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出会いと脱出

 かさかさ という音がかすかに聞こえた気がした。

 途端、自分の状況を思い出し、恐怖心が芽生えその場にかたまった。


 なになに!怖い、どうしたらいいの、神さm は頼れないし・・・


 とりあえず、少しずつ顔を動かし辺りを見わたしてみると、

 突然、目の前に物体が現れた。


「ぎゃぁぁぁっっ」  バシッ! 


 あまりの近さと、見えた色がほとんどの人が嫌いであろう

 "Gから始まる例の生き物”と既視感を覚え、思わず手を振り回しはたいていた。


 手触りを不思議に思い、落ちただろう方向をむいたら、宙に浮いた黒い物体から手のようなものが2本出ており、バンバンと己を叩いて汚れを落とすようなしぐさをしていた。


 何だあれ?

 じっと見ていると、ぷんすか怒りながらゆっくり近づいてきた。


 それは、真っ黒な装束に包まれた2頭身の"黒子くろこ"であった。


 そういえば、何か餞別をくれたんだっけ?


「こんにちは」


 小さくキャラクターのような見た目に少し気を落ち着けて、先ほどの行いを申し訳ないと思いながらとりあえず声をかけてみた。


 会話できるのかな?


 はっ!?とした様子で、たたずまいを整え 

 ぺこっ とお辞儀をかえしてくれた。


 かっ かわいい!

 とても礼儀正しい。そしてなんともかわいらしい。

 こういうたぐいのぬいぐるみは好きなほうで部屋に飾ってある。

 子供のころは、かわいい妖精のようなキャラを連れている主人公が、正義の為に戦うアニメを見て、あの妖精が欲しいと両親にねだったこともあった。


「もしかして話すことはできないのかな?」

 お辞儀以外何もない為、聞いてみた。姿のせいか幼い子供と話しているような口調になってしまう。

 両手を〇(まる)の形にして首をコクコクと縦に振っているのでそのようだ。


「神様が言っていた役立つものは、きみの事?」

 同じように手を〇にし、首を縦に動かしている。


「きみは何ができるのかな? 魔法とか?」

 気まずそうに手を胸の前で✖にしている。


 えぇ~、だめかぁ

 がっくりとあからさまに肩を落とし、うつむいた。



 黒子 (くろこ)って、見えないお約束の上、演者の手助けする縁の下の力持ち的な人だよね?

 確かに昔からある役立つ大切な役割だけど、舞台上での話であって結局は普通の人間の事なんだけど・・・


 自分には何の力もくれなかったのだから、神からの贈り物である黒子には何かできるはずだと願うもむなしく終わった。やはり人間を賭けるような地球の神様なだけあり、たいした考えもないうえでの行動だったようだ。

 この状況ではもっと役立つ物があっただろうとまた一つ恨み言が増えた。


 あんな奴に期待した自分がばかだった。

 少しの期待もしてはいけないとより心に刻んだ。



 私のしっている物語で異世界転生が起こった時は、異世界(日本)の知識を使い主人公が奮闘するする姿がよくあったけど、ここは森の中、独りぼっちで、知識をひけらかす相手すらいない。いるのはちいさい黒子だけ。

 しかも部屋着に裸足という最悪な現状で先も見えない今、前向きな気持ちになれずにいた。



「はぁー。ここで死んだらどうなっちゃうんだろう」 

 一抹の希望もなくし、ぽつりと口からこぼれていた。



 視界の端に映った黒子に意識をもどすと、うつむいたまま動かないでいる私にどうしたらいいのかわからず、少し困惑しているようだった。

 話せないし、黒衣をまとい顔も見えないけれど、感情が豊かで思っている事が不思議とわかった。



 ふいに黒子が小さい手を伸ばし、おでこのあたりをペチペチと叩いてきた。

 様子を見ていると、なでているつもりらしい。


 なぐさめようとしてくれているのかな?

 思わぬ行動に自然と口角が上がり、クスッと笑みがこぼれた。

 おかげでやっと現実を見ることが出来そうだった。


 気を取り直すために

 すぅー、はぁーと一度、深すぎるくらいに深呼吸をした。


「そういえば、きみは何もの? 妖精とか精霊?」

 ひとつずつ、言葉を区切り反応を見ながらゆっくり問いかけた。

 黒子は考えながらもゆっくり精霊の所で〇を作っていた。


 似たようなものということかな?


