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大公立志伝  天狗の章  作者: みょ~じ★


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堺×純綿×用心棒(後)

 そして、新九郎が「怨霊」と断定した謎の姫らしき姿が向こうへ行ったことを見届けた次郎一行五人は再び船着き場まで歩いていき、無事船に乗り込んだ。

 乗り込んだ、までは良かったのだが……。

「妙だな」

 妙だ、とつぶやいたのは、新九郎であった。彼女は、船に乗っている最中、船酔いでもしたのか終始無言だったのだが、ようやくといったていでつぶやいたのが、それであった。案の定、その発言は別の人物、用心棒や次郎などが反応した。

「お嬢、妙とは一体?」

 桂川の上流より淀川へ向かい流れるこの川船は、船であることを考慮しても確かに速いものであった。少なくとも、彼女の実感として、宇治川よりも早い流れというものが桂川を流れているとは到底思えず、故の「妙」であったのだが、まだ供回りの用心棒は気付いていないようだった。

「いや、桂川の流れは斯様なものだったか?」

「は、桂川の流れがおかしゅうございますか」

「ああ、妙に速い、というか……」

 少なくとも、彼女の経験則からしたらその船は非常に速いものであった。別にいつも桂川の船着き場を使っているわけではなかったが、それだとしても、いつもに比べ、今回乗船しているものは非常に速く、当然不快と言えた。

「お気づきになられましたか」

 そして、船の速さに対しての新九郎のつぶやきが聞こえたのか、船頭がそれに対して返答した。その顔は温和に見えたが、目は笑っていなかった。

「どういう意味だ、船頭」

 少しの警戒心と共に、問答を交わす新九郎。その顔は、容貌の美しさもあって極めて迫力あるものであった。

「つまりは、こういうことでございます」

 温和な顔のまま、船頭が何の予備動作もなしに新九郎に攻撃を開始した。

「!」

「お嬢!!」

 とっさに、動いたのは用心棒の一人だった。船を動かす櫂で思いきり遠心力をつけて殴った船頭に対して、用心棒の一人がその櫂を切り倒した! いくら櫂が木製だからとしても、用心棒の腕前と装備している太刀が数打かずうちのような粗悪な量産品ではなくそれなりに逸品である高級品、つまりは大業物おおわざものたぐいであるからこそなせる技術であった。

「ちいぃっ、この一撃を外すか!」

 急ぎ、二つ目の攻撃を開始しようとする船頭に対して、用心棒の二人目が思いきり船頭の胸倉を蹴倒した! 強かにたたらを踏む船頭、船に慣れた身だから落ちたり倒れたりすることこそなかったものの、形勢は明らかに不利と言えた。

「殺しても構わんが、前後関係が知りたい。吐くなら命だけは助けてやらんでもないぞ?」

 立ち上がった新九郎がそう告げたのに対して、船頭は次のように吐き捨てた。

「冗談、前後関係吐かされたらここで生き延びてもどうせ殺される、手前の首級しるしでも置いてけやぁ!」

 と、言い終わるか否かといった頃合いに、船頭は体重をかけ飛び上がり、同時に船を思いきり揺らして落下を誘った。たまらず、用心棒の一人が落下する。日本の川は流れが速くとも川幅は短いし、浅瀬にたどり着ければ命に別状はなかろうが、とっさに、つまりは今この場で戦うことはできなくなった。

 新九郎達に緊張が走る。飛び上がってどこに着地するか。上を見る用心棒と周囲を見渡す用心棒。だが、一向に船頭が着陸しない。どこだ、どこに行った。と、その時である!

「さて、このガキがどうなってもいいのかな?」

 着陸した振りすら見せないまま、いかにして回り込んだのか。次郎の喉元に何かを当てて新九郎に迫る船頭。次郎も油断していたわけではなかったのだが、いかんせん先程の怨霊姫の存在を現世の者であると勘違いするような現代人である、眼前の船頭もまた、()()()()()()()だとは思っていなかったらしく、迂闊にも背後をさらしたようだ。

「次郎!!」

「し、新九郎、さん……」

「しゃべるな、ガキ」

 刃を立てる船頭。新九郎にとっても、情が移っていたのか、あるいはまだ使えると思っていたのか、定かではないが次郎がここで殺されるのは都合が悪かったようだ。だが。

「お嬢、あの小僧は大切なんですかい?」

「!」

 三人の用心棒の中で、明らかに格落ちと判断されていた人物が、動いた……。

「動くな、殺されてぇか!?」

 船頭が、若干の威嚇をもってその用心棒を睨み付けるが、その用心棒はひょうひょうとした態度で次のように告げた。

「出番だ、キハチ」

「ほいさっさあ!」

 突如として、轟音を立てて割れる船。それは意外なことに、周囲から破損で割れたのではなく、中央から……つまりは、船底から上へ向かって、爆発したかのように割れた。

「うわっ……!?」

「平助はお嬢を、俺は小僧を助ける!!」

「お、おう」

 平助と呼ばれた用心棒が新九郎を、冴えないと判断された格落ちが船頭めがけて奔る。船頭が二の句を告げないうちに、掌底を放って次郎から船頭を引きはがし、続いて足技——動きからして、震脚だろうか――を使い船頭を沈みかけた船からさらに遠方へと蹴り倒した! 新九郎も、一応武士ではあるのだが伊勢の苗字の通り、どちらかと言えば算盤で戦う方が得意な類であるし、剣術も使えることは使えるのだが、どちらかというと頭脳戦の方が得意であって、剣術は道具の一つと割り切っていたこともあって今の動きが見えなかった。

「……今、何が起きた?」

「あとで説明しやす、お嬢は川岸まで跳んで下せぇ!」

「わかった!」

 思いきり船の縁を蹴り桂川の川岸まで跳ぶ新九郎、そして船は沈んだ……。

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