
「結婚したとは聞いていませんが」
「結婚していないからね」
あっさりとそのように言う叔父によると、ローレンヌの子爵家の跡取り娘はどうしても子供が必要だったが、結婚はしたくなかった。
国内の男だと面倒な事態になりかねないが、かと言って平民でいい訳でもない。
そこで叔父である。
他国の高位貴族の生まれで本人も名ばかりではあるが爵位を持っている。身分や後ろ盾がありながら他国の人間、さらに色々な場所に移動しているので一箇所に留まることは無い。
必要なのはその子爵令嬢の血なので、その人は叔父に「子種だけくれ」と頼んだ。
結果として子供は出来たのだが、万が一の為に二人という話で、一旦その国を離れて仕事をし、数年後に再び子を成した。
結婚はしていないが子の父親としての認知はしており、子供達ともローレンヌに行った時には顔を合わせていたようだ。
全員が納得済みの関係で、長男が結婚して子供が出来た事で下の子はスペアの役割を果たした。
身の振り方を考えた時に実父の国への移住を考えたとのこと。
関係は良好で、この国では考えられない自由さにロディローズは驚いた。
「どうされるの?」
「こっちで働きたいなら俺の養子にするかなぁ。実の息子だけど結婚はしてないからな」
そんな話をして二ヶ月後、その叔父が息子を連れてロディローズの元にやって来た。
本格的にこちらの国に移住を決めた従弟はロディローズの二歳年下で、リリエンラーラと同じ歳。
「ハーヴェックと申します」
国によっては挨拶の所作も変わるのだが、こちらの国に合わせて振る舞う彼はまだぎこちなさが残るものの、初々しいと感じて微笑ましく思った。
そのハーヴェックを見てロディローズは衝撃を受けた。
叔父によく似ている。というか似すぎている。
「ロディローズと申します。貴方とは従姉になりますわね。何か不便なことがあればわたくしに仰って。叔父様は不在なことが多いですもの」
「有難く存じます」
ロディローズが見上げるほどの上背に鍛えられた体。男前な顔立ち。
叔父は金の髪の毛をしているが、ハーヴェックは母親の色なのだろうか青みがかった黒髪で、それがまた色気を出している。
「お仕事先は決まりましたの?」
「いえ。父の商会に暫くは身を寄せようかと」
「そう……ならば、わたくしの所で働くのはいかが?」
養子縁組が済んでいるのならば彼は子爵令息である。実母の家も子爵家で貴族として育って来たのだから基礎はある。
「事務のお仕事は出来るかしら?」
「実家では兄上の傍で学んでいましたが……それは子爵家相応でしかありません」
「やる事は基本的に同じよ。ねえ、叔父様。ハーヴェック様をわたくしに預けて下さらない?」
「ふぅん……ロジーはこいつを使えると思ったのか?」
「ええ。それに、エスコート役にもぴったりでしょう?」
まあ、ロディローズは好みの男を傍に置きたいという、実に不純で己の欲望に忠実な考えに従ったのだが。
そんなロディローズの本音を叔父はしっかりと把握したらしく、目を細めてにやりと笑った。
「見ての通り体格がいい。俺と打ち合えるだけの剣の腕がある。そしてあっちの家で頭の方も鍛えられている。使えるだろ」
「素晴らしいわ」
完璧!
ロディローズの頭の中では盛大に教会の鐘が鳴り響いた。しかし、それもすぐに収まった。
ロディローズはハーヴェックを魅力的な男性と判断したが、ハーヴェックにとっては違う。地味な外見を利用しようと振舞ってきたけれど、本質としてやはり華やかで綺麗な妹と比べると女としての魅力に欠けていた。
一目で心に熱い炎が宿ったロディローズだけれど、瞬時に炎の勢いは落ち着いた。
ロディローズは理性を手放せるほど愚かではなかった。冷静な判断が出来るからこそ、弱冠二十歳という若さで父親から家督を奪い取ることを許されたのだ。
「本当に宜しいのですか?こちらで働かせてもらっても」
「勿論よ。ここでしっかりと実務能力を磨けば、もしかしたら婿入り先も見つかるかもしれないわ」
本当は自分が欲しいけれど、この国には魅力に溢れた令嬢が多く、ハーヴェックとてそちらに心惹かれるだろうことは簡単に想像出来たので、ロディローズは自分の為に自衛した。
国が違えば所作が異なるし、好まれるタイプが変わると言うのをロディローズは正しく理解していなかった。
叔父はありとあらゆる国へ赴きその事を知っていたけれど、ロディローズに教えることは無かった。
知らせない方が面白いことになると思ったからだ。
ローレンヌではこの国で地味と言われるような令嬢がとても好まれていた。清楚可憐で守らなければならないと思うような、男心をがんがん刺激するのだ。それに、茶色の髪の毛はローレンヌの国神、大地と豊穣の女神の色として尊敬されている。
