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イントロダクション

 世界は傷んでいる。

 比喩ではなく、文字通りに。

生まれ落ちたその時には、空は灰色に濁り空気は澱んでいた。

 聖暦0063年。「大崩蝕(だいほうしょく)」と「大嵐(おおあらし)」──二つの大災厄が世界を繁栄から崩壊へと叩き落とした日から、すでに半世紀以上の歳月が流れた。

残された国家は各々に高い防壁を築き、失われた都市の名を数えながら細々と延命している。その防壁の外には、トライヴと呼ばれる怪物たちが跋扈する。

国家は外から侵入してくる異形の怪物から自国民を守っている。いや、守っているつもりだ。

慢性的な物資の不足、瓦解するインフラ、そして溺れた国家と腐った民衆。壁の内側もまた、地獄だった。

 かつてこの大陸には、豊穣の風が吹いていたという。四季は花のように移ろい、真珠海の波は金色の陽光に煌めいていた。人々は歌い、踊り、永遠の繁栄を信じて生きていたそうだ。

おとぎ話のような話を大人たちは話していたが、今の子どもたちは最初から信じてなどいなかった。

 アーデント王国。かつてアーデント及びウルカ連合王国と呼ばれたこの国も、今や真珠海沿岸の小さな国のひとつにすぎない。

内部では王族は分裂し貴族は私兵を抱え互いを罵り合っており、国の中枢から忘れ去られたスラムでは麻薬と死体と武器が、合法と非合法の境界線を曖昧にしている。

これが運命なのだと自分の心をごまかして、生きるので精一杯だと自分の心を麻痺させてる。

 でも……誰もが薄々は気付いてる。ただそれを認めたくないだけだ。

他人の不幸に慣れた人間にとっての日常は、王族や貴族が私腹を肥やし、マフィアが麻薬や奴隷で儲け、兵士が売人と癒着し、民衆が無関心で、神官が説教する。

 こんなことはおかしい、間違っている、失ったものを取り戻せ。

誰かが声を上げなければ。誰かが行動しなければ。でもそれは誰が?

 もう待つのはごめんだ。自分の手で変えるしかない。

 例えそれが、正しい行いではなかったとしても。


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