「ずっときみ呼びは変だし、名前を教えてほしいのだけど」

 手は✖になっている。


「教えられないとか、無いのかな? なんでもいいなら、くろこさんって呼ぶね。」

 呼び名はどうでもいいようだ。今度は〇の手になっている。




「たしか、そのうち家に帰れるようなことを言ってたよね。 とりあえず森から出ないと、このままずっといるわけにもいかないし。」

 くろこさんも首を縦に振っていた。


 わずかな希望を見出して、ひとつ目標を新たにした。

 この小さい存在でも、一人じゃない事で気持ちが落ち着き、いつのまにか冷静になれていたようだった。


「動くにしても、まず裸足はヤバすぎる。すでに石ころ踏んで痛いし、このままだと一瞬で血だらけになる」

 そう言いながら今一番の悩みである足元を見つめた。


「え?その葉っぱを使えってこと?なら持ってきてくれるとうれしいな」

 くろこさんが背の低い木から生えている楕円型の大きい葉っぱを指さしていた。

 なるべくこの場から動きたくない為、手渡ししてほしいことをやんわり伝えてみた。

 だけど、首を横に振り再度葉っぱを指さした。


「もしかして触れないとか?」

 俯きながら小さく〇を胸の前に作っていた。


 出来ないことも多いなぁ

 申し訳なさそうにしている相手にわからないよう静かにがっかりした。


 仕方がなく自ら葉っぱをちぎる為、足元に注意しながらゆっくり近づいて、くろこさんの指示どおり両足に靴のソールのようにし周りを何重にも巻き付けた。


「歩き心地はよくないけど、これでやっと歩くことが出来る」

 身動き取れない状態から、動けることになり思った以上に気分が上がった。


「とはいえどっちに進んでいいのか全く分からないな、 町があるほうへ行けるといいけど。」

 すると今度はある方向を指していた。


「そっちに行くと町があるの? 実は道を知っているとか?」

 ニコニコした様子で元気に首を縦に振っている


「えぇ!そうなの?だったらはやくいってよー」


 勢いがよかったせいか、驚いたようでこちらを伺うように見ている。


「ごめん。違うの怒ったわけじゃないからもう一度道を教えてくれる? お願いします。」


 頭を下げながら目だけを動かして反応をみていると、安心したようで同じ方向を指してくれた。


「ありがとう、こっちに行けばいいんだね?」

 変わらず手で〇を作り、首をコクコクと大きく振っている。

 もしかして道案内要員だったとか?


 時々足元の葉っぱを直しながら、私はついさっき出会ったこの精霊の示す方向を信じて、どんどん歩みを進めていた。

 はじめは薄暗いほどの森の中も、陽が昇ってきたのか上から明かりが降ってくるようになってきていた。

 木々の間から陽の光が射している様が有名なアニメ映画さながらで、目の当たりにしているのが信じられないほど幻想的だった。


 しかし比較的まっすぐな道のりで、ほとんど景色が変わらず最初の感動もなくなるのはやかった。



「はぁ、はぁ、ちょっと待って、まだ出口につかない?」

 歩きはじめてから1時間もたたずに、息が切れてきていた。

 もともとインドア派で運動不足な上に、森の中を歩くのには相応しくない格好の自分には厳しいものだった。

 これまでの気持ちの浮き沈みで疲れていたせいもあるだろう。


 もう少しといいたげに、親ゆびと人差し指でユーの字にしながら、片手で私の袖をひっぱってきた。


「本当にもうちょっと? もうだいぶしんどい。」


 今度は両手を胸の前まで上げて、ファイトというようなポーズをとっている。


「これも家に帰るため。いけるいける。」

 なるべくポジティブになれるよう、あえて口に出し自分を奮い立たせた。

 足の痛みや、のどの渇きに気づかないふりをして、再び歩き始めた。




 どれほど進んだ頃か、何も考えずに道標をしてくれるくろこだけに意識を集中しながら歩いていると、突然こちらを一度見てぴょんぴょん飛び跳ねた後、スーッと先へ進んでいってしまった。


「はぁ、はぁ、ちょっ 行かないでっ! 」

 急いで後を追っていくと、一気に明かりに照らされ、樹木は無くなり先に広がる草原と森との境らしき所でこちらに手招きをしていた。


「出口? やっと着いたぁ もー疲れたぁ」

 ほっとしたことで、その場に座り込んだ。


 常に浮かんでいる状態のくろこさんも真似するように足を投げ出し、一緒に地面に座っていた。



「まだまだ、先は長そうだね。」

 森からは出られたが、あたりは何もなく人にも出会えそうになかった。



「そろそろ行こう。」

 とりあえず陽の高いうちに行けるとこまで行かないと!

 ちょうど道筋があるから沿って行けばどこかにたどり着くはず。


 疲労困憊には違いないが、一つ目標を達成できたおかげて、知らず知らずのうちに前向きな考え方になっていた。

 

 休憩もそこそこに立ち上がり、足元を頑丈に止め直し、今度は町を目標に歩きはじめた。


お読みいただきありがとうございます。

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