ロディローズは気付いていないようだが、ハーヴェックはロディローズをガン見している。ガン見だ。
叔父にとって姪はどちらも可愛い。リリエンラーラは結婚してグリモルの森で幸せに暮らしてるそうなので心配はしていないが、ロディローズは兄を蹴落として侯爵家を立派に治めている努力家である。
幸せになって欲しいと当然思っている。
ローレンヌの男はとても一途だ。そして一度結婚した相手をどこまでも愛し抜くので重い。 ハーヴェックの母であり、叔父が子種を提供した女性は、そんな重すぎる愛情に耐えられような性格ではなかった。
だからこそ叔父を選んだのだ。
ハーヴェックはローレンヌの男だ。一度定めたならば揺らぐことは無いし、この国の男のような軽薄さとは無縁である。
叔父はにやにやと笑う。未来を思い浮かべて。
半年後、ロディローズは婚約者を定めた。ハーヴェックである。
ロディローズの補佐として働くようになった彼は、近い距離を活用してガンガンとロディローズに自分を売り付けた。
元々好みのタイプど真ん中のハーヴェックにそんな事をされたロディローズが抵抗出来るはずもない。
ロディローズは自分がいかに性格が悪いのかもハーヴェックには説明したのだ。これから長く共にいる結婚相手に隠すのは悪いと思って。
しかし、そんなロディローズにハーヴェックは笑みを浮かべて言い切った。
「可愛いじゃないですか」
と。
ローレンヌの女性に比べたらなんて可愛らしい性格なのだろうと思う。何せあちらの女性はとても苛烈なのだ。
ロディローズのしたことなどちょっとしたいたずら程度。誰も傷つけていない。いや、一人顔を傷付けたが自業自得なので数には含まない。
姉妹で自分たちの望む理想的な未来を手に入れる為の策略でしかない。
ハーヴェックは、ロディローズの妹への劣等感から生じた歪んだ性格も全部が可愛いと思っていた。
因みにもう一人の従姉妹であるリリエンラーラはハーヴェックの好みではなかった。その夫のセルヴェイとはバランスがいいな、と思うものの、やはり綺麗で可愛いのはロディローズだと頷いていた。
そしてリリエンラーラも「お姉様の愛らしさを理解出来るなんて中々じゃないの」とハーヴェックを認めていた。
リリエンラーラは姉至上主義で姉を馬鹿にする男は許さない過激なところもあるので、ハーヴェックの見る目を素晴らしいと評価した。
社交界では我儘な妹に振り回され、婚約者もいない内に家督を継ぐことになり苦労している健気なロディローズが、一途で過剰なまでの愛を注ぐハーヴェックと婚約した事を祝福した。
ロディローズの夫ともなれば侯爵家の豊かな財を使えるともあり、多くの男性に狙われていたが、訳ありではあるものの間違いなく叔父の血を引く従弟のハーヴェック以上にロディローズを守れる男性はいない。そう女性からは思われていた。
きちんと身についている貴族としての所作や、叔父からもたらされてきた様々で豊富な話題。見目も良くそれでいて愛する女性に一途なハーヴェック。この国の軽薄な男性と比べてなんて素晴らしいのだろう、と評価が高くなるのも当然だった。
「ローズ、疲れていませんか?」
「ええ、大丈夫よ」
ハーヴェックはローレンヌの男ではあるが、叔父の息子でもあるので楽しい事が好きだ。ロディローズが社交界で遊びたいのならば付き合うつもりだと言ったので、ロディローズはならばと願ったのだ。
ただ一人を愛し抜く一途な男に愛されている女として注目されたいわ、と。
ハーヴェックは「普段通りに振る舞えばいいですね」と笑いながら頷いた。
少し前までは世間では地味な姉、華やかな妹、と比較されている不仲な姉妹として見られていたロディローズ。
これからは一途に愛されている健気な女として見られていくことになるだろう。
ロディローズとリリエンラーラはとても仲良しです。
二人の父親は見る目が無さすぎて詐欺師とかにも騙されたりしやすかったのでロディローズに排除されました。
婚約者選びとか全部ダメダメ。
叔父は「兄上は悪くはないけど駄目なんだよなぁ」と思ってます。その癖飛び出して行ったあたり叔父もダメ男ですけど。
ローレンヌでは未婚の母から生まれた子供は珍しくないです。男が重すぎて無理、ってパターンはあるので。相手の身元がきちんとしていたら問題無いです。
セルヴェイは美人系の美貌の持ち主で、自分の顔面は好きではないですが、何だかんだ綺麗なものが好きなリリエンラーラが顔も好きでいてくれるのでまあいいかと思うようになりました。
性格とか好きなものが合致するところから始まっているのでお互いに愛し合ってます。多分子供の顔面は輝く。




