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召喚されましたが、農業スキルしかないので農業します

作者: 神泉せい
掲載日:2026/02/01

 私の名前は菜野なの春奈はるな。ごく普通の十八歳。

 自動車免許を取ろうとしていた矢先、異世界に召喚されちゃったの。待って、料金は払い込み済みなの! 運転してみたかった!

 なんでせめて仮免を取得して、路上教習するまで待てないのよ!!!


 さて、召喚されたのは教習所のお迎えバスを待っていた二人。私ともう一人の女の子。ワンピースに明るい茶色の髪、今日は学科の講習を受けに来ていたんだって。

 私はジーンズにシャツというラフな格好で、黒い髪を一つに結んでいた。

 召喚された先は王宮の召喚の間。

 マンガとかで見るたび疑問だったんだけど、最強スキルのヤバい人が召喚されたら、城が制圧されちゃうんじゃないの? もっと人里離れた孤城とかですればいいのに。

 王様も臨席してるし、この世界の人達は危機意識が薄いと思う。席取りに荷物を椅子に置く日本人に、言われたくないカモだけど。


「神官長、どちらが聖女なのだ……?」

 王様がおひげの神官長に尋ねた。神官長の左右には、バチカンの衛兵かなっていうカラフルで派手な縦縞たてじま模様の服を着て、槍を持った兵士がいる。

「鑑定してみましょう……、おお、茶色い髪の方が聖女様です。黒い髪の方は……、大地の民と出ています」

「聖女よ、名はなんという?」

 王様が黒髪の女の子の前に進んで、質問する。彼女は泣きそうな表情で王様を見上げた。

星月ほしづきみなと……です。ここはどこですか? あなたたちは誰なの? 私を帰してください! 授業に遅れちゃう!!!」

 もっともだ。とにかく帰りたい。


 帰ることはできない、聖女の役割は結界を張ること、などお決まりの説明がされるのを私は隣で聞いていた。ヒアリングだ。

 なんとなく神官長の横にいるハデハデ兵士に目をやると、彼らは黙って異邦者である私たちの様子を窺っていたわ。心配しなくても、噛み付きません。


 ……で、現在。

 私は馬車に揺られている。

「ごめんね、付き合わせちゃって」

「いいえ、ハルナ様。ちょうど家族が怪我をしてしまったので、仕事を辞めて帰るところだったんです。ハルナ様の支度金を預かっていますし、お世話をすれば報酬ももらえるんです。いくらでも頼ってくださいね」

 彼女はフラビア。キレイな金髪の女性。年齢は私と同じで、私の生活を助けるのに一緒に来てくれた。

 聖女ではないからと放り出されることはなく、お金と案内人、それから彼女の住む村に、家と畑付きの土地までくれるという。ちょうど都会に働きに出ていった一家が使っていた、空き家があるんだって。

「使えないから追放じゃないんですか?」

 と尋ねたら、そんな非人道的な対応は有り得ない、との答えだった。そちらの世界ではそんな非道が当たり前なのか、と戦々恐々とされたよ。地球の評判を落としてしまった、ゴメンよ。


 村まではお城から五日。レンガ作りの建物が続く街並みを抜けたら、畑が続く。その先の草原には小さな花が咲き、のんびりとした風景が広がっていた。

 穏やかな道のりだなぁ。ヨーロッパとか、こんな感じなのかな。

 移動しつつ、フラビアからこの世界の常識を教わる。なんと、この世界には魔法があるらしい!

 私は大地の民なので、土や植物に関する魔法が使えるだろう、とのこと。

 土を掘る魔法、植物を成長させる魔法、水を出す魔法。

 魔法を使うには祈りの言葉に魔力を籠めて、唱えればいいらしい。いくつかの定型句を教わったので、落ち着いたら試してみたい。


 目的の村に近い大きな町で、服や食料や日用品、農業に使う道具や種を買い込む。もらえる家にタンスやテーブルなどの家具は置きっぱなしだというので、買う必要はないみたい。 

