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給付行政 走馬灯サポートサービス

作者: qmmkruz
掲載日:2026/03/31

短い行政SFです。気軽にどうぞ。

1.背景

市井での認知度は低いのだが、行政には

「走馬灯サポートサービス」というものが存在している。

このサービスは戦前よりも前、それこそはるかな太古から、

その名称は時代に合わせて変われど、部署自体は連綿と続いてきた。


市民に親しみやすい名称をと、「マイナちゃん」が着任した頃に

現在の名称となった。

大事なコトなのでもう一度言う、市井での認知度は低いのだが。


尚、「マイナちゃん」バリにマスコットキャラクターもある。

三つ子の子馬をモチーフに、ジュリアス・シーザーの名言を絡めた

「きたくん、みたちゃん、かったさん」である。

市民の皆さんも、どこかで一度は見たことがあるはずだ。


ちなみに「マイナちゃん」には、右耳だけが赤いレアキャラが存在する。

通称“赤耳”と言われている部署のヤツだ。速度は通常の3倍らしい。


かくいう私はこの部署に所属のSEである。

名前はまだない、正しくは漢字で「磨多名井」である。

夏目さんちの猫とは違う。まぁ、夏目さんちの猫も最近は

名前がついてるらしいのだが。

4文字姓はハンコにしづらいよね。


こんなんでも、おじさん、けっこーゆーしゅーだったんだよ。

でもまぁ、逃げて、壊れて、請われてここへ…そんなトコかな。

アレな感じで言えば“稀によくある”ハナシなんだよ。


さて、行政にメスが入る、というかナタでぶった切られるのも

珍しくない昨今、ついにこの部署にも“改善”という名の触手が

延びてきた。

触手曰く、「有料オプションサービスの提供による収益化」

とのこと。


最近、タブレットを使えるようになったとはしゃぎ気味の

某デ〇タル省大臣キモイリの思いつきらしい。

ああ、キモイリは名前じゃないよ、念のため。

この間、政治家仕様のタブレットをリモートで代理操作する方法を

教えろと、ヤツの秘書さんがやってきていたのは内緒だ。

一杯奢ってもらったからな。



2.仕様

まずは、有料オプションとしてどの様なサービスを

提供するかを考える。

誰にどういった益を提供するかを、利用者視点からも

併せて。これテストに出ます。


そもそもこのサービスは、初期の「帰ってきた〇ルトラマン」

の様に利用者が“死にかけている”タイミングでしか

発生しない。

だから利用者からの声が届きにく過ぎる。


走馬灯と言えば動画だ。

動画を閲覧者がどの様に見ているか、どの様に見たいか、

そして提供サイドがどの様に収益を得ているか。

最近の動画界隈から抽出すると、以下のオプションが

妥当と判断された。


1)走馬灯再生速度の倍速・3倍速化(音声は自動補正)

 映画ですら倍速で見るという近年の、特に若年者の

 「タイパ」重視に寄り沿う。

 後述の2)とは選択制の機能とする。


2)高解像度化(4K・8K対応)とハイレゾ化

 最新の設備と技術の導入により、映像の高精細化と

 音声の非圧縮化を実現。

 より生存確率を上げたいという声に、映像音声の

 鮮やかさを以て対応。

 前述の1)とは選択制の機能とする。

 尚、互換性の面から従来のSD画質も対応するが、

 先々でのサービス終了を検討する。


3)AIによる最適化

 利用者の現在の状況(事故・病気・寿命など)に応じ、

 表示する経験の優先順を自動調整。

 例:転落事故 → 過去の落下経験を優先して表示。

 現状の候補として、純国産AIの「TR〇N」を検討中。


4)登場人物の60%または80%美形化

 近年のルッキズム重視を尊重、高解像度化に伴う

 登場人物のルックスに、直視する利用者が耐えられる様、

 美形化を行う。

 ただし、不気味の谷への迷走を避けるため、美形化には

 上限を設ける。


5)再生後、直近の睡眠時間における“夢中リプレイ”機能

 走馬灯を夢の中で追体験して検討、記憶を整理することで

 今後の糧とし、生存確率の向上を図る。


6)事後オプション:転生モノ主人公体験(要事前登録)