 最初の五年は生活に十分な補助金がもらえ、それ以降は最大二十年、状況に応じた補助金がもらえる。わりと手厚い。

 フラビアに賃金が支払われるのは、五年だけ。その間に友達を作り、収入源を確保して、生活の基盤を整えないと。

 もらった家は先に連絡済みで、すぐに使えるように掃除されていた。庭はさすがに草が凄いけど、屋敷畑と、離れた場所に家が何戸も建つような、畑作用の土地があるという。


 まずは家の使い方を教えてもらった。

 釜やコンロみたいなのがあり、火は魔石で起こす。水は井戸から汲む。

 家の裏に井戸があり、つるべってヤツを落とすのかとドキドキしていたら、ポンプがあったわ。なるほどなるほど、……これでも大変だ。桶に汲んで、家に運ばないといけない。

 私の魔法で水は出せる。ただ、飲み水にはあまり適さないんだって。

 試しに煮沸して飲んでみたよ。なんだろう、苦みがあってちょっと美味しくない。お腹を壊すわけではないらしい。お風呂や家事には使えるね。


 その日の夕食は台所の使い方を実地で教わりつつ一緒に作り、フラビアと向かい合って食べた。食事が終わると、フラビアはここから二百メートルくらい離れた場所にある、実家へ帰る。

 深夜は車の音の代わりに、鳥や獣の遠吠えがする。雰囲気はいいんだけど、一人で過ごすには不安だなあ……。街灯もないから、外は真っ暗。離れた民家からぼんやりともれる明かりがあるだけ。

 泊まっていってくれてもよかったのにな。

 

 次の日、早速私の畑に案内してもらった。森の近くで、開拓すればその分も広げていいんだって! 知ってるその制度、墾田永年私財だよね。

「すっごい、こんな広い土地! 開拓かあ、木をどうしたらどかせるんだろう……」

 馬車で聞いていた時はやるぞーと気合いが入ったけど、実際に太い木を目の当たりにしたら、どかせる気がしない。昔の人はどうやって開拓したのさ……。ショベルカーがないと無理じゃない?

「まずは草取り、それから肥料を入れて耕して、種まきをするんですよ。開拓は、軌道に乗ってからにしましょう」

「了解です! 草……スゴいよね。いきなり全部は無理だから、種をまくところだけやるね!」

「私も手伝いますね。ただし夕方は早く帰って、家の食事を作りますから」

「助かるよ、異世界のやり方は分からないし」


 家庭菜園ならした経験があるから、少しはできるはず!

 草は腰より高くなってるけども!

 背の高い草を取っては小脇に抱えて、畑の脇に運んだ。カゴに入る長さではなかった。大量で山になっているのに、それでもなかなか野菜作りを始めるほどの場所にはならない。一日で手にマメができてしまったよ……。カマの柄は木で、硬いんだもん。

 それにしゃがんだままの仕事だから、足腰が辛い。休憩をこまめに挟みつつ、四時間足らずでギブアップ。ずっと地味な刺激があったからか、手がじんじんする。

 草取りだけで一日が終わった。


「……慣れないと、こんなものですよ」

 早めに終わりにしたので、私以上に働いてくれたフラビアが、帰る前に野菜を煮たものとスープを作ってくれた。

「疲れているのに、ごめんなさい……」

「思ったより作業時間が短かったんで、大丈夫です。……最初から頑張り過ぎても続かないですよ、明日は村にあるお店へ行ってみましょう」

 心遣いが胸に染みる。

 次の日は彼女が来るまで目が覚めず、起きても腕が痛かった。腰もなんか辛い……。いつかは慣れるのだろうか。


 村には一軒だけ個人商店があり、種や苗、ちょっとした食べ物、日用品などが売られていた。お肉はない。もう一度言おう、お肉はない。

 お肉! お肉は大きい町にしか売ってないの……!??

「あの……お肉は……」

 店主の男性に、恐る恐る尋ねる。

「ああ、狩りの連中が売りに来た時だけだから、いつ入荷するか分からないんだよ」

「でもあるんですね、良かったアァァ!!!」

 あまり大げさに喜ぶものだから、連れてきてくれたフラビアも店主も笑っている。疲れるから、お肉は絶対に必要!


「フラビアちゃん、この娘は友達かい?」

「実はね、バントンさんが住んでいた家に引っ越してきたの。新しい住民よ」

 紹介されたぞ、名乗らないと。

「ハルナです。宜しくお願いします」

「宜しく! これからはご近所さんだ、何かあったら頼ってくれよ!」

 男性はそう言って、引越しの祝いだと食料を分けてくれた。都会に出て行く人が多いから、住民が増えるのは大歓迎みたい。村に溶け込めそう、良かった。


 それから二日でようやくそれなりに場所ができたので、肥料を入れて耕せる段階になった。肥料は馬糞。藁を混ぜて肥料にしたのを、馬を育てている人が売ってるんだって。

 馬糞を運んで、平らにならすだけで肩がヤバい。刃が三つに分かれた、三本鍬さんぼんぐわの刃が短いヤツを使った。草取りの倍は肩が死ぬ。

 平らに広げたら、草木の灰もまいて耕す。耕すのは魔法なのだ!


「大地の神様、この硬くなってしまった大地を、柔らかくしてください。土に恵みを与えてください」


 魔法というか、祈りだなあ。

 ゴゴゴッと音がして、畑の土が耕運機で耕したように柔らかくなっていく! ただし、盛り上がった場所があったり、端っこはそのままだったり、キレイに平らにはできなかった。

「初めて使った魔法ですよね!?? それでこんなに広範囲をキレイに……、さすが召喚された方です! すごい、神様に愛されているんですよ!」

 イマイチかなと思ったけど、フラビアがとても褒めてくれる。初心者にしてはいい感じっぽいな!

 この世界では魔法が上手なことを、“神様に愛されている”と表現したりするらしい。慣用句かな。


 次は種まきだ。すぐいていいのか不安だったけど、魔法を使うと土の状態が良くなるから、みんなすぐ蒔くんだって。

 まずは作りやすい、小松菜やほうれん草などの葉物野菜。種まき機がないから、手でやらないと。

 指の関節一本分あるかないかの浅い溝を作って、種を一、二センチ離すように蒔き、土をかぶせる。

 これ……何十メートルもやるんだあ……。

 農業って根気が必要だね……。種を入れて機械を押すだけで済む、種まき機は売ってないかなあ。


「全部やるのは大変だから、木を植えようかなあ……。ブルーベリーとか……」

 疲れ切った私の呟きに、フラビアがそれもいいですね、と笑った。

「それなら植物を育てる魔法を教えますね。果樹の人が使うんですが、使いすぎるとダメになるから注意して」

「そんな便利な魔法があるなら、教えて!」

 成長魔法、果樹の人しか使わないってなんでだろう。

 夕方近かったので、フラビアはこの魔法を教えてくれた後、帰っていった。明日は家族を医師に診せる日なので、来られないとか。


 次の日、一人で畑に行った私は、耕してまだ使っていない森側に早速ブルーベリーの苗木を植えた。ちょうどお店にあったのだ。柑橘類やブルーベリーを自分で食べる用に、庭に植える人もいるんだって。

 上手くいったら増やして売るぞ。気合いが入るわ。


「大地の神様、小さな木に祝福を。大きく大きく育ちますように……」


 苗木とはいえ、私の背丈に近いブルーベリー。大きく育つよう、一生懸命に祈った。葉を揺らして少し背が伸びた気がする。効果は明日分かるんだよね。

 さて、播いたばかりの種にも成長魔法をかけた。私の魔力は普通の人も何倍もあるらしいので、畑全部だってかけられそうだよ。

 なんだか疲れが出てきたので、今日はここで終わり。寝よう。身体が疲れすぎて、めっちゃ眠れる。


 夜が明けるのを待ち、魔法の効果が楽しみで意気揚々と畑に行くと、そこは一面の草原だった。畑はまた元の草だらけになり、ブルーベリーは昨日とは比べものにならないほど木が大きく、幹が太く育っていた……。

 ブルーベリーの木って、こんなに大きくなるの? それとも魔法だから? 木が育ちすぎたら収穫できないじゃん……。木ばかりに栄養がいってしまったので、実も少ない。育てるだけではダメなんだ。

 それに考えてみれば、畑全体の作物を生長させたら、勝手に生える草なんてもっと育つに決まっていた。

 魔力が無いからしないんじゃなくて、やり過ぎると大変なことになるからやらないんだ……。


 ほうれん草も小松菜も、育ちすぎて真ん中で蕾をもってしまっていた。

「うわああぁん……。草取り頑張ったのに……」

 立ち尽くす私の後ろに、フラビアがやって来た。

「やっちゃいましたねえ、ハルナさん。果樹の人しか使わないのは、こういうわけなんですよ。魔法を使うなら、一つ一つにかけないといけないんです。雑草はただでさえ強いですからね、種なんて蒔かなくても出てきます。農業の仕事の半分は草取りですよ」

 除草剤って、なんて偉大だったんだろう。家庭菜園をする時に、使いたくないとか言ってごめんなさい。今、本当に欲しいです……!!!