 走馬灯の再生終了から目覚めるまでの間、本人参加形式の

 “異世界転生風の夢”イベントを提供。

 レパートリーはともかくストーリーは右肩上りに増加中。


以上が収益化に向けた、有料オプション仕様の全貌である。



3.発注

現在システムメンテを担当している

“株式会社もろともシステム開発”への発注が妥当。

迷ったら前例、迷わなくても前例。

お・ね・が・い、したから「もろとも」さんも

気持ちよくOKしてくれたはずだよ、多分。

これぞまさにWin-Win。


「現行保守ベンダーへの追加発注」の申請なんだから、

はよ通して、決済。

時刻は18時10分前、まだパソコンを閉じる時間じゃないよ、上長さん。



4.リリース

真理。

親と予算は超えるモノ、餅と納期は伸びるモノ。


今回も例外なく、開発期間は伸び、予算を超えた。

「今後も良いお付き合いをしていきたいですね」と

ご挨拶を差し上げたら、「もろとも」さん、半々負担の

ご提案。

折角のご提案、断るのもカドが立つから、ね。


納品物は一応“おっけ”判定。

リリース日は追って連絡。当日は全員待機ヨロシク。

「何かあったら徹夜だから、宿泊の準備はイラナイヨ」

とかは、言ってはナラナイ。


さて、有料オプションの料金設定を予想。

プレミアムは600円、Unlimitedはさらに980円が妥当か。

お試し期間は1か月、その後は自動で有料オプション契約に

移行する形態とする。

ア〇ゾンの優れた様式美だね。


…オプション契約ってどこでするんだっけ。

多分、「マイナちゃん」達がモロモロを決めるんだろうから、

予想は止そう。


もう一度言う、予想は止そう。

…最近は無表情が美徳らしいな。



5.不具合報告

不具合がある様だ。走馬灯に記憶の無い映像が

流れるとのこと。

ああ、「もろとも」さんに指示しないと。


「それでね、もろともさん。

 まずは現象の再現からやってくんないかな?

 再現させて発生条件を明確にするってのが最優先なの。

 きちんと修正されたことを、証明しないといけないからね」


「3倍速だと聞き取れないとか、美形になっていないとかは

 “おま環”、“おまスぺ”、“おま感”だから

 対応しないでいいよ。

 不具合じゃなくて仕様だからね。」


と、「やらないこと」も同時に伝えるのが吉。

コミュニケーションに齟齬を持ち込まない、持ち込ませないのは

アレと一緒。


※注

 おま環:あなたの環境に原因

 おまスぺ:あなた自身のスペックに原因

 おま感:あなたの感想ですよね



6.調査結果と対応

今回の対応において発生した不具合である。


【原因】

1)登場人物の美形化処理

 特定条件下において、利用者の顔にも美形化処理が

 かかる場合がある。

 美形化処理のかかった利用者の顔と、マイナちゃん

 システムに登録済の顔画像とのマッチングにおいて、

 利用者とは異なる人物を抽出してしまった。


2)AIによる経験の優先順最適化

 利用者と異なる人物のほうが、利用者の状態に

 “より適した経験”を持っていた場合、AIはそちらを

 優先して表示してしまう。


まぁ、テストケースの不足、だね。

正しく組むのは当たり前。正しく動くことの証明、

それが品質につながる。

そして、テストケースってのは、想像力がモノを言う。

想像力の低さは品質の低さに繋がる。これは絶対だ。

そしてテストの実施には、決して小さくないパワーを要する。


でも、仕事は一人でするものじゃない。

互いをカバーしあって、80点を取れれば上出来なんじゃね。

知らんけど。

悪しき完璧主義者ってのは不幸だね、本人も周りも。

かつての俺…まぁ、それはいい。どーでもいい。


ちなみに「利用者の顔にも美形化処理がかかる」ってことには

言及してくれるな。

「走馬灯なのにどうして利用者自身が?」と言いたい気持ちは

わかる。

でもこれ、根底が「行政バグ」絡みなんだよね。だから、

このハナシはこれでお仕舞。


【まとめ】

結果として「よりよい経験」を表示したことにより、

利用者への不利益は生じていないと考える。


発生頻度が低く、対象者への不利益もないため、

修正対応の優先度は低いが、以下の理由により対応を行う。


A)個人情報の流出

 利用者とは異なる人物の経験は、個人情報足り得るため。


B)グリッチとしての利用

 利用者とは異なる人物の「よりよい経験」を得られる

 不具合をグリッチとして利用する可能性がある。

 これは、実際に報告が上がっているので要捜査。


C)“株式会社もろともシステム開発”の瑕疵期間である

 契約上、瑕疵期間となっている。契約上、ね。



7.修正版の適用

20XX年6月吉日に修正版を適用。

以降1か月間、件の現象は発生していない。

開発元からは、本不具合発生の経緯と分析の報告も上がり、

こちらの承認も得ている。

よって、本不具合の対応は完了とする。


今今の不安は、システムを知るキーマンの定年による

技術と技能そして知識の喪失だ。

特に致命的になりそうなのは、走馬灯の抽出元へのアクセス、

いわゆるアカシッ…明石焼で一杯いくか、今夜は。

げふんげふん。

まずは、キーマン達のシルバー再雇用作戦の検討が。


例の秘書さんから聞いたところによると、この

「有料オプションサービス」、官僚や公務員が強制的に

加入させられている、らしい。給与天引で。

税金と書いて「アイ」と読む。

あれもアイ、これもアイ、たぶんアイ、キット。


さて、グリッチ野郎にお便り、お便り。

読んでくださり、ありがとうございました。

次回は「グリッチ野郎」サイドのお話をば。

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