「やり直し……ですね」

「でも小松菜の蕾は食べられますよ。チンゲンサイのも、おいしいんです」

 あ、そっか。小松菜の蕾も菜の花として食べられたっけ。

 蕾を収穫して、スープの具とおひたしにした。

 畑はまたやり直し……。初めての収穫は、切ない味がした。

 ブルーベリーは、フラビアのご家族が伐採してくれることになった。魔法でここまで急成長させると根っこを張れないから、倒木の危険があるんだって。


 フラビアの提案で、草は全部取らず一部をキレイにして、かぼちゃやトウガンなどの、ツルが伸びる野菜の苗を植えることにした。

 ツルを伸ばす場所は、草をそのままにして魔法で耕してしまう。草刈り機があれば、ガガガーっと刈れるのにな……。

 苗には一つ一つ、強化魔法をかけた。少し育てて、苗を太く強くする。育てすぎると、無駄なツルを切るタイミングを逃してしまう。すると種の部分ばかりが多くなって、可食部が少なく甘味も薄く、美味しくないかぼちゃになってしまうとか。

 カボチャなどの実は時間を掛けて育てなくてはならないので、苗木をある程度成長させたら、もう成長魔法は使わない。覚えた。覚えたよ。


 美味しい野菜を育てるには、お世話をしないといけない。日射しや大地の栄養を受けて何十日も何ヵ月もかけて育つ作物が魔法の力だけで即育ったら、栄養も旨みもない、他人の魔力の残滓ざんしだけになってしまう。

 フラビアに教わりつつ、恐る恐る無駄なツルを鉄のハサミで切り落とした。切ったら取り返しのつかない怖さがある。

 マクワウリはないのかなあ、手軽なおやつになるのに。


 そうやって少しずつ仕事を覚え、疲れすぎて寝坊し、休んでいると具合が悪いのかと心配されつつ野菜を作った。農家の人達、働き過ぎだと思う。休みたいって言うと用事があるのって聞くんだよ。

 何もしたくないから、休みたいの!!!

 異世界観光する気力もないよ……。


 今年はネギに挑戦したい。この世界のネギは、白身が短い。鍋をするのに、やはり白身がたくさんあるネギが欲しい!

 ネギの白身は、土に埋まって日を浴びなかった部分なのだ。

 つまりクワで掘れば……掘れば……。一メートルが長い……!

 短い距離しかできず、そこにネギを植えた。ネギが育ったらまず肥料を撒いて平らにし、さらに育てて土をかける。半年もかかったわ。育つ間にまた草取り。

 手でやるのは本当に大変なんだ……。

 頑張りすぎて起き上がられなくなり「これが引力……?? 世界が私を引っ張っている……。空気が重い、なんかの修行部屋だったかも……」と、お腹が空いても布団から動けなかった。

 布団の中で、土を耕す魔法を改良して、上手に掘って畝を作れるようにならないか、考えていた。


「お疲れですね。マッサージの人、呼びましょうか?」

 いつのもように訪ねてきたフラビアが、気だるく体を起こす私に暖かい笑みを向ける。子供扱いな気もしないでもない。

「助かるー!!! そういうの、ないと思ってた」

 異世界ファンタジーにあまり出てこない職業よね。機械がない農業は大変さが段違いだもの、体のメンテナンスは絶対必要! 機械があっても必要なんだから!

「この国では、目の悪い人に人気の職業なんです。午後から来てもらいますね」

「それなら私が行った方がいいんじゃないの?」

 無理に歩かせて、事故にでもあったら大変。車はないが馬車はあるし、村は一軒一軒が離れていて、道に迷いそう。

「慣れているから大丈夫ですよ」

 そんなものかなと思うが、断言するんだし平気なのよね。


 午後になってやってきたのは、私と同じくらいの年の女の子だった。

 完全に見えないわけではなく、明るいところならうっすらぼんやりと見えるらしい。仕事も村での移動も、何度も繰り返して覚えているんだと、堂々としていた。

 確かにマッサージ上手だわ、ストレッチみたいな動きもある。日本で受けたマッサージと、大差ないよ。

「フラビア、ハルナさんを紹介してくれてありがとう」

「そのうちみんなで食事しようよ、ハルナ様もお友だちが欲しいって言ってましたよね」

「言った言った~、この世界には知ってる人なんていないし。仲良くして欲しい!」

 マッサージ師さんは私が召喚されたと聞いていて、他の世界のことを聞きたいと言っていた。


 話題もあるし、ゆっくりお話したいなあ。

 そういえば仕事ばかりで、友達と遊んでない。新たな友達が増えたし、私の異世界ライフはこれからよね……!

読んでくださってありがとうございます。

魔法だからって簡単に収穫させねえよ???

という気持ちで書きました(笑)

しかし淡々として山がないですね…

これ以上書いても盛り上がりそうにないので、ここで終了です。

お付き合い、ありがとうございました。

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